67.契約成立
投稿時間予約にしてみたんですけど…やっぱりぴったり投稿好きではありませんね…来週からはまた18:17投稿に戻すかも知れません…
考え込んだギムレットさんが口を開けた。
「では…クロウ様、これは提案ですが……その金貨から十枚程だけ貰いましょう、それだけでもバイレント家は年間で贅沢な生活が出来ます。もし余るとしましたら、それを我が領内で商売をして頂けませんか?
物資を運んで貰うのにもかなりの経費が掛かるはずです、ですので大橋が完成するまで……いえ、それからもずっと我が領内で商売をして頂けたらそれが一番ありがたいことです」
「!? 領内で商売許可を貰えるなんて、寧ろこちらから更に出したいくらいですよ!」
「あはは……クロウ様はまだ我が領についてお分かりになっていないかも知れませんが、我が領はテルカイザ共和国の中でも最も貧しい領なのです、何故貧しいか……それは我が領の場所にあります。
すぐ東にはグランセイル王国がございますがその間にそれはとても大きな湖がございます」
「湖?」
「はい、『アクアドラゴンの湖』と言います……名前通り湖にはアクアドラゴンが住んでいるため、漁も出来なければ通る事も出来ません、次は陸路になりますが、南側は山脈になっていますので人がそう簡単に通ることが出来ません。
山脈は西側まで伸びているので、唯一の道は東側のみになります……ですが我が領の東側は森が多く一番近いベルムンド領の町までも馬車で五日はかかります、そこから一番近くて大きい町はここホルデニアになります。
我が領からここまで来るのに八日も掛かるのです……」
「それはまた……随分かかりますね」
「はい、ですのでそもそも資材や職人の件だけでも高額の負担になるはずです」
「なるほど……それは分かりました」
しかし腑に落ちない点があった。
「しかし……ギムレットさんは今、アクアドラゴンの湖は通る事も出来ないと仰っていましたが……大橋はどうやって作っているのですか?」
「はい、事業を決めたご先祖様からアクアドラゴン様にそれは多く貢いだようで、船ではなく橋でなら渡れる許可を頂きました。ですのでアクアドラゴンの湖で唯一活動出来るのは大橋事業のみなんです」
「へぇー、アクアドラゴン様って……話せるんですね」
「え? あ、そうらしいです、僕もお会いした事はないので…もしかしたら大橋が完成した暁にはお会い出来るかも知れません」
アクアドラゴン様と契約出来たから大橋を作れるなんて、ギムレットさんのご先祖様達は皆凄い事を成し遂げたのだね。
「我々の商会では基本買取がメインですが、売り物もしてはいるんです。しかし食材等の資材は全く売っていません」
「はい、それは存じています」
「その理由として……売り額に対する国への納税があるのです」
実はこの世界の大きい金額が動く時税金が発生する。
国にもよるが、グランセイル王国は大陸でも二番目に高い。
しかしそれもあくまで売った場合のみだ。
個人から商会へ売る場合は全くかからないが、一度商会に入った商品を売るとなると初めて税が発生する。
意外にも王国には税官という職があって、能力も高く、色んな商会が誤魔化す事も出来ないという。
その対策としてうちは買取専門店にしようとしたけど、悪い大人と悪い子供と悪いお姉ちゃんによって、それはもう売れまくって収入がとんでもない事になっていた。
因みに、魔道具による収入に税金は発生しないという。
これは魔道具がそもそも魔石が無ければ使えない、魔石を国主体で動かしているからだ。
「そうですね……グランセイル王国の税は高いですからね、そこでご相談ですクロウ様、我が領に出店してくださるのなら全ての税を免除致します」
「そんなにですか!?」
「はい、我が領は俗にいう田舎領です、ですのでそもそも商会が入りたがらないのです……ですので領内で自由に物を売って頂けたらそれが最も領民のためになります、それが出来れば領主としてこれ程嬉しい事はありませんよ」
ギムレットさんが恥ずかしそうに笑った。
本当にこの方は欲がない、素晴らしい領主様だ。
