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一週間あわざれば成長もする

その後簡単な筆記試験をさせられた。

一応、転入試験らしく最低限の教育がなっているかどうかの確認だそうだ。


だからって小学校一年生レベルの試験はないだろ。

俺のこと調べたんだったら一応はちゃんと義務教育は受けているんだから。


俺がテストを受けているとなりで、暇だったのだろう四季絵は何かしらの作業をしていた。

紙に難読不可能の文字と厨二心くすぐられるイラストをいく枚も描いていた。


「テストはこれで終了。お疲れ様、井伊生徒。このあとは面接というよりも面談だな。君が今理解している範囲の君の異能について話してもらおうか。その前に少し休憩を挟むとしよう。ここにある物なら好きなだけ食したまえ」


そう言って美杉先生は机の上に置いてあったお菓子やインスタントのコーヒーを勧める。

俺は美杉先生があらかじめ温めておいてくれていたケトルのお湯で自分の分のコーヒーを入れた。


「四季絵もなんか飲む?ココアもあるっぽいけど」


「では、いただきます」


「あいよぉ。美杉先生も何か飲みますか?」


「では、私もココアをいただこうか」


あれ以外、てっきり先生もコーヒーかと思ったのだが、見た目によらないと言ったところか。


俺は二人分のココアを入れる。

ついでだし、このあと異能力の話もすると言っていたし俺の異能力というより心地を少し見せておくか。


「心地、これを目の前の美人先生の前まで持っていってくれ」


俺がそういうと、持ってきた鞄から出てきた宙に浮く金色の球。

心地は自分の形を円盤に変えて、俺の目の前で静止する。

俺はゆっくりと注いだココアと砂糖とミルク、あと適当にココア似合いそうなお菓子を心地に乗っけた。


心地はココアをこぼさないようにゆっくりと美杉先生の前まで移動する。


「これはご丁寧に、それでこれが君の異能力と言ったところかな」


「俺の異能力かどうかと言われれば、はいとは言いずらいですね。この金の球、おれは心地って名付けたんですけど。こいつ自身も普通に自我がありますし、俺の言うことは一応聞いてくれてるって感じですかね」


俺はコーヒーに口をつける。

さっき注いだばかりだから、湯気がたって熱々なのだろうが俺の口には適温に感じる。

うん、苦い。


「『ウェポンタイプ』の異能力と言うわけではないのかな?自分もある程度この業界にいるが意思を持った武器は初めて見たな。ココアありがとう、いただくよ」


美杉先生はココアに渡したシュガースティックをいれてマドラーでかき混ぜゆっくりと口につける。

貴婦人の如きその優雅さに一瞬見惚れてしまいそうになる。


「そういえば、井伊くんがフレイムモンキーに襲われていた時、何も言わずに井伊くんのこと守っていましたね。他にはどんなことができるのですか?」


俺が渡したココアにこれでもかと、シュガースティックを入れる四季絵。

結構な甘党なのは知っていたがそれはもはやココアではなく砂糖水に近い液体だぞ。

マドラーでかき混ぜる音がザリザリってなってるぞ。


「あとは俺の義足になったり、分裂できたり人型になったりできるくらいか。心地ちょっと人型になってみろよ」


美杉先生がお菓子を取り、お盆の形から球体に戻った心地にそういうと心地はフルフルと体を揺らす。

何でだ思っい訳を尋ねようとしたが、人型になってくれなければ心地はしゃべることができないことを思い出す。


「いやだってさ」


「そ、そうですか。井伊くん流石にそれは、いえなんでもないです」


「あぁ、それよりも義足の方を見せてもらってもいいか?」


何やら悲しい人を見るかのような目で俺を見る二人。

何か変なことでも言ったかと考えたが、それよりも俺は立ち上がり美杉先生の近くまで行き長ズボンを捲り上げて二人のリクエストどうり義足になった片足を見せる。


金色にひかる黄金の足。

彩飾されているわけでもなくツルツルに光り輝いているのに覗き込む美杉先生の姿は映らない。


「不思議な物だな、先ほどの金の玉もそうだが自分の姿が反射されない。一体どういう金属なんだ?少なくともこの世界にはない物質、自分は知らないな。井伊生徒の異能力というわけではないのだろう?この足はその金の球みたいに変幻自在に形を変えることは可能なのか?」


