50.それから…
商会編最終話です。
◆ダグラス◆
オーナーからとある『遠話』が届いた。
【遠くの場所に自由に行き来出来る扉を作ったので、拠点毎に扉を設置出来るようになりました】と言われた。
理解出来ない。
遠くの場所に自由に行き来出来る扉って何だ?
いや、言葉だけなら理解出来る。
理解出来ても納得が出来ないものだ。
行き来出来る扉?自由に?
【はい、僕が住んでる町から支店に行き来出来る扉作れたので】と……。
確かオーナーが住んでいるのはエドイルラ街。
いつもだと、『転移魔法』でオーナーが行き来していた。
でもそれはオーナーしか飛べないと話していた。
もし他人と一緒に移動出来るなんて事があったら、全世界の物流やら戦争やら、全て掌握出来ると言う事だ。
今、オーナーはそれを成し遂げたというのか?
【そうですね~姉に言われて扉くっ付けないかと言われて、くっ付けてみたら、くっ付きました】
扉をくっ付けたくらいでそんな事は出来ませんよオーナー……。
今までも『次元袋』『遠話の水晶』『水が出る箱』『声を大きく響かせる棒と箱』『エアコン』……こんな世紀の大発明に続き、今度は『次元扉』というらしい……驚きを通り越して菩薩の境地に至った俺でもこれは驚愕せざるを得なかった。
◇
『次元扉』が完成してから三か月が経った。
ダグラスさんが各重要都市で『アカバネ商会』の支店を購入した。
まだ従業員が当てられない所は購入のみで、そのまま開店せずにいる。
しかし、全支店を行き来出来るように『次元扉』を繋いだ。
繋いでる時に分かった事なんだけど、一組しか登録出来ない訳ではなかった。
なので、全部扉を繋いで、各扉の前でノックしてから声に反応するよう作り、町名を唱えるとその扉へ行ける仕組みになった。
ちなみに、全扉が繋がっているので、どこかの扉をノックした瞬間、他の扉は施錠される仕組みにした。
あれから奴隷商人の奴隷伯爵から二度奴隷達が運ばれてきた。
値段とか人数とか全く聞かず、強制的に送られてきて、後から精算に来てくださいと手紙だけ送られてきた。
のちにダグラスさんから支払ったと報告を受けた。
二回目は三十人もの欠損奴隷が届き、三回目は二十六人届いた。
彼らはホルデニア支店で研修期間を経て、各町の支店へ配属される事になった。
アカバネ商会は全員で八十九名となり、そこから九名の料理人を雇っていて、全員で九十八名が在籍中だ。
そこ中から護衛隊が二十名、販売隊が五十名、清掃隊二十名、営業二名、支店長五名、会頭一名である。
その中でも最も力を入れているのが清掃隊である。
アルテナ世界ではあまり清潔さを追求していない、いや、清潔は大事にはするが、そこに人数を割けないのだ。
だから、僕が真っ先に指示したのは、清掃に対する認識だ。
お客様も綺麗な店の方が良いだろうし、うちはナターシャお姉ちゃんがいるので、清潔感は大事にしたい。
早速『汚れだけを異空間に送る』雑巾を作った。
使用者が汚れと認識した部分だけを拭き取り異空間の『ゴミ』スペースに送るので清掃隊は仕事が格段に速くなった。
そんな清掃隊も次第に自分達の仕事の大事さを分かってくれて、どんどん綺麗にしてくれた。
◇
今日はアカバネ商会の決算会議の日だ。
「では今月の決算会計を報告します」
とディゼルさんから始まり、各部門で報告があった。
そして最後、各部門ごとに現状報告や意見など言う時間がきた。
それぞれの部門が意見を出す中、清掃隊だけ未だ遠慮しがちになっている。
清掃隊が発足してまだ一月、慣れてないのもあって、この場に入りにくいのかも知れない。
如何せん、この世界では清掃員を物凄く見下す傾向があるから……。
そんな中――。
恐る恐る手を上げる人がいた。
清掃隊代表のミラさんだ。
ミラさんは欠損奴隷になり、娘さんと離れ離れになり、娘さんがどこに売られたかもわからず、うちに運ばれた人だった。
