45.アカバネ商会の実力
アカバネ商会の開店イベントとして初イベント『ライブ』は街の歴史で一番の盛り上がりを見せた。
その日、『ライブ』が終わって後、相場より三割安いにも関わらず売却客が後を絶たなかった。
そして開店から一週間程が経った。
アカバネ商会初めての一週間分の会計会議が行われた。
「では商会従業員の皆さん、初めての一週間お疲れ様でした」
アルテナの世界では、休み等存在しなかった。
店が休店日を設けるなんて殆ど無く、店主が働けなくなって臨時休くらいしか無かった。
アルテナでは日本と同じく一年十二か月法だった。
詳しくは知らないが、前世で『太陰暦』と言われていると本で読んだ事がある。
しかし、アルテナでは一年が十二か月ではあるが、その日数が少し違う。
全ての月が三十日であり、一年は三百六十日となっている。
月曜日等の曜日も無かった、三月の二十日等の言い方をしていた。
余談だが、一日は二十四時間計算のようで、そこは日本と変わらないようだ。
曜日の感覚がないアルテナの人々には、『日曜日』等の休日の感覚も無かった。
そこで、アカバネ商会は二日勤務し次の日を休日とした。
いや、しようとした。
そもそもダグラスさん達にはそう言う風に伝えていたはずだった。
しかし、ここで思わぬ事件が起きてしまった。
◇
それはアカバネ商会が開店した次の日の夜だった。
その日、僕は商会に顔を出して、皆さんを労い明日はゆっくり休んで欲しいと言おうとしていた。
そんなつもりで来ていたはずなのに……従業員全員僕の前に土下座をしていた。
え? 何で? 皆さんどうしたの?
店員組の代表役をしているピリンさんから口を開けた。
「クロウ様、どうか私達に働かせてください!」
「えぇ? 存分に働いて貰って……いますよ? だから明日はゆっくり休んで、また明後日から頑張ってください」
そう言っても皆さん立とうとしない、と言うかちゃっかりディゼルさんとナターシャお姉ちゃんも入っている。
「いいえ、そのお休みを頂けるのはとても嬉しい事でございますし、光栄でございます……ですが」
「ですが?」
「私は……いや、ここいいる全員、働く事がこれ程楽しいと感じたのは初めてなのです! 今までは奴隷として只々使われていただけで……食事や給金等貰えた事もありませんでした。
しかしアカバネ商会での仕事にはとても『遣り甲斐』を感じております。クロウ様の方針に逆らいたい訳ではございませんが私達はもっと働く時間を頂きたいのです!
どうか、休みの数をせめてあと半分減らして頂けないでしょうか! お願いします!」
「お願いします!!」×30
えええええ!? 皆さんもっと働きたいなんてどういう事なの!?
「僭越ながらクロウ様、我々の就業時間は普通に働く人達よりも短い上に働く環境も良く給金も数倍高い上にアカバネ商会の仕事は毎日楽しい事で溢れております。
その高い給金にも関わらず我々には休みまで頂けるのです、ですがこのままですと休みの日が多くなってしまいアカバネ商会の仕事を全うしたいと言う……奴隷時代から一度も思った事無かった我儘を言わせてください!」
アカバネ商会護衛隊のリーダー、カスカルさんからもこう言われてしまった。
そこからは僕に何も言わせないまま、ディゼルさんから「この案は従業員一同で相談の上の提案でございます、どうか目を通して頂きたい」と紙を渡された。
その紙に書いてある提案とは……。
①勤務二日休日一日を勤務五日休日一日に変更し休日は休店日とする
②休日が減った事の補填として、『自由休』を制定する
③『自由休』とは、半年以上働いた従業員に対して、毎月一日分を好きな日に休める権利とする
④『自由休』の使用は原則、本人のみ使用権利があり、オーナー及び支店長等の管理職より強制執行も拒否も不可能とする
⑤『自由休』を使用しなかったとしても罰則を与える事は出来ない
⑥『自由休』を使用しなかった月の分は繰り越し貯める事が出来、最大十日分まで貯められる
以上だった。
ディゼルさんとダグラスさんが悩みに悩んだ末に考え付いた案だったそうだ。
ディゼルさんが紙を渡してドヤ顔になっている。
『自由休』の考えは素晴らしいと思うが、休み数が少な過ぎじゃないかと言おうとした時にメイド組フネさんが口を開けた。
「私達のように子供がいる家庭ですと、急に子供が熱を出したり、旦那が仕事で怪我をしたりした日にこの『自由休』があることで、気兼ねなく休めるというのは、画期的で素晴らしいと思います! クロウ様、家庭がある従業員のためにも、どうかこの案件の承諾をお願い致します!」
「あ……あの……クロウ様、もし私が自由休を使えるようになったら、友人と一緒に一週間旅がしたいと思っています!」
