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第2話、回収業務

◇◆◇ AM 8:00、海中 ◇◆◇


 水深90メートルの海底を這うように、二人乗りの潜水艇が進んでいる。

 しばらく進むと、サーチライトの先に一隻の沈没船が現れた。

 先日、マフィア同士の銃撃戦で沈んだ密売人のレジャーボートである。


「タカシさま。ご準備を」


 セミロングの灰金髪をクルっとまとめ、ワンピースの水着にパーカーを纏ったアイリスが、ウェットスーツ姿のタカシに告げた。

 タカシは助手席から立ち上がると後部にある出入口に向かった。

 ――船外活動を行うためである。


「アイリス。ギリギリまで船に近づけてくれ」


 タカシは小型リブリーザーを咥えながらアイリスに答えた。


「おまかせ下さい、タカシさま」


 アイリスは巧みな操船技術で沈没船から2メートルまで近づける。

 防水バッグを持って船外に出たタカシは90メートルの水圧を苦もせず沈没船に取りつき、水中溶断機を用いて、鋼板で補強された船体に侵入口を開けてく。

 ――大人が入れるだけの穴ができると、タカシは船内に侵入し船倉を目指す。

 船倉には多数の貴金属が散乱していて、タカシは一つずつバッグに詰めていく。

 ……しばらくして、防水バックを満杯にしたタカシが潜水艇に戻ってくる。


「アイリス、戻ろう。」


 アイリスはタカシが助手席に座るのを確認してから、潜水艇を発進させる。

 潜水艇は海中を5キロほど進み浮上。

 海上に出ると中古メガヨットを改造した潜水母艦『裕福なサメ』が待っていた。

 アイリスは慣れた操舵で潜水艇を格納庫に入れると、貴金属が詰まった防水バッグを抱えたタカシと一緒に上がってくる。


「成果はどうだった、《《キャプテン》》?」


 出迎えたセリョーガがタカシたちに声をかける。


―― セリョーガ ――

 崩壊した連邦の元水兵で『裕福なサメ』の操舵士兼整備士であり、水に浮かぶものなら何でも扱うことができる海の男だ。そして陸に上がるのを極端に嫌がる。


「パラジウムが30キロだから、200万ドルぐらいかな?」


 タカシはウェットスーツを脱ぎながら答えた。

 結局、屋敷を追い出されたタカシとアイリスは日々の糧を得る方法として、国に帰れず彷徨っていたセリョーガに誘われ回収業を始めた。

 幸い、この島の海域では密売人たちの船がよく沈むので、仕事には困らないのだ。


 ――密輸品の大半はハッパや白粉だが、たいてい海水に浸かって売りものにならない。なので、タカシたちは貴金属を中心に回収している。――


 それ以前に医療目的に限り合法化されているとはいえ、麻薬類を扱うことに禁忌感を抱くのは、転生前の記憶にせいだろうか?と、考えるタカシである。


 ひと仕事を終えたタカシは、グラサンにアロハとショートパンツのラフな格好に着替え、アイリスは水着にパーカを羽織った姿のままソファーに座り、それぞれ好みの飲み物でのどを潤しながらくつろいでいる。……澄んだ空と潮風が心地よい。