「不可能ですね。これは心地の体の一部を俺の足に無理やりねじ込んだそうなので。この黄金の足のつなぎめ、ここから下は触られても感覚がありませんし、心地にもコントロールができません」


俺は黄金の足をさすってそう答える。

美杉先生は興味深そうに軽くため息を吐く。


「異能に目覚めたというよりも意識を持った『異能兵器』にみそめられたと言った感じか。これはまた前例のない異能力者が誕生したものだ」


「すみません先程から専門用語を連発するのやめてもらっていいですか?『ウェポンタイプ』とか『異能兵器』とか『ファムファタール』とか」


文字てきになんとなくわかるやつもあれば『ファムファタール』とかマジでわからん。

今までずっと話の流れ的に流してきたけど、『アウノウン』との子供ができる女の子って解釈でいいんだよな。

『ファムファタール』って実際はどういう意味なんだ?


「ん?ヤァすまない。つい癖でねそのうち授業で習うだろうからこれから渡す教科書で予習するといい。以上が君の異能力のできることか。休憩時間のつもりがすっかり君の異能力についての説明になってしまったね」


「そういえば、専門用語繋がりで異能力全般のことを『アイデンティティー』って、呼んだりしますか?心地のやつが自分の異能力を説明してくれる際にそう言っていたんですけど。」


俺は金の球状態でふわふわと浮いている心地を人差し指でつっつく。

俺の問いかけに対して美杉先生もついでに四季絵も首を横に振った。


「心地くん、つまりその金の球がそう言っていたのかい?その名称はすまないが聞いたことないな。井伊生徒、君の妄想とかではなくてか?」


「そうですね、私も聞いたことありませんねその『アイデンティティー』とやらは、確かにかっこいい名付けではありますが井伊くんの勝手な想像とかじゃなくてですか?」


なんで二人とも俺が妄想だの勝手な想像してだのを疑うんだよ。


「まぁ、そうですけど」


「なるほど、わかった。憂生徒からの質問だ、私も個人的に調べてみるとしよう。それで井伊生徒、君が今把握している異能力はそれくらいかな?だとすれば十分に君は私の生徒になるに相応しいことなった才能を持っている。指示がいるみたいだがその点を踏まえてもかなり強力な異能力だな」


美杉先生はそういうとコップに残っていたココアを飲み干す。

あとは何かどんな状況にも『適応』できる能力を持ってるみたいなんだけど、もう学校に通える資格を有したみたいだし別に言わなくてもいっか。


俺も残ったコーヒーを飲み干す。


美杉先生は少しため息を吐いたあとチラり四季絵の方を見た後に俺に言ってきた。


「あとはそうだな、個人的に四季絵生徒と話すことがあるから、少しだけ退出願おうか。井伊生徒」


美杉先生にそう言われて俺はおそらく何か深い事情があるのだろうと察知し椅子から立ちあがろうとしたが四季絵に腕をうかまれて阻まれた。


「大丈夫です先生。井伊くんも同席してもらって何を聞かれるのかおおかた察しはついていますので」


四季絵の覚悟の決まったその顔を見て俺は座り直した。

この間、流のオネェさんが言っていた四季絵の今後についてだろう。


『ファムファタール』がなんなのかはかじった程度でしか知らない俺でも、今回起こった事件性を流石に軍とやらがなんの改善もしないなんてのはおかしいと思う。


美杉先生はその整った顔を少し曇らせたが意を決して四季絵にいった。


「四季絵生徒、君のそのおっぱいはどうした。ゴールデンウィーク前まではぺったんこだったではないか。まさかこの一週間でそこまで急成長したというのか」


ごくりと唾を飲み込み緊迫した表情の美杉先生の言葉に四季絵は一瞬何を言われたのか理解できなかったようだが、言葉を噛み砕き飲み込めたのか顔が噴火でもしているんじゃないかと思うほどに赤くなり自分の胸を両腕で俺から隠すように抱える。


「いや、これはそのですね。成長したというか元からこのおおきさだったというか!」


こんなにテンパっている四季絵は初めて見た。

先日の燃える猿の一件にすら冷静に対処していたクールビューティーがここまで取り乱すとは。

ん?それにしてもおっぱいが急成長?


