ざまぁ
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◇
メイマナをパソコン画面越しで慰めていると、先程までの冷徹な気持ちで制裁を加えてやろうという気持ちは薄れていく。
「ズビー!」
「驚かせて悪かったね」
「……本当よ! ユートのバカぁ! 来るのも遅いし!」
散々な言われ様だが真夏がこうやって空回り……いや、間違えた。
まぁきっとこうやってメイマナが空回りするのは目に見えていた。
それでも踏ん切りのつかなかった俺を後押ししてくれたのは感謝している。
だから……手を緩めるわけにはいかないよな。
「留理」
「何よ……!」
毎度GPSで確認していたが、なぜ家に帰らないといったらこいつらは俺の家へ当然のように現れるんだ。
はだけた服を整えてリビングに正座状態の留理と翼くん。
その割には二人とも態度は太々しい。
「こうなってしまった以上、俺はお前とは暮らせない」
「あっそう……! だったらこっちだって考えがあるわ!」
ドタドタと留理は自室に行って戻ってくると手にはノートがある。
「テメーが散々奮ってきた暴力の数々の日記をこっちはつけてんだからな! 暴力夫から逃げるために翼くんに相談に乗ってもらってただけなんだから! むしろ慰謝料こっちが請求してやるからな!」
仮にも夫である俺を『テメー』呼ばわりか。
眉間には深いしわが刻まれ目の下には影ができ、その目は鋭く光り輝いている。
まさしく怒りに狂った般若の様な表情だ。
恐ろしい事にたったこれだけのノートに日記がつけられていただけで裁判となったら俺の心象は最悪だ。
それが日本における離婚問題の現状だ。
「俺は留理に暴力をただの一度も振るった事なんかない」
「……っ! ふるい続けたんだよテメーは!」
「おいクソ旦那! テメーよくも俺の留理ちゃんに暴力振るったな! テメーから殺してやろうか!?」
般若の様な表情で叫び続ける留理に呼応したかの様に翼くんが俺に迫ってくる。
君はこの状況が録音されてるとか考えれないのか?
あ……考えれないから不倫なんかするのか。
一人納得して失笑しかける。
「何がおかしいんだよ! 俺の事バカにしてんのかよ!」
「いや……一人で納得しただけさ。 まぁ君の事で笑ったのは事実だが……この状況はスマホで録音しながら会話してるんだ。 冷静に君達と話し合うためにね」
「ちっ! 腰抜けが!」
精一杯毒づいてはいるが足がプルプルと震えている。
声を荒げる事で自分を大きく見せたい典型的な小心者だ。
「何度も言うが俺は暴力を振るってなんかいない」
「だったら裁判でも何でもしてやるわよ!」
まぁ、妻の不貞行為と暴力夫だとしたら別案件になるからな。
証拠集めが終わってなかったらノートだけでも厄介な問題にはなる。
俺はポケットに入れていたボイスレコーダーを再生する。
そこには『無能、無能』という留理の叫び声、食器やらが割れる音と弱々しく助けを乞う俺の声。
殴られてるのをわかりやすくするために普段から気の弱い夫を演じ続けてきた。
その音声を聞いて留理の瞳の瞳孔が広がって顔が青ざめていく。
「毎回殴られるたびに診断書は出してもらってる。 裁判したら暴行を受けていたと判断されるのはどっちだろうな?」
留理の肌は青白くなり、まるで生気が奪われたかのように見える。
ようやく状況が掴めてきたのか全身を震わせ始めて唇を噛んでいる。
「ちくしょう……アタシになんか興味もたなかったくせにこんな事だけ念入りに……」
「おい! 留理ちゃんを困らせんな! 留理ちゃんはテメーと離婚して俺と一緒になるんだ!」
おっと、翼くんは本当に状況が掴めない子の様だ。
「夫婦の問題に無遠慮に立ちいったんだ。 君にも相応の罰は受けてもらうよ」
感情を押し殺して、視線は逸らさずに努めて冷静に告げる。
「な、何だよ! テメーに何ができるってんだよ」
声を荒げたり、動揺したりと忙しいやつだ。
意外と面白みのある奴なのかもしれん。
「IT系企業の社長なんだって? すごいじゃないか」
「そ、そうだぜ! 俺はビッグな奴なんだ!」
「その実、ただの父親の会社でアルバイト清掃員を勤めている25歳の夢追い人ってわけか」
今度は翼くんが青ざめる。
留理も驚いた様子を見せて翼くんの方に向き直っている。
「ふ、ふざけんな! 俺はお前なんかと違って金持ちなんだよ!」
「そ、そうよ! 旅行のお金だって普段からのホテル代とか全部翼くんが払ってくれてるんだから! アルバイトにそんな真似できるわけないじゃない!」
