63.分析期間
ディゼルさんから不思議な感じがする赤い宝石を渡された。
それはバレイント領の領主ギムレットさんから預かった物だと言われ、経緯を聞かされた。
「……そうですか、アカバネ商会の被害者……ですか」
自分が行っていた行為で、知らない誰かが被害を被るのは……あまり考えた事がなかった。
「えぇ、彼の主張はごもっともと言えばごもっともかも知れません……ですが、最初からダグラス殿の予想通りに被害者は必ず現れるとは思っておりましたから」
「えぇ、僕は家族や仲間を大事にしたい、ですがそうでない者はそれが誰であっても敵でも傍観者でも同じと見てますから」
「はい、今回の件、バレイント領としては…友好を結びたい、それが一番の目的かと」
「それでこの先祖代々継がれてきたという宝石を差し出したんですね」
「はい……しかしクロウ様、その宝石がですね……」
ディゼルさんが言いづらそうにしていた。
「『賢者の石』だと言うのです」
「『賢者の石』ですか!?」
これが『賢者の石』!?
たしかに、不思議な感じがする宝石だ。
「それではクロウ様、こちらの宝石の解析と買取額の件はクロウ様にお任せ致します。そもそもそれをアカバネ商会としては買っても意味がないと言いますか…クロウ様に預かって頂いた方が良いと思います」
「……分かりました、こちらの宝石が本当に『賢者の石』なのかも僕が調べます」
「はい、ギムレット様は一か月後に再度訪ねて来られるとの事ですから、それまでどうするかはクロウ様にお任せ致します」
そして僕は『賢者の石』と言われている宝石を預かった。
屋敷へ戻った所でソフィアが声をかけてきた。
【ご主人様! その宝石見せて欲しいの!】
【うん? これは預かり物だから壊したりしたら駄目だよ?】
【は~い】
そう言いながらソフィアは目の前の宝石を丸ごと飲み込んだ。
えええええ!? 本当に大丈夫だろうか……。
【このまま分析するね~、……ん~直ぐに分析出来ないみたい! このまま分析続けてもいい?】
【え!? ソフィア、分析も出来るの?】
【もちろん! ソフィアはご主人様の従魔だもん! 何でも出来るよ~】
【そっか、そのまま置いてても仕方がないからソフィア、頼んだよ?】
【うん! 任された!】
そして『賢者の石』と言われている宝石はソフィアの腹の中で分析されるのであった。
◇
※注意 - 一週間は六日で一か月は五週です。
それから一週間後
ダグラスさんから『瓶』の工場用土地の購入に難航していると報告があった。
ダグラスさんにしては珍しいなと思っていたら、どうやら工場ともなると何を作るのか定期的に調査されるそうだ。
しかも作る人を雇うにも中々良い町が見つからないそうだ。
なので、雇う人を欠損奴隷だけに絞らず、通常の奴隷も視野に入れたらどうかと相談があった。
しっかり働いてくれれば奴隷じゃなくても良いがあまり信用出来ない点もある。
そこでダグラスさんから奴隷伯爵さんに相談してみるとの事だ。
それと引き続き工場を建てる場所も探すそうだ。
◇
二週間が経った。
各支店の防衛が問題になっていると連絡があった。
護衛隊全員には補助魔法を掛けているので、全員通常の護衛よりも高い強さである。
しかしステータスだけが上がっていても戦う技術は経験でしか学べない。
僕も以前『スレイヤ』の皆さんとのレベリングが無ければ、気づかなかったところだ。
そして、アカバネ商会に戦う技術がある者の数は少なすぎるのだ。
その問題を解決すべく、護衛隊には狩りを経験して貰う事になった。
戦いの経験とレベルも上がるので一石二鳥だ。
しかし、それではますます護衛隊の数が減ってしまうのである。
護衛隊の師範をして貰っているアレウスさんから、冒険者を卒業した者を雇ってはどうかと相談があった。
冒険者卒業した者が即戦力になるから良いとの判断だった。
しかし僕自身が他人をそう簡単に信じられないので、今しばらく待ってもらう事にした。
◇
三週間が経った。
今度は辺境伯ブレイン家とコルディオ家から『シャワー室』の魔道具を献上せよと命じられたと連絡があった。
今ではアカバネ商会も王国全土に支店があり、各領都や王都でも支店を開いている。
その他の町でも支店は確保しているが、人数がいないので開店まではしていなかった。
現在本店エドイルラ街、支店は王都ミュルス支店、ブレイン領都アグノイア支店、コルディオ領都クロスリバー支店、コルディオ領貿易街ホルデニア支店の五店舗が大々開いている。
その他にも小さい町でも既に開店している所もある、代表的なのはシリコ村等がある。
アグノイア支店長とクロスリバー支店長には、献上する理由がないのでそのまま断ってくださいと伝えた。
献上は強制じゃなく必ず聞き入れる必要はないとの事なので断る事にした。
そもそも彼らから何か便宜を図って貰ってもないし、ただ便利だから献上と言われても困るのだ。
もしもの時は魔道具を諦めて撤退を命じた。
◇
四週間が経った。
お父さんとお母さんから呼ばれた。
アカバネ商会で魔道具が使用されていて、その中に『シャワー室』も『エアコン』もある理由を聞かれた。
それについて正直に答えた。
一言、相談して欲しかったと怒られた。
そして私達はアカバネ商会に肩入れしてはいけないとそれ以上詳しくは聞かれなかった。
なので、運送方法や資金の量、従業員の詳細等一切伝える事はなかった。
流石お父さん、そこは親子でもきちんと一線引くべきだという。
◇
ソフィアちゃんが赤い石を分析して五週間。
遂にソフィアちゃんから分析が終わったと言われた。
【ご主人様~赤い宝石の分析が終わったよ!】
【本当か! ソフィア頑張ったね!】
僕はソフィアを撫でてあげた。
ソフィアは嬉しそうに揺れていた。
【この宝石はね『賢者の石』であって『賢者の石』とはちょっと違うの】
【ん? そもそも『賢者の石』なの?】
【うん! 『賢者の石』ではあるんだけど…】
凄い! 本当に『賢者の石』だったんだ!?
【ではあるんだけど……?】
【『賢者の石』としての本来の機能はないの】
【ただの石……ではなさそうだけど】
【うん、この石が出来るのはね……】
ソフィアから言われた事に僕はここ一番の驚きであった。




