89.更なる開発
それから更に半年が経った。
アカバネ商会の五回目のアカバネ祭も無事に終わった。
五回目ともなると勢いも落ち着くと予想していた。
しかしそれは真逆だった。
今回の祭り後に隣国のテルカイザ共和国から自国にもアカバネ商会の進出及び祭りの開催をして貰えないだろうかって打診があった。
アカバネ商会としては良い事ではあるが、現在エクシア家と契約を結んでいる以上、他国にそうそう自由に乗り込む事は出来ず全ての交渉をお父さんに投げた。
お父さんは「また忙しい日々が……」とぼやいていたけど、昔のように移動に時間が掛からないからまだマシでしょうとお母さんから慰められていた。
因みに、いつもだと仕事のお父さんにはお母さんも一緒に付いて行っていたけど、今ではアカバネ島を経由して王国全土何処でも行けるので、お母さんはアカバネ島で遊んでいた。
後、お母さんは何やらアカバネ島である事を企んでいるようで、何を企んでいるかは教えてくれなかった。
「クロウちゃんのためだから、ちゃんと結果が出たら教えるね」と言われた。
お母さんの目が燃えていたから少し心配している。
祭り後にナターシャお姉ちゃんから次回の『ライブ』では『テンツァー』六名を選抜して参加すると言われた。
六名が決まった段階でアカバネ商会の正従業員になって貰う事になった。
◇
それからセレナお姉ちゃん達は『スレイヤ』として五人で様々な依頼をこなしていた。
世間では『スレイヤ』が後継二人を育てていると噂になる程だった。
以前僕がレベリングをしていたルシファーのダンジョンも一層から八層まで到達出来たそうだ。
アグネスお姉さん達がいるとは言え、この速さは異常だと言っていた。
それも彼女二人には僕の補助魔法がたっぷり掛かっているから、既に『剣聖』くらいのステータスはあるからだろう。
来年、セレナお姉ちゃんが『剣聖』に開花した際、色んな事が起きる気がするので今のうちにたくさん楽しんで欲しいと願っている。
◇
アカバネ商会も島も落ち着いたので、僕は次の魔道具の開発をする事にした。
正従業員達や知り合い達に、今何が一番欲しいかを聞きまわった。
その中で意外と一番多かったのは、弱い火を簡単に起こす魔道具だった。
使い道は様々あり、料理だけでなく狩りや冒険中のキャンプでも簡単に使える。
今では『火打石』という石を二つぶつけて火を起こしていた。
それはとても手間が掛かるため、簡単に使える物が欲しいという。
次に欲しいと言われたのは、『アイテムボックス』だった。
こちらは主に屋敷で働いて貰っている召使い達からの要望だった。
『リリー草』を箱二つ分取ってきて貰って来ているが、もっと多く取りたいとの事だ。
『リリー草』は生命力が桁違いに強く、繁殖速度も物凄く速い。
三日前に採った場所にはまた新しい『リリー草』が生えているくらいだ。
なので、本来の分以上に取っておいて、次の日の朝にボーナス給金として売りたいとの事だった。
少しズルい考え方だけど、とても的を射ていると納得してしまった。
その次に欲しいと言われたのは、『手紙』だった。
この世界では遠くの相手と話せるのは『手紙』を送るしかない。
その『手紙』を主に預かっている商会も大手ではあるが、料金も高く届くまでも遅かった。
なので、一瞬で送れる『手紙』が欲しいと言われた。
最後に欲しいと言われたのは、意外と『本』だった。
そもそも『本』は複製が出来ず、全て視写していた。
それでは膨大な時間が掛かり、素材も相まって高額品となっていた。
前世では本ってとても安い物と思っていたのに、複製が出来ないだけでこれ程までに高くなるんだなと思った。
◇
あれから半年をかけ、僕はそれぞれの魔道具を作った。
まず、『火打石』の件だけど、これは僕が作ってしまうととんでもない金額にせざるを得ないらしくて、魔道具隊にお願いした。
イメージは前世の『ライター』だ。
片手で握れるくらいの小さい箱に魔石小を一つ入れる事で使えて、使用すると小さな炎を出す。
意外と魔道具師の魔道具作成ってイメージさえ出来れば早いらしくて最初の試作品を僕が魔法で固定して実際使う流れを見せたら直ぐに作ってくれた。
隣にいたペリオさんからボソっと「それは先輩だけですけどね」と言っていた。
二つ目は『手紙』の件だが、実はこれは元々予定していた事業であった。
