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88.新しい環境

　本日は『スレイヤ』の皆さんから面会の依頼があった。

　アカバネ島の中央に立っている屋敷。

　それは僕の屋敷だった。

　要らないとあれ程言ったのに、アカバネ島は僕の島だから象徴が必要だとダグラスさんらが建ててくれた。

　屋敷の執務室で待っていると『スレイヤ』の皆さんが来てくれた。

「クロウくん、わざわざありがとう」

「いえいえ！　皆さんですもの！　それで本日はどのような要件で？」

「うん、それがね、今あたいらはエクシア領で冒険者をしているけどあれはあくまでエクシア領に滞在しているだけでそこに所属している訳ではないのね」

　冒険者は冒険者ギルドに所属する事で更に良い案件を斡旋して貰える仕組みになっている。

　『スレイヤ』の皆さんはＡランク冒険者だけあって、エドイルラ冒険者ギルドからよく仕事を斡旋して貰えているようだった。

「今日クロウくんにお願いしたいのは……、アカバネ商会の雇い冒険者としてあたい達を雇ってくれないかって相談なの」

「え！？　アグネスさん達をですか？」

　僕が驚いた所にミリヤお姉さんが口を開けた。

「この島を見て思ったの、普段蔑まれている獣人族も皆平等に働いているアカバネ商会が凄いって思ったの、だから私達も少しでもアカバネ商会の力になりたいの」

「うん、私達、師匠と、商会のために、頑張る」

　三人共大きく頷いた。

「分かりました、では僕からダグラスさんに話しておきますので、明日再度ダグラスさんと面接お願いしても良いですか？」

「ええ、お願いするわ」

　それから僕はダグラスさんへ彼女達の事を伝えた。

　ダグラスさんからもＡランク冒険者である彼女達を抱え込めるのは大きな力になると喜んでいた。

　雇い冒険者になると護衛や指定の狩り等、依頼しやすくなるのが大きな利点だという。

　彼女達はＡランク冒険者として三人パーティーで実力も最高ランクで文句の付けようのない戦力だ。

　次の日。

　『スレイヤ』の皆さんはアカバネ商会の抱え冒険者パーティーとなった。

　王国内でも大きなニュースとなった。

　今まで何処にも属していなかった王国内Ａランク冒険者パーティーが遂に所属した。

　それが今一番勢いのあるアカバネ商会だから増々大きな反響となった。

　今までお世話になっているエドイルラ冒険者ギルドからの依頼がある場合はアカバネ商会を通して来るようだ。

　そんな『スレイヤ』だが、実はもう一つ大きな事が起きた。

　今までアグネスお姉さん、ミリヤお姉さん、サリアお姉さんの三人だったパーティーが……。

　何と！　メンバーが増える事になった！

　それは――セレナお姉ちゃんとディアナちゃんだった。

　え……一体何がどうなってそうなったのやら……。

　セレナお姉ちゃんとディアナちゃんで稽古をお願いした所、見どころがあるからと一緒に狩りに行く事になって、そのまま『スレイヤ』メンバーに入ったそうだ。

　一応二人共非公式で参加しているので、表向きはそのまま三名らしい。

　◇

　それから『オペル』の皆さんはシリコ村にある専用練習場で練習を行っていた。

　食事や寝床が最高品質だったので給金が無くても泣いて喜んでいた。

　シリコ村はアカバネ商会の警備隊によって既に安全に暮らせるようになっていた。

　シリコ村から採れる高品質の食材は王国全土で高値で売れているので住民達は意外と贅沢な生活を送っている。

　その中から都会で暮らしたいと外に出た若者もいたが、次の年には帰って来た。

　何でもシリコ村で働くより良い仕事が見つからずシリコ村の待遇の良さを痛感して帰って来たそうだ。

　その時、仲良くなった夫婦二組も一緒にシリコ村に移住したようで、夫婦からもこんな贅沢な暮らしをしている村は初めて見ると驚かれていたそうだ。

　そもそもシリコ村で採れる食材は高級品なのに、運ぶ手立てが無かっただけだからアカバネ商会のおかげではあるが元々良い村なのは間違いないだろう。

　そして村長及び村人から頼み込まれて食材の買取(・・)値段も下げられた。

　普通ならばもっと高く買ってくれと言ってくるモノだと思うんだけどシリコ村の皆さんは欲が無いようでどうかもっと安く買ってくださいって言われたそうだ。

　ダグラスさんも無下に出来ず、こちらから販売する物をもっと安くして帳尻を合わせた。

　◇

　バレイント領の大橋事業も順調に進んでいた。

　初期の頃より職人も倍の人数になり、進む速度も速かったがアカバネ島の完成で半数がアカバネ島で対応しているため、元の速さに戻っていた。

　それでも、職人達のやる気がとても高く、作業環境も良かったので、作業は今まで歴史の中でも断トツに早く進んだ。

　しかし、実はこの話には裏の話があった。

　そもそもこの大事業の目的だ。

　田舎領土であるバレイント領は特産品も無く、他の領から買い込みに行くのも難しかった。

　だから大橋を作り、グランセイル王国と交流を持ちたかった。

　なのに、現在アカバネ商会の台頭により、これらの心配が全て無くなったのだ。

　運んでいないはずなのに次から次へ出てくる物資。

　アカバネ商会からの頼みで育てた畜産業も大成功し、アカバネ商会から高額で買い取って貰っている。

　そのお金で今度はアカバネ商会から他領の珍しい品や食品等簡単に購入で来た。

　それでもバレイント領代々続けて来た夢の大橋を完成させようと領民総出で応援してくれた。

　その大橋の完成も半年と間近に迫っていた。