「クロウ様! 僕は親が遠い街に住んでいるので、年に一度帰省に使いたいです!」
たくさんの方からそう言われると、この『自由休』は素晴らしい案件に思えた。
「分かりました皆さん! 今回の『自由休』案件、承諾します!」
「ありがとうございます!!!」×33
それで僕はある事を思い付いた。
「どうやら、僕の理想をただ叶えていても、それが皆さんの理想だとは限らないみたいですね」
少し場の空気が重くなる。
「僕はまだ皆さん程、お店で働いた経験もありませんから、全然気づきませんでした」
前世では十五歳だった僕だったから今世の年数を足すと二十歳を超えるのだが、社会経験というのは全くない。
「だから、今回こうして皆さんが必死になって、より良くしようとしてくれた事を本当に嬉しく思います」
皆さんの顔から不安の色が消えていった。
怒ってると思われていたのかも知れない。
「ですので、これからより良くするために、一つ思い付いた事があります」
皆さんが土下座から正座になった。
「これから『ご意見箱』を作ります!」
「『ご意見箱』??」×33
「はい、明日から休憩広場に『ご意見箱』を設置します、その隣に紙も置いておきますのでその箱にこうした方がより良くなると思う事を出来る限り細かく書いて箱の中に入れてください。
その際、平等を期すため書いた本人の名前は書かなくて良いです、そしてその案件を僕が必ず全て拝見し、毎月ある会計会議にて優秀案を発表します、その時その案を書いた人は名乗り出て貰い、特別賞金を出します。
金額は内容により僕が決めます。今回は初めての事もあるので、ダグラスさんとディゼルさんには大銀貨三枚ずつを贈ります。以上こんな感じで賞金もあるので、是非皆さん奮って応募してくださいね!」
◇
そうやって、アカバネ商会の正式的な初めての会計会議は開店から五日後の夜に行われた。
因みに、閉店後の会計会議なので全員強制参加だが全員時間外給金を出している。
そしてディゼルさんから今日まで購入した品の中身や総額等発表された。
買取しかしていないので、資金が減る一方のはずだ。
一週間(六日を一週間とし、休店日を除いた五日間)の購入額は金貨一枚分程だった。
金貨一枚もの大量の買取が出来た事に驚きだ。
しかし、何故か資金が全然減っていない。
「ディゼルさん? 資金が減っていない……というか、寧ろ増えてません?」
ダグラスさんが遠方で販売でもしていたのだろうか?
「はい、ここまでは支出のご報告でした、では次は収入のご報告を致します」
ん? 収入? うち買取専門店だよね?
「まず、初日の『ライブ』のおかげもございまして『プラチナカード』が飛ぶように売れました」
あ――あったな、そんなモノ。
『プラチナカード』は僕が木の板に固定魔法を使い数字表記されているカードだ。
後は店に置いてある木の板の数字を変更する魔道具――もとい僕の魔法が掛かった箱に入れて会計をするだけで数字が変更する仕組みだ、この世界では画期的な仕組みだと言われた。
余談だが、これで従業員の『算数』の能力が低くても問題無くなった。
木の板は使用したMPにより、保つのが半年で、半年後はただの木の板に戻る仕組みだ。
ただの木の板になったモノは持ってきてくれると次のカードに少し点数が増えるようにしている。
現在売っているのは初回用の一か月用だ。
確かに先日ディゼルさんに言われて、急ピッチで大量に作成したのを覚えている。
確か、ここ数日で一万枚くらい作ったような…
「今回初回の『プラチナカード』は特別に期間が一か月しかない代わりに、限定一万枚でした。そして完売しました」
へ?
「へ?」
驚いて心の声が漏れた。
「銀貨一枚の『プラチナカード』が完売しましたので、金貨十枚の利益になりました、このペースでしたら、一か月間の買取資金と全ての経費すら『プラチナカード』の利益のみで賄えそうです」
嘘ぉぉぉぉ!?
金貨百枚くらいあるんだよ!? それ使えないの? いや、使わないの!?
「それに更に」
え!? 更に?????
「ナターシャの案により、オーナーが作られた『水が出る魔道具』から水を汲み、ナターシャの顔絵が描いてある紙を貼った『プラチナエンジェル水』を売り出した所、常に完売になり、金貨一枚程の収益になりました」
「ナターシャお姉ちゃん!?」
「えへへ~、何だか『アイドル』になってから皆さんからチヤホヤされて……調子乗りました、ごめんなさい」
てへっ……て……ナターシャお姉ちゃん滅茶苦茶可愛い……。
「その後も『プラチナエンジェルクッキー』や『プラチナエンジェルパン』をご近所のお店と連携して販売し、その利益から金貨五枚収益がございました」
えええええ!?
金貨が減るんじゃなくて増えるの!?
これから暫く怒涛のナターシャさん無双が始まります、多分。




