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どうして君がここに

目を開けるとそこは知らない天井ではなく、俺が死ぬ前にいた博物館の中だった。


どれだけの時間が経っただろうか?

周りを見回しても先ほどとあまり変わらない状況。

散らばる展示物、燃え盛る業火に崩れゆく建物。


違うというならさっきよりも息がしやすいし業火の熱も感じない、あと潰された足の痛みもない。

どうなってんだ?さっきから。


死ぬ直前に変な幻覚見るわ幻聴見るわ、これはあれか?未練が残ったから俺幽霊にでもなっちまったのか?

となると、苦しくないのも熱くないのも痛みがないのにも頷けるが。


俺はゆっくり立ち上がる。

両手をの感覚もあるし、視界も良好、足もちゃんとあるから幽霊ってわけじゃなさそうだがって、俺の潰れたはずの足なんだかすごいことになってんだけど。


何?この黄金の足?アイシールド的な奴じゃなくて真面目に金ピカの足。

ほんとに何がどうなってんだよこれ。


黄金の足を見ながら、その近くにあった瓦礫に触れる。

触れるってことは死んで幽霊になったわけじゃなさそうだ。

とりあえず、細かいことより細かいことじゃないが、ここからの脱出が優先だな。


俺に何が起こっているのかは今は後回しだ。


まずは出口がどこにあるかをと周りをキョロキョロ見渡すが、見渡す限り火の海。

出口という出口が炎によって囲われている。


無理ゲーじゃねーか!

どうやってここから脱出するってんだよ、誰でもいいから隠し通路持って来い!


謎にせっかく生きているのにこれじゃあ、焼け死ぬだけだ!

苦しくて死なないだけで結果は同じだ、どこか脱出口はないのか!


必死に辺りを見渡すがそんなものどこにもないわけで、これはもう全身やけどの覚悟であの業火に突撃するかそれとも救助が来るのを待つか、なんて考えているうちにさらに火の海は広がっていく。


天井は完全に業火で覆い尽くされ、上から炎の瓦礫が落ちてくる。

炎の瓦礫は床を燃やし焦がす。


いや、もうこれ俺たすかんないだろ!

むしろ今本当に俺は生きてんのか?

息苦しさも熱さも何も感じないんだが、意識だけがはっきりしている夢じゃねーのかこれ!

じゃあもう、あの業火に特攻しても大丈夫だよな!


逆観やけグソ気味な覚悟を決めたその時、それが視界に入った。


俺の肩あたりの上をふわふわと浮いている金色、黄金の玉。

そういや俺、こいつ抱きしめてからこんなことになってんだっけか?


というか何でこいつ浮いてんだ?

じっと、黄金の球体を除くもとく何事もなく、その球体はメタリックな輝きを放っているにも関わらず覗き込む俺の顔は反射されず映らなかった。


って、不思議現象をまじまじと見ている場合じゃねぇ。

不思議現象ばっかすぎてもうなにがなんだか!


もう現実逃避どころかこの現実を放棄したいっと考えた時に巨大な音ともに何かが吹っ飛んできた。

もう、今度は何よ!


飛んできた物体がきた方向を見るとそこには女の子が立っていた。


腰までありそうな長い黒髪を一本にまとめ、炎の煤で汚れてはいるが凛々しいくも美しい顔立ち。

明らかにその年齢とは不釣り合いなほど発達したその体つきは同年代のほとんどの男子が魅了された。


ボロボロになった学校指定のものと思われる制服を着ている美少女。


俺が彼女の両親に絶縁をしてくれと頼まれた女性。

四季絵 季節がそこにはいた。


彼女は刃が剥き出しの日本刀を杖のようにして何とか立ち上がる。

というかに何ってんのこんなところで。

そんなボロボロになりながら、何かと闘ってんの?


彼女、四季絵が険しい表情で睨むその先にそれはいた。

全身が燃えている。

ほんと比喩とか表現とじゃなくて、全身が燃えている。

顔も体も一部も余すことなく。


炎に包まれているその肉体の輪郭は猿のみたいだ。

大きさも一般的な日本猿ぐらいの大きさだが何だあの化け物、どうやって進化したらあんなふうになるんだ?


猿は近くにあった自分と同じぐらいの大きさの瓦礫を手に両手で持ち上げると徐にそれを四季絵に投げた。


瓦礫は猿の炎を纏い一直線に四季絵に向かう。


四季絵はもはや避ける体力も残ってないのか、それともあの刀で瓦礫を切る気なのか刀を構えて動こうとしない。


俺は気がつけば四季絵の猿の飛ばした瓦礫めがけて走り出していた。

何だよ、何なんだよちくしょう。


間に合え、まにあぇ!

思いっきり足に力を込めるとまるで自分の体じゃないかのように体が素早く動いた。


今までにない疾走力。

これが本当の火事場のバカ力って奴か。


何とか四季絵に炎の瓦礫がぶつかる前に間に割って入れたが大変な事態発生。

がむしゃらにとび出したからここから先のこと考えてなかった。


まじでどうしよう、あの瓦礫受け止める?

