84.宿①
四回目の祭りが終わってから二か月後。
アカバネ島に宿屋が出来た。
アレウスさんとヘレネさんの要望もあって銀狼族に伝わる宿になった。
それは前世で見た旅館のような中身だった。
いや、まんま旅館だった。
旅館に行った事なんてないので、実際は見た事ないけど……。
本やテレビで見た事あったから、新しい宿を見たときはまた少し懐かしく感じた。
服も銀狼族に伝わると言う服になった。
まんま着物だった。
ヘレネさんの熱烈な要望で従業員だけでなく、泊って頂くお客様にも着物の貸し出しをしていた。
前世の本で着物って着るのが大変だと知っていたけど、銀狼族に伝わる着物は非常に簡単に着れるようだった。
僕が「着物って美しい!」という一言で島中に着物が流行り出した。
◇
数日後、旅館が気になるとセレナお姉ちゃんが言い出して色んな人を誘って泊って見る事になった。
お父さん、お母さん、セレナお姉ちゃん、ライお兄ちゃん、デイお兄ちゃん、ナターシャお姉ちゃん、ディゼルさん、ダグラスさん、アヤノさん、ディアナちゃん、アレウスさん、ヘレネさん、アグネスお姉さん、ミリヤお姉さん、サリアお姉さんの計十六人で泊る事になった。
宿屋担当には東大陸出身の獣人族ミーアさんが女将さんになっている。
四十代のクールビューティーな女性だ。
着物も凄い似合っている。
他にも従業員達は数人いるが、全員獣人族だ。
何故なら、新しい宿屋は旅館と言って東大陸では高級宿は旅館と言うようだ。
東大陸は獣人族の大陸なので旅館の仕組みや着物も似合うので獣人族の従業員達が担当になった。
夕飯は全員で食べる事になっているがそれまでに是非風呂に入ってくださいとの事で旅館の最上階の五階にある風呂に先に入った。
僕はまだ幼いからと女湯に誘われたが断固反対して男湯に来た。
僕、お父さん、ライお兄ちゃん、ディお兄ちゃん、ダグラスさん、ディゼルさん、アレウスさんの七人だった。
皆男性用着物の甚平と言う着物を着ていた。
この服って日本でもあった着物だよね!僕も初めて着るからワクワクして着た。
男湯は広々としていて、本で読んだ日本の旅館風呂にそっくりだった。
僕達七人は身体を洗い、大きい風呂へ入って行った。
「くぅ~~ この源泉温泉? とか言う風呂は最高ですね~」
ディゼルさんが風呂でご機嫌になった。
「この風呂は人を駄目にしますね~」
「うぅ……うちの風呂より高性能だ……」
お父さん大貴族だもんね。
僕とお兄ちゃん二人は同じ格好で浮いていた。
お父さんが微笑ましい目で見ていた。
「そう言えば、『露天風呂』となるものがあるようですぞ? 皆さん行ってみませんか?」
「おお、あの外にある風呂でしたね」
「それは興味ありますね」
お父さん達が露天風呂に向かったので、僕達も後を続けた。
「おお~ 本当に外に風呂だ~」
ライお兄ちゃんも感動していた。
凄い! 本で見たまんまの露天風呂だ!
ちゃんと風呂の周辺が大きい石になっていて、『水が出る魔道具』をカッコいい置物にして熱い水を少しずつ流している。
「おお! これは良い! 中の風呂よりも熱いが、外が涼しいのでこの加減は病みつきになりますぞ!」
ディゼルさんがはしゃいでいた。
お父さんとダグラスさんとアレウスさんも「沁みる~」とか言いながら風呂に入って行った。
「しかし、クロウくんの島って物凄いね」
「うん? うちの従業員達が頑張ってくれたからね~」
「う~ん、クロウくんってアカバネ商会のオーナーなんだっけ?」
「うん! ダグラスさんのおかげで大きい商会になって助かったよ~」
ライお兄ちゃんとそんな事を話しているとダグラスさんも混ざって来た。
「ハハ、オーナー、それはこちらのセリフですよ、オーナーのおかげで俺はこんなに自由に商売をさせて貰ってますから」
「おお、それはこちらも同じですとも! うちのナターシャを助けてくださった時は女神様に見えましたから」
「え!? その話聞きたい!」
それからダグラスさんとディゼルさんの買い被りまくりの膨らんだ話しを聞かされた。
僕が全力で全然違う! 美化され過ぎ! って反論したけど、誰も信じてくれなかった。
それと暫く皆から女神クロウティアって遊ばれた。
◇
◆女湯◆
女湯の露天風呂。
そこにはこの世で一番の絶景が広がっていた。
但し、クロウの霧属性魔法が最高出力で掛かっており、クロウですら外から女湯と男湯の露天風呂また風呂を覗けない仕様になっている。
まだ幼いが誰でも振り向く程の美人であるセレナディア、現在世界で一番美人とされているナターシャ、二人には見劣りするが絶世の美女である事に変わらないディアナ。
その三人が露天風呂で固まっていた。
女子は人数も多く、歳の差もあるので、グループ分かれていた。
「ディアナちゃん! この前クロウくんに撫でて貰えたって聞いたよ!」
ナターシャがディアナに詰め寄った。
少し顔が赤くなったディアナだった。
「は……はいっ!」
「う~ 照れてるディアナちゃん可愛い!」
ナターシャがディアナにスリスリしていた。
「あの時のディアナちゃんも凄く可愛かったんだよ!」
「せ……セレナ様……」
「えー! いいなぁ! 私も見たかったよ~」
「ナターシャ姉さんはお仕事で忙しかったんだもんね」
「うん、最近練習も激しくてね……何より体力付けないと『アンコール』二回頑張れないから」
祭りで恒例行事となっている『アンコール』も二回までと決まっていた。
「ナターシャ姉さん凄く人気あるもの! それに私も楽しみにしているから頑張って欲しい!」
「うん! ありがとう! こうしてセレナちゃんやディアナちゃんに応援されるともっと頑張れそう!」
そんな若い連中の隣では……。
「あの……フローラ様とヘレネさんってどちらから告白したんですか!?」
アヤノが恥ずかしそうに聞いていた。
「あら~ うちはアグウスくんからかしら……でも正直うちらは十歳の誕生日会で出会った瞬間に落ちた感じだよ」
フローラが少し照れながら話した。
「うふふ、フローラ様のところもそうなんですね~ 私のところもそんな感じでしたね」
「えええー お二人共羨ましいです……私そんな出逢いないので……どんどん婚期が……」
どうやらアヤノは婚期を気にしているようだった。
「あらら、気になっている殿方はいませんの?」
「う~ん、いないことはないんですが……向こうは全く私の事気にもしてないみたいですから……」
「あら、駄目よ! アヤノさん、今の時代は女性からもどんどんアピールしないと行けないわよ?」
「えっ? そうなんですか?……うん! 分かりました! 頑張ってみます!」
アヤノが何かを決意した。
その姿をフローラとヘレネは優しく見守った。