◇◆◇ AM10:00、船上 ◇◆◇ 


「キャプテン!3キロ後方から3つの船が接近中だ。……島の陰に隠れていたらしいな。」


 セリョーガの緊張した声が、タカシとアイリスの優雅な時間を終わらせた。

 タカシはグラサンを外し、アイリスと一緒に後ろを見ると、3艇の高速ボートが近づいていた。

 ―超視力を持つ2人には、接近する高速ボートが手に取るように分かった。

 4人乗りのインフレータブルタイプの高速ボートが3艇で、うち1艇には.50口径の重機関銃が据え付けられ、3人が乗り込んでいる。

 残りは4人づつ乗り込み、全員がアサルトライフルで武装している。……どう見ても海賊である。


 ――タカシたちのような回収業者や密売人がいるのだから、それを襲うのは警察やマフィアだけとは限らないのだ。――


「――アイリス。撃退するぞ!」


 2人は船内に戻り、それぞれ武器を持ってくる。

 タカシはフルオートショットガンを持って船尾に向かい、船体に張り付くように身を隠す。

 アイリスはスナイパーライフルを抱えて船橋の屋根に昇り、伏射の姿勢で構える。

 2人とも配置につき、セリョーガは最大船速を維持しながら船体の振動を極力抑える、見事な操船技術である。


 それでも『裕福なサメ』より遥かに優速な海賊ボートたちはぐんぐん接近してくる。

 その距離1キロ。……最初に動いたのはアイリスだ!

 アイリスは不安定な船上にもかかわらず、銃座付きの海賊ボート1に向けて発砲。 

 上顎から上を吹き飛ばされた機銃手が海に落ちる。――まずは脅威度の高い標的から潰す。


「!!」


 海賊ボート達は慌ててジグザクに動き、アイリスの狙撃を避けようと試みる。

 アイリスは淡々と上下左右に揺れる目標を捉え続け、一呼吸をおいて引き金を絞る。

 今度は操舵手の頭が吹き飛び、割れたスイカの如く中身を周囲にまき散らし崩れ落ちる。……コントロールを失った海賊ボート1はスピードを落とす。


「クソが!!」


 残った海賊ボート2・3はアイリスに向けアサルトライフルで、お返しする。

 アイリスの周囲に銃弾が刺さる!


「――ッ!」


 さすがのアイリスも、これ以上は狙撃を続けることが出来ず後ろに下がる。

 この隙に海賊ボート2・3は一気に距離を詰め、『裕福なサメ』から10メートルまで近づいた。

 ここで、船尾に隠れていたタカシが身を乗り出し12番ゲージの粘着榴弾(HESH)をフルオートで叩き込む!!