アカバネ商会の毎月行っている月例会議で話題に挙がっていて水面下で準備をしていたそうだ。
一番問題となるのは届け先の確認が難しい事だった。
まずは『郵便隊』を作る事になった。
定期的に奴隷伯爵さんから送られてくる奴隷達の中には職能持ちの奴隷達もいて、その中から足が速く索敵が得意な従業員達が対応する事になった。
一度アカバネ島に集められた手紙はそれぞれの町に毎日一度配達する仕組みになった。
それで掛かる時間が経ったの二日であり、料金も通常の料金の1/100と安価だったため、アカバネ商会の知名度を更に上げてくれる事となった。
手紙を運ぶ手立てにかかる金額を考えれば元の百倍でも安かったのかも知れないくらいの値段だった。
余談だが、元『手紙』を預かっていた商会は三ヵ月で潰れてしまった。
元々王国貴族から無理難題付けられていたので潰れた商会の人達が泣いて喜んでいたそうだ。
その次の『本』はソフィアからアルティメットスライムの固有スキルで『複製』というスキルがあるらしく、飲み込んで且つレア度の高くない品は無限に複製出来ると言われた。
『本』は魔法が掛かっている魔導書類でないなら、いくらでも『複製』出来るとの事だった。
もうそれが分かれば早かった。
ソフィアの五十体目となる分体に本を飲ませてひたすら『複製』して貰った。
既に分体を沢山作って貰ったソフィアは大丈夫なのだろうか?
本来なら分体作るのに大きな魔力を消費するのに、僕のスキル『魔力超上昇』『魔力高速回復』『MP消費超軽減』を共有出来たら、定期的に分体を作っても問題無くなったそうだ。
自慢げに【普通のアルティメットスライムはこうは行かないの~】とご満悦に話していた。
アカバネ商会で『本』を売るようになって、安価な事も相まって出せば即完売だった。
最後に『アイテムボックス』。
通常の『アイテムボックス』は袋の形をしていてそこから出し入れしている。
なのでお手軽に使えて邪魔にならないようにどうすればいいか考えてみた。
袋だと盗まれやすかったり、形が直ぐに分かってしまうのが難点だ。
そこでお姉ちゃんに相談して見た。
「この『遠話の水晶』のブレスレットに『アイテムボックス』の機能って足せないのかしら」
と言われた。
考えた事もなかった!!
『遠話の水晶』用のブレスレットは現在アカバネ商会幹部や各支店の数名の正従業員、僕とセレナお姉ちゃんだけ持っていた。
なので早速ブレスレットの開発に掛かった。
ディアナちゃんから普通のブレスレットだと激しく動いた際、揺れて邪魔になると言われたので、手首完全付着型にする事にした。
まず、『魔道具隊』に相談したら、マリエルさんから、
「普通のアクセサリーだと大きさで着用出来ない場合も多いので、費用が少し高くなりますがどの大きさになっても着用可能な『魔装飾品』にしたらいかがでしょう」
と言われた。
『魔装飾品』は『魔道具師』が作れる魔道具類の一つで、普段は大掛かりな装置の役割がある『魔道具』に対して、『魔装飾品』は基本的に使い切りとして作られるため、一度使用すると消えてしまう『魔道具』の一種だ。
『魔装飾品』は指輪やブレスレット等のアクセサリーの形をしている。
今回は単純なブレスレットを作って貰った。
確かに着用者の腕の太さでブレスレットの大きさが変わり、しっかりと付着した。
魔道具なだけあって、皮膚への負担も全然無かった。
ディアナちゃんに付けて動いて貰ったけど快適に動ける事が分かった。
それから僕はナターシャお姉ちゃんにお願いして、原型となる『アイテムボックス用ブレスレット』型の何の効果もない魔装飾品をナターシャお姉ちゃんから流行りに合った形を魔道具隊と作って貰った。
勿論ナターシャお姉ちゃんは喜んで受けてくれたので、とてもカッコいいブレスレットになっていた。
どちらかと言えば、前世の時計に似た形だった。
ナターシャお姉ちゃんからは必ず一つ献上する事を確約されて、僕はその原型をダグラスさんに託し、王国魔道具ギルドに大量発注を頼んだ。
効果無しなら誰でも作れて原型があるから想像しやすさも相まって魔道具ギルドからは快く受けてくれた。
それから半年間、魔道具ギルドはそのブレスレットが何に使われるかワクワクしながら作り続けるのであった。
※アクセサリーとして『魔装飾品』の効果なしは既に大陸中で作られています。