「何言ってるんですか?美杉先生、四季絵の年不相応な脅威な胸囲は中学の頃からこんなもんでしたよ。その胸のおおきさと中学生離れした美貌で一体何人の思春期男子達がノックアウトされたことやら。そしてどれだけの女生徒を敵回したことか。ここら辺一体の四季絵に勝手に彼氏取られた連合の女達が四季絵に詰め寄るためうちの中学に殴り込みに来たのは我が中学の伝説となってますから、ハハハウケる。」


俺は四季絵を指さして小馬鹿にして笑った。

俺の言葉に四季絵は立ち上がって、思いっきりの右手ビンタをかましてきた。

俺は椅子ごと吹き飛ばされて、床に勢いよく倒れた。いたい。


「何を言っているのですか、井伊くん!セクハラ、セクハラです!私の胸は確かに大きいですし顔も可愛いことは自覚してますが、人のトラウマを笑い話にしないでくださいよ!」


「うるせぇ、あの狂気に血走った目をした軍ぜいと彼氏または好きな人を取られたというどんなことをしても許されるという免罪符を持った女どもを治めんのに俺がどれだけ苦労したと思っている!笑い話ぐらいにはさせろや!」


今思い出しても寒気がする。

人はあそこまで血走った狂気に走れるのかと。

愛とは恋とはそこまでに人を凶暴化させるものかを俺はその時知った。


「納めるも説得も何も井伊くんがその、私となんて嘘を大きな声で言っただけでしょう!」


「四季絵だってノリノリだったじゃん!あの直後俺お前の親に呼び出されて娘に近づかないでほしいって言われたんだぞ!世界がひっくり返るくらいショックだったんだぞ!というか巨乳であること高校で隠してんのかよ」


「だって、それこそあの時みたいなことになりたくなかったですし、高校では同姓のお友達欲しかったんです。確かに井伊くん達とも一緒にいて楽しいですけどやっぱり異性の方々は私のことことそういう目で見てるのわかってたので」


「それで巨乳を隠したおかげで同姓のお友達はできたのかよ?」


俺の問いかけに沈黙で返す四季絵。

どうやら、ただの屍になってしまったようだ。


「美杉先生、クラスでのこの子は一体どういう感じなのでしょうか?」


フリーズして俯いてしまった四季絵の代わりに美杉先生に尋ねる。

美杉先生も自分に話題が来るとは思っていなかったようで少し驚きながらも答えてくれた。


「四季絵生徒は真面目で優秀な生徒だよ。ただ人付き合いが苦手なのか学校では基本、一人でいることが多いな。自分が受け持っているクラスは今、井伊生徒を抜けば9人、男子生徒4人、女性生徒5人いるのだが、どっちの輪にも入らないというよりもある一定の距離をとっているから『ファムファタール』であることを気にしているからだと思っていたが違うようだな」


「四季絵は完全なる内弁慶です。おそらく、新しいクラスにまだ馴染めていないのでしょう」


「私だって本当はあの話の中に入りたいんです。でも何話せばわかんないですし昔から女の子グループに入れてもらえないですし、この胸の大きさが原因かなと思って高校では隠していたんですけど、胸を小さく見せる下着がちょっと分け合って全て燃えてっしまって新しいのを買いに出かけた時に『フレイムモンキー』に遭遇したんです」


あぁ、だから俺と再開したあの博物館ではデフォルトの巨乳のままだったのか。


「小さく見せる下着そんなものがあるのか。もったいないと、ひとえにはいえないな。自分もこの容姿と抜群のスタイルで困ったことは多かったからな」


うんうん、と深く頷く美杉先生。

全くもって贅沢な悩みである。

是非とも持たざる連中の前で言って欲しいものである。

間違いなく殺されるだけだろうからな。


だいたいなぜ、胸を小さくすれば同棲の友達ができると思ったのだろうか?

四季絵はまず相手に話しかけることから始めなければいけない。

基本受け身だからなぁ、こいつ。


「四季絵生徒のおっぱい巨乳か事件の真相はわかった。てっきり発育を良くする異能力者にでもあったのかと思って焦ったよ。それにしても四季絵生徒、何か言われることに心当たりがあったようだが?」


「はい、この前の『アウノウン』の騒動で何かしらの行動規制とかが私にかかるのかなと思いまして」


必死に平静を取り繕うとする四季絵に美杉先生は優しい笑みで微笑む。


「それに関してはまだ決定事項はないよ。でも安心しなさいな、今まで通りに暮らせるように流後輩が今必死に動いているから。この話はこれでおしまい。井伊生徒もお疲れさん、これ持って帰っていいよ」