あんな炎に包まれているの?

無理だろ物理的に、それに受け止めて止めれるようなもんなんか。


炎の瓦礫すげぇスローモーションに見えてるけど、もうこれほぼ目の前だ。

ちくしょう!どうにでもなレェヤァ!


俺は思いっきりその炎の瓦礫を黄金の足で下からける。

おっも、まじ重い。支えている足が潰れそうなほどにおもい!


くっそがぁぁぁぁ!


ありったけの力を振り絞って瓦礫を何とか蹴り上げる。

蹴り上げられた瓦礫は天井にぶつかり色々な破片と共に降り注いだ。


よし!さすが俺、やればできるやつ!


ゆっくりと振り返ると唖然とした顔で俺の顔を見る四季絵。

何度も目を擦る。

そのせいで、顔についた煤が広がって美人が台無しになっている。


流石に挨拶をしないってわけにもいかないが、かといって何と声をかければいいのか。

こんな状況だというのに俺は若干の気まずいこの空気に戸惑う。


いっそ、あの猿の炎で燃やしてくれればいいのに。


「やっほー、久しぶりだな、四季絵。こんなところで何やってんの?」


少しの間をおいて、自然と口から発したその言葉。

四季絵は、もう一回手で目を擦り、目の前の俺が現実にいるか確かめるように俺を凝視する。


「嘘ですよね?本当に井伊くんなんですか?」


「他にどんな奴にみえるよ?」


少しだけ口角を上げて四季絵に尋ねると四季絵はその汚れた顔を曇らせる。


「どうして、井伊くんがここに?それにその足どうしたんですか?それよりもまさか巻き込まれて、いや、避けてください!」


矢継ぎ早しに質問をかさねる四季絵が最後に叫ぶ。

俺は振り返ると燃えている猿が俺を敵とみなした、俺に向かって炎の拳が眼前まで迫り来ていた。


これはかわせねぇわ。

歯を食いしばり衝撃が来るのを待っていたがその瞬間は訪れなかった。


先程まで俺の肩辺りを飛んでいたきんのたまが燃えている猿の顔面向かってその球体を勢いよくぶつかった。

燃えている猿は吹っ飛びそのまま壁側に激突した。


あっぶねぇ、久々の再会に浸っている場合じゃねぇ。

今心臓がドキドキしすぎてすげぇ、うるさい。


何よりさっきから崩れていくこの博物館、完全燃焼するまでそう時間はかかんないだろう。

息苦しさも熱も感じないけど、そうなったら完全に終わりだ。

その前にあの猿をぶっ倒して、どうにか脱出経路を見つけないと。


「四季絵、感動の再会やら、今まで無視してきたことへの謝罪やら話したいことはたくさんあるんだけど、今はそれどころじゃないのでまた後ででもいい?」


後ろにいる四季絵に尋ねると四季絵も同意してくれたようで一つ頷いてくれた。


燃えている猿は先ほどの黄金の攻撃が効いているのか明らかに弱っている。

フラフラと立ち上がりまたこちらを威圧するような規制を上げる。


「私は今から完全集中モードに入ります。すみませんが井伊くん。私の刀の届く位置まであのフレイムモンキーを連れてきてもらえませんか?」


四季絵は持っていた刀をゆっくりと鞘に収めた。

ゆっくりと呼吸を整えると刀のつかに手を当ててただじっとした。


え?何?あの猿を捕まえろってこと?

質問しようとしたが四季絵はその場から全く動こうとしなかった。


集中しすぎてもう周りが見えてない。

現にすぐそばに天井から瓦礫が落ちてきてもぴくりとも動かずその場で静止している。

凪いている水面の如く。


一撃必殺みたいなもんか、この状況を打破できるんなら何だってやってやラァ!


俺は走って燃えている猿に接近する。

猿は俺に向かってひたすら近くにあった瓦礫を炎に纏わせて投げてくる。

その度に俺は黄金の足で瓦礫を蹴り飛ばす。


疲れてはきたが息は上がらず燃えている猿に接近する。

猿は俺から逃げ惑いながら、瓦礫を投げつけてくるがその内それすらすることもなくなり、ただ逃げることに専念する。


燃えている猿なりに何か考えがあったのだろうが、考え通りに行かなかったのか俺がようやく猿を追い詰めた時に巨大な悲鳴と共に俺に急接近して殴りかかってきた。


俺はこうなることを予想して大火傷かぐごで猿の拳を両腕で受け止める。

炎に包まれたその拳で俺の両腕は焼けることはなかった。


俺は不思議に思いながらもそんなこと考える余裕もなく、ガラ空きになった猿の腹に黄金の足で照りを入れた後にその尻尾を鷲掴んだ。


そのまま、猿をぶん回し季節のいる方向に投げつける。

どれだけ炎に包めれていようと空中じゃあ身動き取れないだろ?


