襲われたわけ
場所は変わって知らない建物。
俺はそこの椅子と机が数個置いてあると大きめのホワイトボードが置いてある休憩スペースのようなところで出してもらったコーヒーを飲んでいた。
あのあと、少女の部下と思しき隊員たちに四季絵を引き渡したのち、車にてここに護送された。
少女は現場での指揮があるとかで燃えカスとなった博物館に残った。
あれほどの大火事だったこともあり、多くの野次馬が集まっていた。
その中にはテレビの関係者らしき人たちも混ざっていた。
これ俺、奇跡の生還者としてインタビュー受けれるんじゃね?と思ったがそんなことはなく速やかに車に移動させられた。
この火災にてそこそこの被害者が出たらしい。
少女の部下の隊員たち以外も多くのレスキュウ隊員がレスキュウカーで救助活動に勤しんでいた。
なかなかにゴツい軍用と思われる車の後ろ座席に乗せられた俺は何も言われずにこの建物へと護送された。
唯一隊員に言われたのがこれ飲んで少し待っててとブラックコーヒーを出されたくらいである。
普通この年代の男子にコーヒーブラックで渡すか?
普通コーラとかオレンジジュースとかだろ。
せめて、ミルクとかガムシロップくらいくれよ。
まぁ俺は炭酸飲料苦手だし、ブラックコーヒー好きだからいいんだけどさ。
俺がコーヒーを出されたこと、ここまで送ってもらったことについて感謝を述べると隊員は軽く頷いて部屋から出ていった。
だいぶ無口な隊員さんだったな。
車の中とか気まずくてしょうがなかったぞ。
俺は自分の足元を見る。
片方は特に変哲のない普通の足、もう片方は黄金でできた謎の足。
黄金の足を触るも特に触られた感触もなく、金属特有のひんやりとした温度が手に伝わるだけだった。
俺の足が黄金になったわけではなく、義足としてくっついているみたいだ。
では俺のなくなった足はどこに消えたのだろうか?肩の上に浮いているこの黄金と同じ材質みたいだが謎は深まるばかりである。
もう一方の無事だったズボンのポケットをまさぐる。
入っていたのは財布と携帯電話だけだった。
あぁ、よかった。どっちも逆側のズボンのポケットに入れていたら完全におじゃんになっていた。
俺は携帯電話を開くと通知がとんでもないことになっているのに気づく。
全て幼馴染からの連絡だった。
老若男女ごおうたしのチャットアプリ『ツナガリ』。
お手軽に連絡がとりあえ、電話機能はもちろん、仲のいい友達にギフト券を送ったりさまざまなお店のアカウントを入れればお得情報を常に教えてくれる優れたチャットアプリである。
俺は『繋がり』のアプリを開いて内容を確認する。
内容は概ね。博物館火事になってるけど大丈夫か?お前外で待ってくれてるもんな。早く既読つけろよ笑えない冗談やめろよ。おい、奴哉!
そこからは何度も電話がかけられていた。
俺が生存していることを伝えようと折り返しの電話をしようとしたその時に見知った顔が入ってきた。
「先ほどぶりですね、井伊くん」
先ほどの学校指定の制服ではなく病人が病院できそうな服に着替えた四季絵が立っていた。
凛とした雰囲気はそのままだが体や頭のところどころに包帯が巻かれていたなんだか痛々しい。
顔についた煤がないことや、束ねていた髪が解けているところを見ると一度シャワーか風呂にでも入ってきたようだ。
帯刀していた刀は持ってなく代わりに大学ノートとペンを持ってきていた。
俺は『ツナガリ』ですばやく、『大丈夫、生きている。悪いけど今日の予定キャンセルで』とだけ送った。
四季絵は俺の目の前に立つ。
気まずい空気が流れた。
そりゃそうだ、さっきはへんなテンションで普通に会話していたが俺は彼女の親に言われ、あまり関わらないようにしていたのだ。
何から話せばいいものか、とりあえず座ったら?と言おうと思い口を開こうとした瞬間四季絵は頭を下げた。
「申し訳ありません。私のせいで、あなたを巻き込んでしまったこと深くお詫び申し上げます」
深く深く、頭を下げる。
このまま土下座するいきおいレベルで頭を下げる。
俺は深く息を吸いを吐いてから、一回自分を落ち着けた。
「とりあえず座りなよ四季絵。わけもわからず謝られても井伊くん、頭がこんがらがっちゃうだけだから」
俺がいうと四季絵は顔を上げゆっくりと頷き俺の目の前に座る。
少し呼吸を落ち着いてから、大学ノートを開きゆっくりと口を開く。
「そうですね、井伊くんには何がなんだかわからない状況ですもんね。順をおって説明します」
「まず初めに私を襲ってきた、あの猿。フレイムモンキーというのですがあれは言うなればこの世界の生物ではありません。あれはこの世界とは別の異次元にあると言われる世界にて独自進化を遂げた生物になります。そういった生物を総称して『アウノウノン』とよばれ、この生物たちはある目的をも持ってこちらの次元に来るのです」
元から描かれていたであろう大学ノートの『アウノウノン』という文字を指さす。
相変わらずの達筆で見やすいノート、中学の時はよくこうやって勉強を教えてもらったけ?