彼女には「アカバネ商会が大きくなれば、ミラさんの娘さんのルリアちゃんを探す事が出来るかも知れない」と言うと希望を抱き、今では一生懸命に働く従業員となった。
そんな彼女だからこそ、代表に選ばれたのだった。
「はい、ミラさんどうぞ」
司会をしているディゼルさんより
「はい……実は……店員部の方が以前、店内でこぼしてしまった水を……お掃除されていました……これは清掃隊全員の意見です……どうか、それをお掃除なさらないで私たちを呼んでくださいませ、私達は掃除をする仕事を承っております……。
クロウ様は出来る人は出来る事をする……と仰っておりました……私達では店員部の仕事は出来ません、ですので掃除の事は全て私たちに押し付けてください、例えばトイレを汚してしまったからお掃除なさる方もいらっしゃいますが……どうかそういう事全て私達清掃隊に押し付けてください。
それが延いてはクロウ様のアカバネ商会のためになると思っております……」
この会議室には各隊代表しかいないが、『声を大きく響かせる棒と箱』で広場の全員が聞いていた。
ミラさんのこの発言から清掃隊には多くの掃除の依頼が入るも皆笑顔でこなし従業員皆彼女らと打ち解ける事が出来たという。
◇
◆セレナディア・エクシア◆
私の弟のクロウティアは凄い魔法使いだ。
こういうの作って、と言うと簡単に作ってくれる。
『水が出る魔道具』を作ったと言われた時はとても嬉しかった。
それから、新聞で『アイドル』の文字を見つけたとき、何となく弟が関わっていると思った。
問い詰めたら、やっぱり弟が関わっていて、彼らのオーナーになっているという。
そこから『向こうに行ける扉』を作って貰った。
これは今までで一番の発明だ~と弟は喜んでいたけど、それでも弟が作った魔道具の一つに過ぎないのだ。
『次元扉』でアカバネ商会に来て、初めて思ったのは、雰囲気が屋敷に似ている事だった。
屋敷では従業員達に仕事をさせ過ぎないように多く雇って一人一人の負担を減らしていた。
アカバネ商会では屋敷以上に好待遇だと言う。
それから私を紹介してくれた日にあの『アイドル』ナターシャさんに会えた。
握手してくださいって言ったら、ぎゅーって抱きしめてくれた。
とても良い匂いがして幸せになった。
そこから時々私の部屋にも作って貰った扉でアカバネ商会に遊びに来ていた。
そしてその中に目を見張る子を見つけた。
名前はディアナちゃんという。
今は店で案内の仕事をしているけど、この子、物凄く強い。
だからこっそり付きまとってみたら、彼女のお父さんお母さんが護衛隊の指南役夫婦でその娘さんだという。
その日に支店長のディゼルさんの元を訪れた。
明日からディアナちゃんを借りたいと伝えると喜んで連れてって良いと言われた。
どうやら、私の付き人として連れて貰えるならクロウのためにもなると、アカバネ商会は利益よりもクロウのために動きたいとの事だった、うちの弟は凄く信頼されていて愛されているんだと分かった。
次の日、朝現れた私がディアナちゃんを指名してこれから毎日うちの屋敷に連れて行くと伝えるとあわあわしてとても可愛かった。
それから毎日、私とディアナちゃんは稽古を行った。
今じゃお兄様達では物足りないので、ディアナちゃんは丁度良い相手になってくれた。
それから数日繰り返して、私からディアナちゃんにお友達になってとお願いしたら、泣かせてしまった。
どうやら初めてのお友達らしくて、私もお友達は少ないのでとても嬉しかった。
私の一番の親友、ディアナとお友達になった。
商会編もこの話で終わりですが、次の編も商会編の続きとなっております。
商会編投稿した週には色んな事があり、作者にとって一生忘れられない思い出になりそうです。
大量の誤字を報告してくださった方々、本当に心から感謝いたします。
そして次編もまだまだ続きますので、楽しんで頂けたら幸いです。




