51.伯爵の依頼
奇跡の大地編の始まり~
四度目の欠損奴隷達が送られてきた。
その日、僕宛てに手紙があり、奴隷伯爵から一度お会いしたいと書かれていた。
その足で行こうとしたら、何故かセレナお姉ちゃんも付いてきた。
「何か面白い匂いがするから」と言っていたけど、最近毎日屋敷に連れて行ってるディアナちゃんの休店日だから暇なだけでしょう……と口には出せない。
そんな僕達は伯爵のお店にやってきた。
以前案内してくれた同じ奴隷さんに案内された部屋で待っていると伯爵がやってきた。
「おほほ~クロウ様、お久しぶりでございます~」
「お久しぶりです、いつも奴隷達を売ってくださりありがとうございます」
「いえいえ~、こちらこそ毎度ながら大型購入は助かります~」
まあ、問答無用に欠損奴隷達全員送られて来ているけどね。
「おやおや、可愛いらしいお嬢様もお連れですか~お嫁様でしようか?」
「ち……違います! 僕の姉です!」
顔が熱い……。
お姉ちゃんの顔が少し赤い、熱でもあるのだろうか? 後で回復魔法を掛けておこう。
「クロウの姉、セレナです。以後お見知りおきを」
「おほほ~これはご丁寧に、私は奴隷商人をやっておりますアドバルと申します」
一通り挨拶を終えた。
「それで伯爵? 話したい事があると?」
「はい~、とても大事な話なのです~申し訳ありませんが、ここで聞いた話は秘密にして頂けますか~?」
「もちろんです」
隣のセレナお姉ちゃんも大きく頷いた。
「では……私の用件はですね~、いつも欠損奴隷達を買ってくださっているクロウ様にお願いがあるのです~」
「お願い?」
「奴隷達を蔑ろにしていないか、少々確認させて貰いましたが~とても不思議な事に~彼ら皆楽しそうに働いておりましたから~」
なるほど…楽しそうに働くというのを見たって事は、欠損も治した事が分かったのだろう。
「まさに~奇跡と言う他ありません、もちろん商人として他言するつもりは決してありませんので、ご安心を」
僕は小さく頷いた。
「それでお願いと言うのはですね~とある少女を治して頂きたいんです~」
「なるほど……、彼女は欠損しているのですか?」
「いえ~欠損ではありません~」
「ん?」
「彼女は……病にかかっているのです~」
欠損は『効能の高いポーション』でも治せるので、恐らく欠損ではないと思ってはいた。
「そうでしたか、ですが僕が治せるかの確証はないので、まず見てみない事には……」
「ふむ~残念ながらそう簡単に会える方じゃありませんのです~しかも病気の種類も分かりません」
「分からない?」
「はい~分からないから、治せないのです」
少し真剣な顔になった伯爵だった。
「私の手を尽くせるだけ尽くして色んな方法を試してみましたが、彼女を治す事は出来ませんでした」
不治の病ってやつかな……欠損奴隷達の中にも不治の病だった病気が多数いた。
全員『エリクサー』『ソーマ』で回復出来ていたが。
「分かりました、ですがそれが『病気』という根拠はございますか?」
「『病気』という根拠?」
「えぇ、生まれてその状態だとしたら『病気』と判断するのは難しいんです」
「なるほど、それならば間違いなく『病気』でしょう、彼女は五歳まで元気に走り回っていますから」
「そうですか、それならばもしかしたら治せるかも知れま――」
「それは本当なのですか! クロウ様、是非彼女の病気を治してくださいませ、その報酬は破格にご用意しております」
おぉ……凄い食いつき、というか多分これが伯爵の本性なのだろうけど。
「伯爵にはいつもお世話になっていますし、僕の事も世間にはあまり知られたくありませんから、お互い様という事で頑張らせて頂きます」
「商人ですからお客様の秘密を守るのは当たり前な事ですから、それでクロウ様はどうやって治して頂けるのですか?」
まだ伯爵は僕が彼らをどう治したのかまでは分からないか…
少し考える
そして伯爵さんの前に青い宝石を出す。
「伯爵さん、条件があります」
「はい、何でも言ってください」
「彼女を治しに行った際、部屋には誰も入れず伯爵だけが行う事、この宝石を部屋の床に置いてください、それと例の事が終わったら速やかにその宝石を回収し必ず僕に返してください、それが条件です」
伯爵が青い宝石を見る。
これは最近までよく使っていた『座標石』だ。
でも『転移魔法』を今伝えるのは良くない気がした。
だから伯爵には悪いけど、如何にもこの石が『回復石』と見せたのだった。
「かしこまりました、これ程の物を預けて頂けるなんて感謝します」
「えぇ、でも絶対ですよ? 誰にも見られない事が僕からの条件です」
「はい、絶対に私一人で行うと約束しましょう」
それと黄色い薬を一本出した。
「その石を使う十分程前にその薬を彼女に飲ませてください」
「かしこまりました」
「では以上ですので、伯爵ご武運を祈っていますね」
「はい、クロウ様、感謝致します、彼女を治した暁には報酬も期待していてくださいませ」
「はい、楽しみに待ってます!」
店を出た僕はお姉ちゃんに声を掛けた、何故か商談中一度も喋っていなかったから。
「お姉ちゃん、あの方どう思う?」
「うん、凄く隠してる人ね、でも彼女の事は本気だと思うわ」
「そっか、お姉ちゃんがそう言うんなら間違いないね」
「ふふっ、何それ」
お姉ちゃんがちょっぴり嬉しそうに笑った。
「お姉ちゃん、あそこの店の串、美味しいから食べに行かない?」
「行く~」
お姉ちゃんと食べる串は格別に美味かった。