「そうだね。 彼の父親は資産家でね。 息子かわいさについつい多めにお小遣いを渡してしまっていたらしい」
「え……お小遣い?」
留理が目をぱちくりと瞬かせる。
「翼くん……社長じゃないの?」
「い、いや! これから親父の会社継ぐし問題ないかと思って! ま、まあ遅いか早いかの問題だって!」
不自然な笑顔を浮かべる翼くん。
「ちっ! 余計な事言いやがって! まぁいいどうせ慰謝料とか踏んだくろうって算段なんだろ!? いくらだ!? 500万かそれとも1000万!? どうせ親父が払うんだ! その後俺は留理ちゃんと幸せに暮らすからな! 実質いたくもかゆくもねー!」
追い込まれたのかボンボンを隠す事はやめたようだ。
「そんなに払えるのか?」
「ああ!? テメーみてぇな貧乏人の尺度で考えんな! 慰謝料の相場なんて大した額じゃねえからな! 相場の3倍払ったって問題ねー!」
ギャハギャハと唾をまき散らしながら笑って俺を挑発してくる。
「じゃあ1000万なんて余裕ってわけか」
「ああ! 離婚したら払ってやるよ! 慰謝料で俺を苦しめる算段だったんだろう!? アテが外れて残念だったな!」
「そうか……お父様はもう君に一切援助する気がないと言っていたから、君の懐事情はかなり厳しいと思っていたんだが……そこまで言うなら仕方ないな。 払ってもらうか1000万」
「だから1000万なんて簡単に払ってやるよ!……親父がなんだって?」
「ボイスレコーダーにはきちんと録音されてるからね。 これが世に言う『もう遅い』ってやつかな?」
テンプレの様な小悪党を演じてくれている翼くんに俺も敬意を払ってテンプレのざまぁを返す。
「おい! 親父がなんだって聞いてんだよ!」
心の奥底に秘められた焦りや不安が垣間見える。
翼くんの表情に貼り付けられてるのは間違いなく恐怖だ。
「君のお父様とうちの会社は旧知の中でね。 懇意にさせてもらっている。 俺は技術屋だけど社内の営業と君のお父様と同席した事は多々あるよ」
「は……? は……?」
「ここに来る前に君のお父様とは話をつけてきた。 息子の不祥事は自分で払わせるようにね。 育て方を間違えたと憤慨されて、親子の縁を切ると言っていたね。 更にこの件で自分から援助する事はないと一筆頂いている」
法的効力のある誓約書を取り出して見せると翼くんは血の気がもう無くなって死人の様な顔色だ。
「ん、んなわけあるか! 親父に電話して確かめてやる!」
父親と電話を始める。
声を荒げたやり取りをしているが最終的には向こうから一方的に通話を切られたようだ。
ヘナヘナと腰を抜かしたように座り込むとプルプルと震え始める。
「え……俺、自分で払うの1000万?」
「まぁまだ若いんだ。 これからなればいいんじゃないかIT系って奴の社長に」
口角のみを上げて、おちょくるようにそう言ってやった。
青ざめすぎて、ただの屍のようだ状態の二人は放って俺はパソコンに向き直る。
さて、しばらく話し込んでしまったからな。
ドギツイ昼ドラを見せてしまったメイマナをそろそろ労わねばと声をかける。
「メイマナ。 ちょっと話し込んじゃったな。 まぁ解決しそうだよ」
パソコン画面に向かって話しかける。
先程までは泣き顔だったが今のこの表情はなんだ?
口元をぽかんと開けて目をまんまるくさせて……これは?
「ユート……ここまで用意周到だったのに二の足踏んでるとか……キショ」
「んん!?」
「ていうか……相変わらず執念深くて……やっぱりキショ」
「んんんん!?」
ドン引きしてたらしい。
真夏が空回りする前に、先んじて危険を潰してるといつもこんな感じだったのを思い出した。
「あー! それと!」
アバターがズビシーとばかりに指を刺す。
この動きをするとメイマナアバターの胸が揺れる。
「そこの二人! これ以上ユートを傷つけたら許さないんだからね! さ、さっきのゴニョゴニョ……配信して世間様に顔向けできなくしてやるんだから!」
「……メイマナ。 あんなの配信したら垢バンくらって大炎上だよ……」
「そ、そのくらい怒ってるって事! あー! ユート私の事役立たずの2.5次元だと思ってるでしょ! そうなんでしょ!?」
「ふ……ふ……思ってないよ」
「ぜ、絶対に思ってるじゃない! 笑わないでよー! 真剣だったんだから!」
笑うのを堪えながら、答えてしまったが本音だ。
さっきまでの殺伐とした空気が嘘のようだ。
本当にまずいと思う。
2.5次元の、決して触れる事はできない画面越しの彼女の魅力に俺は夢中になってしまっている。
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