美杉先生はそういうと部屋の隅にあったでっかい鞄を机の上に置いた。


「学校で必要となる教材に君の制服。一応軍でサイズを調べたからぴったりだとは思うよ。その入っている鞄も返さなくていいからね」


「あ、ありがとうございます」


なんだ?あまり四季絵の事件のことに関して触れられたくないのか、早口で喋る美杉先生。

俺はもらった鞄を背負って立ち上がった。


「今日は色々とありがとうございました。行くぞ四季絵」


「わかりました。では先生また明日学校で」


納得いかないという表情の四季絵だが、何か言えない事情を察したのかその場に立ち上がる。

入ってきた時とは逆の順番で俺が先に出て、四季絵が後に続く。

鍵はかかっていなかった。


「はい、さようなら」


背中越しに聞こえた美杉先生のその声は少し歓喜を忍ばせている感じがした。


・・・・・・・

学校説明も終わり、井伊と四季絵が部屋から出て行った。


その場に次の待ち人を待っていた美杉はポケットからお気に入りのタバコ出して一本火をつける。

肺の奥に入る煙はゆっくりと美杉の心を不健康と快感で満たしていき、溜まった鬱憤を吐き捨てるようにゆっくりと煙を吐き出す。


「ここは禁煙ですの、美杉先生。それと流はタバコの煙も匂いも大嫌いですの」


そう言って部屋に入ってきたのは水色がみの少女。

年齢に見合わない外見と名家に見合った実力を兼ね備えた、清水 流であった。

彼女は鼻をつまみながら先ほどまで井伊たちが座っていた机に座る。


もちろん、足りていない彼女の身長は地面に足はつくことなく中に浮いて座る。


「待っていたよ、流後輩。それで?自分の新しく生徒になる井伊生徒の身辺調査結果は?」


その問いかけに清水は少し怪訝そうな顔をして持ってきた資料を机の上に出す。

美杉は吸っていたタバコを携帯している灰皿にすて、椅子から立ち上がり資料を手に取った。


プリント数枚に書かれているその内容は以前渡されたものより事細かに井伊の個人情報が書かれていた。


「井伊少年が保護者同伴を嫌がったわけがわかったですの。こんな環境にいれば誰だって嫌がるわけですの」


幼い頃から色々な親戚を盥回しにされ、そのほとんどの家でネグレクトされている。

最低限の食事に生活用品。

挙げ句の果てには中学生になったばかりの子供を汚いアパートに隔離して、最低限の面倒すら見なし、仕送りも決して高い額ではない。


「何よりタチが悪いのは井伊生徒のご両親から継続的に教育費をもらうため、季節ごとの年功行事はきちんと参加させてその写真を送っているところか」


七五三や子供の日、派手な振袖を着る、小さな井伊の写真。

歳をとることにだんだんとその枚数も減っていき最終的には中学の入学式、卒業式の2枚の写真しかない。


「井伊って名字でもしかしてと思ったですの。まさかあの二人の子供とは世の中狭くてやになっちゃうですの」


「このことは井伊夫婦には伝えたのか?」


「言えるわけないですの、息子の幸せを願って身を引いたあの優しいお二人に。でもこれバレるのも時間の問題ですの。この業界にいるとなるといずれ出会うことになるですの」


「だが、異能に目覚めた子供を一般教育を受けさせるわけにもいかない。全く世の中うまくいかない者だな」


天井を仰ぎながら、井伊のことをどうするものかと考える。

このことで一番傷つくのは彼であるだろうし、彼のご両親であるあの夫婦も正気を保っていられるかわからない。


とりあえず自分にできるのは彼らから教育費という名目で金を巻き上げている、くそ親族ととの関係は完全に打ち切らせることである。


「問題は他にもあるですの、四季絵ちゃんというよりも『ファムファタール』のことですの。今回の『アウノウン』、フレイムモンキーの一件明らかに不可解な点が多すぎですの。『アウノウン』が別世界からこちらに来る際少なくとも世界を超える際に小さな歪みが感知されるですの。我々軍はその歪みを察知する技術を扱うことにより彼女たちの安全と一般市民への被害が出ないように先んじて動くことができますの。察知してから『アウノウン』がこちらに来るまで優に1日から2日ほどあるですの」


「それくらいは自分も知っているさ。『アウノウん』が世界を渡る際にできる小さな歪み、自分たち人間と違い装置も使わずに一体どうやって次元に亀裂をいれてるんだろうねぇ」