「異次元ていうなれば、異世界ってことか?」
「言うなればそうなります。現世とは根本からして混じり合うはずのない平行線のことを言います。分岐した世界。根本を辿れば同じものですね」
「ゴメン、質問しといてなんだけど、全くわからん」
頭を捻る俺に四季絵は踏むと少し考えてから言葉にする。
「パラレルワールドといった方がわかりやすいかもしれないですね?『もしも』の世界線。例えば料理付きの井伊くんにわかりやすくいうと、卵料理ってあるじゃないですか。手の加え方次第ではスクランブルエッグやポーチドエッグ、他の材料を加えればオムライスにだってなります。ですが、根本である卵はおんなじものですよね?これが最初の世界で卵料理になったのは『もしも』の仮定された様々な世界。
器用に反対側から図解を書き込む。
わかったようなわからないような。
「つまり、この世界とは異なった進化をした生物ってことか?」
「そうですね、まだ詳しいことは分かり切ってはいないのですがそのような生物を『アンノウン』という呼称で呼んでいます」
「ふーん、それで『アンノウン』っていう、化け物どもの目的ってなんなの?」
俺が聞くと四季絵は少しフリーズしてからその顔を紅葉のごとく真っ赤に染めた。
あ、これそういうことか。
相変わらずそういった、ことん免疫がないのね、この美少女は。
モジモジと恥ずかしそうに指を組む。
意を結したのか口にその言葉を出そうとするもやはり言い出せずに飲み込む。
「別に言いにくいならいいよ。それにしてもあの燃えている猿、どうやってそういことしようとしたんだろうな、人間の女の子なんてやってる最中に燃えて灰になっちまうよ」
「察してもらえて、よかったです」
真っ赤な顔でうつむして少しホッとする四季絵。
こういう顔を見ると少しいじめたくなるのが男のサガというものだ。
「にしても、マニア向けなエロ同人みたいな設定してんだな。まぁ、さまざまな性癖の人間がいるんだ、そういうこともあるか。ってことは俺が助けに入らなければ今頃四季絵はあの猿におかさ「わぁわぁわぁそれ以上はストップ!ストップです!」
真っ赤になりながら、手を大きく振る四季絵。
目的がエロいことじゃなくて、繁殖っていった方がいいのか?異次元の生物というか『アウノウノン』ってのには性別オスしかいないのかね?
俺が疑問めいた顔を浮かべると四季絵はそれを察したのか、大きな息遣いを一つした。
ついでに顔は赤いままである。
「あのフレイムモンキーは、群れで生活するそうです。そして私を襲った数体の個体はおそらく群れの下っぱクラスの偵察猿だったのでしょう。群れのボスザルはおそらくまだ私を狙ってきてます。彼らの目的は確かにそういった行為も含みますが真の目的は繁殖だけでより強い個体の『アンノウン』を生み出すこと。どうしてなのかはまだ謎に包まれています、生物としての本能なのか強い個体をたくさん従えることにより他の次元の乗っ取りを計画しているものと思われます」
「戦っている時も思ったけど結構知能高かったもんな、あの猿。なるほど必要に四季絵に岩を投げていたのは接近戦は危険と他の群れの猿がやられるところを見て学習したからか」
「学習能力が高いのはすべての『アウノウン』に共通します。あれは経験し考え、工夫して敵を倒す。過去にあまり強くない『アンノウン』を取り逃したところ別次元で成長し軍に多大な被害が出たという記録もありますからね」
「じゃあどうして、そんな奴らが四季絵を狙うんだ?その軍隊の元にいる四季絵を危険を犯してわざわざ狙うんだ?そこらへんの女でもいいじゃん。それとも四季絵が美少女だからか?」
残っていたコーヒーに口をつけて残りを飲み込む。
四季絵はきょとんとした顔を見せ、少し慌てたがまた一つ咳払いをして話を続ける。
「私が美少女かどうかは関係ありません。そうですね、そこら辺が私の親があなたに私と関わらないで欲しいといった理由と今回私が狙われた理由が一致します。なにも『アンノウン』が繁殖できるのは女性であればいいわけではありません。私は『ファムファタール』と呼ばれる、『アウノウノン』の子供を体に宿せる母体なのです」
そういうと四季絵は自分の病院着を少しはだけさせる。
胸の谷間が顕になり、女子高生がつけるにはいささか色気のないスポーツブブがちらり見えている。
思春期の男子としてはとても目のやり場に困るが、胸のところには小さな字のようなものが浮かんでいた。
ハートのようなデザインだがこれがその『ファムファタール』と呼ばれる少女の証なのだろうか?
ジロジロと見る俺に四季絵は羞恥心がマックスまで来たのか病院着を着直した。
いやぁ、眼福でした。
「この紋章が浮きで始めたのが中3の春頃でした。その時も研究は進んでいて『ファムファタール』効力を消す道具は作られていたのですが今回のようなイレギュラーに井伊くんを巻き込まないために私と親しくできるものとはこちら側の人間でない以外は距離を置くようにと両親に強く言われたのです。」
「そういう理由だったんだ。俺はてっきり四季絵家の家柄に見合ってなかったから、友人やめてくれって言われたのかと思った」
「結局、巻き込んでしまいました。本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる。
そんな四季絵に対して俺は顔を上げてくれといった。
「確かに死にかけたし、足も一本なくなって義足になったけどそれはお前のせいじゃないだろう?四季絵も好きであおの『ファムファタール』?ってのになったわけじゃないんだろ?」
「それはそうですけど」
「じゃあ、いいべ。俺は死にかけたり、足の一本なくなった小さい程度のこと気にしないやつだからよ。それよりもこれで俺もそっち側の人間てっことになるんだろ?昔みたいに仲良くできるな」
俺は笑って右手を差し出した。
中学の時、初めて四季絵と友達になった日と同じように。
四季絵もさっきよりは晴れやかな顔で自分の右手で俺の手を握る。
硬く強くもう離さないかのようにぎゅっと握った。
「これからもよろしくな、四季絵」
「ほんと、井伊くんはかっこいいやつなんですから」
にっこりと笑う俺にしきえが苦笑いで返してくる。
こうして俺は久しぶりに友達と再会することができた。