猿は断末魔のような鳴き声を上げながら四季絵の方に飛んでいった。


俺のお仕事はこれにておしまい。

みしてもらおうかね、四季絵さんの必殺技ってやつを。


投げられた猿は四季絵の刀の間合に入った瞬間、四季絵はゆっくりと呟いた。


「四季絵式、居合の太刀、『春節』」


殺意は感じなかった。

一年の始まりの如く綺麗な太刀筋がゆっくりと見えた。


気がつけば燃えている猿の胴体が下半身と上半身で真っ二つに切れていた。


ゆっくりと刀を鞘に収める四季絵。

納め終わる瞬間になった金属音と共に燃えている猿は小さな悲鳴と共に事切れた。


暑さのせいなのかそれとも酸素不足なのか大量の汗を吹き出し、息切れを起こしその場に倒れかかった四季絵を何とかささえる。


支えた時にふんわりとかおる甘い香り、美人ってのはこんな状況でもいい匂いがするもんなんだな。


「お疲れさん。かっこよかったよ、さすが四季絵」


俺がそういうと四季絵は意識の限界だったのかゆっくりと目を瞑った。


これにて一件落着っといけたら、よかったんだがさてもう取り返しのつかないぐらいに火に囲まれているしどうしたもんか。


何がどうなっているかわわからないが俺は今、炎に焼かれない体を手に入れているようだが四季絵はそうはいかないだろう。

と思っている最中、それは現れた。


巨大な水でできた蛇。

いや、形からして竜か?

見た感じキリンよりもだいぶデケェな。


どっちにしろ。燃えてる猿の次は水でできた竜とか、普通そこは鶏だろ。


あれも俺を攻撃してくるのかと身構えたが、そんなことはなく博物館中に広がる炎を水でできたその全身を使って消化活動をする。


消化するごとにその場所から湯気が立ち込め体を作っている水分が減っていっているのかだんだんとその大きさが小さくなっていった。


「あらあらあら、見た感じあなたが季節ちゃんを保護してくれているみたいですけど、一般人?それにしては一般人感がないですの。えっとこういう時はどうすればいいのでしょう?」


甘ったるい声の方を向くと、そこには少女がいた。

軍服のような制服を着てはいるが、その幼い顔立ちにまだ成長期と思われる未発達な体に妙なアンバランス的なげ移出品がある。

ショートボブの水色の髪の毛の上に軍帽をかぶっており、その胸元には多くの勲章がつけられていた。


完全に消化活動を終えた水の竜は蛇どころか小さなヤモリみたいなサイズになって声の主の元に戻る。


「どうすればいいのでしょう!」

少しの沈黙の後、少女は膨れっ面でそう言ってきた。

え?俺に対しての質問だったの?

明らかに独り言だったんじゃん、わかるかよそんなもん。


とりあえず、さっきの猿とは違って敵意も感じないし四季絵の知り合いでもあるっぽいし。

俺は支えていた四季絵をお姫様抱っこで抱えて少女に近づいた。


少女は特に俺に警戒することなくその場から動かなかった。


「とりあえず、自己紹介からしとこうか。俺の名前は井伊 奴哉。そこらへんにいるどこらへんにでもいる奴で四季絵の元友人だよ。お嬢ちゃんは?」


「流は清水 流と言います。対アンノウノン対策軍部、第4部隊軍隊長を務めてます。それであなたは季節ちゃんをどうするつもりですか?」


「どうするもこうするもまずは病院だろ。消防車はお嬢ちゃんが消してくれたからいらないか」


「ん、了解したのです。季節ちゃんは流の部下がそろそろ到着するのでその子たちに引き渡して欲しいのです。ではあなたはどうするですか?」


少女の言うことが正しければこの子は謎の組織の幹部クラスといったところだろう。

全ロリコン諸君憧れのロリ上司という物であろう。


わからないことだらけだし、聞きたいことだらけ。


今まで漫画やアニメでしか見たことないよなとんでも設定を矢継ぎ早しに畳み掛けて現実に起こってもそれを処理できる能力俺は持っていない。


「どうするかと言われれば、できれば保護してもらえると助かるんだけど。俺、お嬢ちゃんが言った通り一般人なんで」


俺がいうと少女は黄金色に輝く俺の足と肩上に浮いている球体を見る。

明らかに一般人らしからぬ格好ではあったが少女はクルッとその場で回れ右をした。


「了解したです。では、ついてくるといいです」


小さな歩幅でトテトテと早歩きで歩く少女を四季絵を抱えたまま追いかける。


黄金の玉、黄金の足、燃える猿に水でできた竜にロリ隊長。


俺ほんとに火事で死んで、元の体のまま異世界に来ちまったのかもな。


なんて、馬鹿なことを考えながら心の中で笑う。

お姫様抱っこをして運んでいる四季絵の寝顔を見る。

黒い煤で汚れているはいるが四季絵の寝顔そのものだった。


教室でよく誰にもバレないようにこっそりと居眠りをしていた季節。

こんな綺麗な寝顔の美少女異世界に行ったっていやしねぇよ。


俺は今まで触れることのなかった現世の中にある超常現象に今日初めて真正面から遭遇したのである。


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