「それがわかれば苦労しないですの。さらに今回の一件小さな歪みは感知されず、我々は敵に対して先手を打たれたのですの。つまりこれは」


「誰かが小さな歪みを察知する技術をわざと反応しないようにいじったか、『アウノウン』の連中がこちらの世界に来る際に小さな歪みを作らない移動技術を完成させたってわけか」


美杉の言葉に清水はこくりと頷く。

前者ならばまだ内部告発だけで済むが、後者ならそれは厄介なこととなる。

向こうはこちらの技術を掻い潜るさらに高等な技術を持っている。


もし、『ファムファタール』の彼女達に持たせてあるフェロモンを抑えるアクセサリー。

それを無視して関係なく『アウノウン』が『ファムファタール』を察知できるようになれば四季絵のようにある程度の縛りはあるものの異能力者としての一般的な生活を送っている『ファムファタール』の女の子達は一貫して軍の施設に入ってもらわなければならない。


十数年前に起こった悲劇の彼女のような事態になり得ない。


『アウノウン』の数は異世界の数だけの種類がいると言われている、人類が今まで敵対した『アウノウン』は数多くいるが研究者の考えではそれすら氷山の一角と考えているものも多い。

人類はまだ『アウノウン』についてこれっぽっちもりかいできていないのだから。


異なった世界にてどれほどまでに進化した存在がいるという事実を。


「まだこれは未確定な情報ですの。だから美杉先生。他言無用でお願いするですの」


「自分も努力はするがもし今後の被害次第では上に報告せねばならん。流後輩。自分の管轄にいる『ファムファタール』の生徒はともかく流石に全国となると守りきれん」


そう言いながらポケットにしまったタバコに火をつける。

清水がこれほどまでに『ファムファタール』の女の子達にそれも自由に生きたいと願う子達に肩入れする理由を美杉は知っている。


昔自分も世話になったある上官も『ファムファタール』であるせいで大事な物を失ったからである。

上官と彼女達を重ねてしまう気持ちはわかるが、そのせいで今回のように多大な被害が出たのでは元も子もない。

幸い今回は死者0名だったが、今回は運が良かっただけである。

実際、井伊は金の球である心地がいなければ、あの場で死んでいたのだから。


「今日の四季絵生徒には少し驚いたな。あの子あんなふうに喋れる女の子だったんだね」


今日の学校説明会、本当なら井伊ひとりだけで受けるはずだったのだが在校生として四季絵も同席すると言ってきたのだ。

不思議には思ったが別に断る必要もなかったから許可したがそういう理由だったと美杉は納得した。


クラスでは誰とも拘らず黙々と課題や授業をこなすイメージが強く人と馴れ合うのがあまり好きではないと勝手に決めつけていたが、そうではなかった。

自分も教師としてまだまだだなと反省をする。


美杉の生徒になってまだ一ヶ月やそこらしか経っていないのになに、分かった気でいたのだろうと。


「四季絵ちゃんですの?まぁわかりにくい部分も多いですけど根はいい子なんですの。それにしても彼女のナイトが井伊少年とは血は争えないということですの」


「井伊生徒か、写真で見た時驚いたよ。そっくりだったからな。願わくば、子供達には楽しい青春を送ってもらいものだねぇ」


盛大にタバコの煙を吐く、美杉に清水は怪訝そうな顔をしながらいう。


「普通、タバコが嫌いと言っている人も前でタバコ吸うですの!昔から先輩のそういう気を使わないところ嫌いですの」


「いや、昔みたいに流後輩に先輩と呼んでほしくてついやってしまった。あまり無理をする物ではないよ後輩。君には頼れる部下も信頼たる上司も愚痴を吐き合える同期もいるのだから。だから弱みは先輩に見せなさい」


タバコの持っていない方の手で流の頭を撫でる。

流は昔軍にいた頃はよくこうやって慰められていたなと懐かしい気分になる。


「流はもう立派なレディです。弱みは先輩にではなく彼氏にでも見せるですの」


流がそういうと、美杉の撫でていた手がぴたりと止まる。


「え、後輩、お前彼氏いのん!どんなロリコンと付き合ってんだよ、今度紹介して!見てみたい」


「やっぱり、先輩のそういうところ嫌いじゃなくて大っ嫌いですの!」

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