56.南最南端の村
◆王国領最南端の田舎村◆
王国領の最南端にはとある村がある。
その村はシリコ村と言う村だ。
その先には大きい山脈が広がり、その山脈を越えると海に出る。
つまり、大陸最南端の村でもある。
しかしその山脈にはワイバーン等の飛竜類のモンスターが住んでおり、山から採れる豊かな素材は命がけであった。
そんな脅威のすぐ近くの村なので、住む人も少なく、行き来する商人すらいないのが現状だった。
しかし、ある事をきっかけにその現状が一変した。
『アカバネ商会』と名乗る男が村長を訪れた事から始まった。
村長は長年王国に仕え、自らの意思でこの村の全権利を貰い、村長となった人物だった。
特別能力がある訳ではなかったが、彼はこの村に生まれて、成り上がった人物でもあった。
そんな彼が村長になったのは、単に生まれた村を守りたいからであった。
「初めまして、私はアカバネ商会の会頭をしているダグラスと申します」
まだ二十代後半にしか見えない青年と綺麗だが鋭い目をした女性だった。
商会の名前も初めて聞く。
しかし、彼らの目は歴戦の商人だとすぐに分かる程に威厳があった。
「これは、わざわざこんな辺境の地へ……私はシリコ村の村長ムダイと申します」
「以後お見知りおきを」
そう言うダグラスに村長は大きく頷いた。
「それで……ダグラス殿、こんな辺境の地にどのようなご用件が?」
「はい、我々アカバネ商会は現在王国内でも有数の商会であります、ぜひこの村でも開店させて頂きたいのです」
「こんな辺境の地に……でございますか?」
シリコ村は日々自分達が食べれる分程しか食料が手に入らず、時折襲撃するワイバーンという脅威もあった。
「えぇ、勿論納税等もしっかりと行いますので」
「ふむ……我々としては、こんな辺境の地に商会を作ってくださるのなら願ってもいません、が、それで皆さんはどうやってここで商売をなさるので?」
「はは、それは商会の機密事項ですのでお話出来ませんが……村長様、貴方の想像よりも大きい事が起こるでしょう」
まだ自分より若造である商人、けれどその目から噓偽り等何一つ見当たらない。
「分かりました、では期待も込めて好きな場所を使ってくださって構いません」
「それでは、その土地を購入させて頂いても?」
「こ……購入ですか!? こんな辺境の地を?」
「えぇ、私達のやり方としまして、途中で追い出されそうなケースがありますので、購入させて頂いております」
「追い出され……る? もしや、禁断の術の研究とかを……」
王都で働いていた頃、時より聞いたことがあった。
商店の地下で怪しげな研究をして怪しいものを売る連中を…
「それは誤解でございます、我々は至ってまっとうに働いておりますが……見る者によっては理解出来ない、理解出来ないとなると排除しようとする連中がいるからです、誓ってこの村が被害にあう事はありません」
長年王都で働いて培った勘が、この青年を全面的に信頼して良いと告げていた。
「分かりました。好きな土地を好きなだけ選んでください、売れる範囲で売りましょう」
それから村を見回った彼から、村の人の土地以外の全土地を購入しますと言い出した時は本当に吃驚した。
約束は約束だからと全部売った。
勿論辺境の地なのでたいした金額ではなかったが、そもそもお金を手にしても使い道がないのだ。
年に一度来るか来ないかの旅商人くらいだろうか……。
ダグラスさん曰く、これからは貨幣の取引になるので、貨幣は大事にとっておき、村人達に渡せる量は持った方がいいと言われたので結局は貨幣と土地を交換してしまった。
そして次の日、昨日は見えていなかった少年がいた。
黒髪に綺麗な碧眼のそれはそれは綺麗な少年だった。
それから私は今まで見た事もない奇跡を目にしてしまった。
あの少年が購入した土地に次から次へと家を建てていった。
一番大きい建物は商会の建物という。
その後ろの建物は従業員宿舎だという。
それから……数時間後、建てたばかりの店から人が出て来た。
十人程が出て来た……ここに来たのはダグラスさんと護衛女性二人だったのでは無かったのか?
恐る恐る聞いたら、『アカバネ商会』の秘密だそうだ……。
勿論私にも決して他言無用と言われた。
もし、他言した際はここから瞬時に撤退せざるを得ないと言われた。
それから二度目の奇跡が起こった。
『アカバネ商会』がその日から開店し、全村人に商会から説明があった。
『基本は買取専門店です』
『シリコ村の住民のみ、欲しい品をご注文頂ければ翌日にはお届けします』
と言われた。
住民達は信じられないと、普段食べれない商品を各自で大量に注文した。
そして次の日、全員の注文通りに商品が届いた。
その代金は土地を売ったお金で支払った。
今まで、シリコ村のために頑張ってくれた村人達のためだった。
それから護衛隊員と言われる方が一人付いた。
村の狩人達も唸る程の強者だそうだ。
もしワイバーンが出た場合には対応するとの事だ。
ワイバーンを一人で対処するのだろうか。
あれから分かった事はシリコ村の周辺で採れる素材はどれも貴重な素材ばかりらしく、買取額も大きかった。
それで今まで村で思ってもみなかった贅沢な暮らしが出来るようになった。
更に数日後、ワイバーンが現れた。
護衛隊員だと言ったガイオンさんと言う方が一人でワイバーンに向かった。
彼は何やら魔法のようなものを使うとワイバーンが急に墜落した。
そのワイバーンをガイオンさん一人で首を落として来た。
聞いたところ、痺れ魔法というものを使ったらしい。
せっかくだからとワイバーン肉を村人全員に振る舞われた。
それから、私達村人全員、『アカバネ商会』と共に村で生きてゆくのであった。