しかし遠慮し過ぎて損しているのは良くないとは思うけど……。
「分かりました、その申し出喜んでお受けいたします」
「それはありがたい! ありがとうございます! 是非これからも良好な関係を築きたいものです」
「えぇ、僕は他人と仲良くするのが苦手ですが、ギムレットさんとなら良い友人になれそうで嬉しいです」
「それはますます嬉しい……ではこちらの宝石を受け取ってください」
この日、僕は大地生成魔法専用『賢者の石』を手に入れた。
本来なら高い買い物ではあったけど、僕には色んな魔法があり、距離とか無視出来るので全く問題にならなかった。
それと、ギムレットさんという僕が生まれて初めての友人が出来た気がした、歳は何周も違うけどね。
◇
あれからアカバネ商会へお願いをしてバレイント領全域で開店する事になった。
そして、バレイント領内で通常店員や職人達も雇った。
以前から働いている奴隷従業員達や従業員達は全員『正従業員』と呼ぶ事になった。
現地で、雇う従業員達の事を『副従業員』と呼ぶ事にした。
うちの『副従業員』は全員『契約の紙』で契約され、アカバネ商会に関する全ての事実を外に漏れないようにした。
そして『正従業員』と『副従業員』の違いは、まず給金だ。
『副従業員』のように現地で生きている平民達の給金を高くしてしまうと全員入りたくなり、場合によっては事件になる事もあるからという。
なので、『副従業員』の給金は相場と同じくらいだ。
ただ、珍しく休店日があるのでそれだけでかなり良い待遇だそうだ。
しかも『自由休』の権利もあるから、恐らく一番の人気職になると言われた。
そしてもう一つ大きいのは、『次元袋』の使用禁止である。
なので必ず各支店には支店長と『正従業員』が三人程いるような配置になった。
その他の雑用は『副従業員』が行うので『正従業員』は少人数で回る事が出来るという。
そして職人隊も決まった。
職人隊は基本好待遇で雇っている。
元々大橋に携わっていた職人達は先輩職人として少し待遇が良く、後から雇われた職人も好待遇だ。
数日して、職人達全員から満場一致でアカバネ商会の『専属職人』にさせては貰えないだろうかと言われた。
全員で十二人と少ないがこの世界の職人達は必ず職能持ちのようで、一人でもとんでもない量の仕事をこなせていた。
ダグラスさんからも『専属職人』は抱えた方が良いとの事で引き抜いたので、元々働いていた職人六人分だと言い、ギムレットさんに職人を引き抜いた事で申し訳ないと金貨六十枚を押し付けてやった。
だって、職人には職場を自由に選ぶ権利がありますからと言うに違いないんだから、押し付けないと受け取ってくれないのだ。
その時ダグラスさんに言われた事だけど、バレイント領の物価はグランセイル王国より五倍程低いと言う。
なので、全額金貨七十枚渡しているが、あれでバイレント家の一代分贅沢三昧で暮らせられると言われた。
贅沢三昧せず、程よく贅沢していれば三代は何もせず暮らせるという。
しかし……それだけの量の金貨を押し付けたからにはギムレットさんも黙ってはいなかった。
寧ろ、まさかの行動に出たのた。
バレイント領の領民の住民税を全員五十年間なしにしてしまった。
ギムレットさん……どれだけ領民を大事にする方なんだ……。
それから、お父さんお母さんにギムレットさんの事を話した。
両親から是非ともバイレント家と友好を結びたいと招待してくれと頼まれたのだった。
因みに「お父さんお母さんはどうして平民達を大事に見守るの?」と聞いて見た所、「人は一人では生きていけない、彼らが頑張って食材や物を作ってくれなければ困るのは我々貴族だから、それを守るのは当たり前の事でしょう?」と言われた。
流石、お父さんお母さん!
僕はエクシア家に生まれて本当に良かった!
お姉ちゃんから「そんなの当たり前でしょう、貴族は民を守るためにいるんだから」と言われた。
流石、僕のお姉ちゃん!
その誇らしい顔も可愛いよ! うん! お姉ちゃん世界一可愛い!
湖の名前を一週間悩みました。
そして。
浮かびませんでした。
名前のセンスをください…