 海賊ボート3が爆発炎上し、海賊たちは火だるまになりながら海に放り出される。

 タカシは構えを崩さずに流れるような銃さばきで、海賊ボート2に銃口を向ける。

 再び粘着榴弾(HESH)を打ち込み、海賊もろとも爆散させ、魚の餌にした。

 体勢を立て直して、追いかけて来た海賊ボート1は、状況の不利を悟ると追撃をあきらめ、投げ出された仲間の救助を始めた。


「……これで、連中も襲ってこないだろう。アイリス、セリョーガお疲れさま。」


 タカシは銃をしまうと、再びソファーに腰を下ろし2人を労う。


「労いの言葉、有難うございます。タカシさま。」


 戻ってきたアイリスは、タカシのグラスにラム酒を注ぎ、反対側のソファーに座る。


「さすが、キャプテン!……海賊のあしらい方も手慣れてきたな。」


 操舵室からセリョーガの声が聞こえた。


 タカシたちを乗せた『裕福なサメ』は、母港に使っている南部の町『ボイジャーズ・ワーフ』をめざす。



◇◆◇ AM12:00、マリーナ ◇◆◇ 


 その後は海賊たちの襲撃もなく、南部の州都で島内最大の歓楽街を有する商業都市『ラプラタ』の南端にあるマリーナ『ボイジャーズワーフ』に入港する。

 タカシはお宝が詰まった防水バッグを肩に下げ、アイリスと一緒に『裕福なサメ』から下船し、そのまま駐車場に向かう。

 駐車場にはタカシの愛車、キャンディレッドの『コルベットC10-V12カスタム』が待っていた。

 タカシは愛車のトランクを開け防水バッグを押し込むと、アイリスを助手席に乗せて駐車場を出る。

 ラジオからは、『DJ.EUROPA』の軽快なしゃべりと音楽に、V12特有の力強いエンジン音が合わさり、タカシの気分を最高に盛り上げてくれる。

 しかし、アイリスはこういう時に全く反応しないのが残念に感じる。


『―やっぱり、コンが無いせいなのかな……。』


 肯定なり否定なり、何らかのリアクションが欲しいな~と思うタカシである。


 『ボイジャーズワーフ』から島内を一周するハイウェイ『環状1号線』に乗り、1時間ほどかけて『ラプラタ』の買い手のもとへ向かう。

 ――タカシたちは以前、彼らの開店準備のために商品の仕入れを手伝った事があり、今でも回収品を買い取ってもらっている。


 タカシたちは『環状1号線』を降りて『ラプラタ国際空港』を通り、ダウンタウンのメインストリート『リケザ大通り』から『ラプラタビーチ』に向かって走っている。

 目的の店『ロビン&コリーの古物店』は『ラプラタビーチ』から2区画離れた『サンタクララ通り』の複合施設コンプレックス『ラセレサ』の隅っこにあった。



◇◆◇ PM1:00、ロビン&コリーの古物店 ◇◆◇ 


 南部の州都『ラプラタ』のダウンタウンの一角『サンタクララ通り』に貴金属や宝飾品を扱う古物商を営んでいて、こっそり盗品等も扱っている。


 ちなみに『サンタクララ通り』はネオルネサンス様式を取り入れた町並みが特徴で、ブティックやジュエリーショップ、カフェ・バーなどが軒を連ねている。

 ……近代的だが、どことなくネオゴシック調な高層ビルが立ち並ぶ『リケザ大通り』とは対照的で面白い。


 タカシは愛車を『ラセレサ』前のパーキングエリアに止め、防水バッグを取りだすと肩に背負い、待っていたアイリスと一緒に店内に入る。

 ――ドアを開けると古風な呼び鈴が”チリン”と鳴り、奥から二人の男が現れた。

 片眼鏡モノクルをかけ、紫黒色の燕尾服テールコートにトップハット姿の小柄な男が()()()で、葡萄茶色の丸眼鏡ロイドをかけ、黒緑色のスリーピースにボーラーハット姿のノッポ男は()()()という。


『……相変わらずゴシックホラーに出てきそうな二人だな』


 店内の装飾も二人を反映したかのような凄みというか、うさん臭さ全開である。

 ただ、この雰囲気が好きといったお客さんも多いと聞くし、なにより良心的な価格は見た目に反した(失礼な話だが)誠実な仕事ぶりで、店の評判はまずまずだそうだ。


「いらしゃいませ、タカシさん。アイリスさんも相変わらずお美しい……今日は商品の売込みですか?」


 値踏みするようにロビンが挨拶した。


「パラジウムのインゴット、30キロ分だ」


 タカシは肩に下げたカバンを降ろし、中身を見せる。


「ほぅ、これは中々。――いい仕事してますね。」


 中身を確認しながら査定担当のコリーが感心する。

 ……彼の目利きは鋭く、一瞬でモノの価値を見極められるそうだ。


「いいですねぇ。パラジウムは供給不足で、引く手あまたですよ。」


 ロビンがコリーの後ろからバッグをのぞき込みながら答えた。


「じゃぁ、買取OKだな?」


「はい。よろこんで買い取りましょう。……30キロで213万ドルで如何ですかねぇ」


「よし。取引成立だな。」


 タカシは予定より高い買取価格だったので即決した。


『……買い叩きをしないところが、誠実な証拠だな。』


 タカシは、伝聞が偽りでないことを実感する。


「それでは、タカシさん。……しばしお待ちください。」


 ロビンは携帯端末を操作し、タカシの口座に入金する。


「……今振り込みましたので、ご確認ください。」


 タカシは携帯端末を取り出し、自分の口座に振り込まれたのを確認する。


「……確かに、振り込みを確認した。」


 タカシはアクセサリーを見ていたアイリスを呼び、一緒に店を出る。


「またのご来店をお待ちしております。……たまには、何か買って下さいね。」


 ロビンは一礼して、タカシたちを見送った。


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