44.商会開店とイベント
本当に信じられない！
昨日僕は商会に行って衝撃を受けた。
三日かかる仕事が二日で終わっていたのだ。
結果だけ見ればこれ程素晴らしい事はない。
けれどそれは高い能力によるものではなかった。
何せ彼らはまだ復活したばかりだ。
ではどうやって三日分の仕事を二日で終わらせたのか？
簡単だった、朝七時頃に起き、そこからずっと働きっぱなし、食事はしっかり摂るものの、すぐに仕事へ戻りそのまま深夜近くまで働き、数時間寝る。
それを続けていた。
僕はそんな商会を目指した覚えはないのに！！
凄く怒ったので、全員強制休暇の刑にした。
それと銀貨三枚ずつ渡して一日で使い切る刑にした。
もうこれでみんな無理して働かないでしょう！
◇
そして本日、遂にアカバネ商会の開店の日がやって来た。
既にダグラスさんの作戦により買取専門店として開店を宣伝していた。
店の外には見やすくするため、各種の品の買取金額を書いて表示している。
相場より三割も安く買い取るのだから、それを見た人達が鼻で笑ってる。
だが、それでいいのだ。
何故なら開店してからが本番だからだ。
ひとまず、ミリオン商会を買い取ったアカバネ商会として街内で噂になっていた。
買取専門店だと言う事でさらに噂になった。
最後に買取額が相場よりも三割も安く買うのが何か不気味だと噂になった。
何かあるかも知れない、そう思わせられたらこちらの勝ちだ。
そして遂に開店の時が来た。
ダグラスさんに開店の挨拶をして貰い、遂に開店した。
もちろんお客様は０人だ。
それもそうよね、態々安く売るなんて馬鹿な人か物好きな人くらいだ。
そして店の前にあれがやってきた。
そう！『舞台』だ！
舞台を作り、乱入者防止用柵を立てる。
従業員さん達による早業で数分で完成した。
何が始まるのかと野次馬が集まって来た。
そして完成したステージ上に我らの『アイドル』が上がった。
真っ白に仕立てたドレス。
清楚感を出しつつ、膝まで丈があるロングブーツを履きフワフワしたミニスカートを履いている。
太ももをピンポイントで協調しつつ、上半身は清楚感を出し、胸をあまり強調しない衣装だった。
なっ！！ あの子めちゃくちゃ可愛いぞ！！
なんて美しい人なんだ！！
やべー！ あの子たまらねぇ！！
舞台に上がるだけで黄色い声が聞こえてくる。
「こーんにちは！ アカバネ商会の『アイドル』ナターシャと申します～！」
事前に渡していた『声を大きくする魔法が掛かった棒』を持ち、挨拶をするナターシャお姉ちゃん。
するとステージの両脇に置いてある四角型の箱からナターシャお姉ちゃんの声が周辺に響いた。
実はこの棒に話した声は異次元空間を通り、両側の四角型の箱『声を大きく発生する箱』へ移動し、風魔法で声を拡散させる事が出来るのだ。
前世でテレビで見たまんまに作ってみただけなんだけどね。
広場の人達がざわついている。
「本日はアカバネ商会の開店祝い日として！ 私の『ライブ』を行いま～す！」
『ライブ』というのは歌って踊るあれだ。
だが周りの愚民どもはそれが何なのか分からないらしい、それもそうよね。
そして舞台の裏手に楽器隊が上がった。
もちろん、楽器隊にも『声を大きくする魔法が掛かった棒』を渡してある、声ではなくて楽器の音を大きくするのだ。
そこから『ライブ』が始まった。
急に大音量で音楽が流れ、麗しいナターシャお姉ちゃんが踊りながら歌っている。
元々運動能力抜群のナターシャお姉ちゃんは完璧に踊っていた。
歌もとても上手い。
僕はとんでもないものを生み出してしまったのかも知れない…
この日、貿易街ホルデニアで世界初の『ライブ』が行われた。
その主役である『ナターシャ』は一躍有名になり、通り名『プラチナエンジェル』と呼ばれるようになるのであった。
◇
『ライブ』が終わった。
「み～なさん、本日は私ナターシャの『ライブ』を聴いて頂き誠にありがとうございました～！ それでは、ここから少し宣伝させてください～！」
そう言いながらステージの上で正座をした。
くっ……見えそうで見えない……。
実はナターシャお姉ちゃんのスカートの中は僕の全力の霧属性魔法で見えなくしている。
誰も、僕でさえ、本人でさえ、スカートの中身は認識出来ないのだ、永遠に。
「実は私のこの『ライブ』はアカバネ商会で開かれるのですが……オーナーから売り上げを上げないともう二度と『ライブ』はさせないと…………言われて……しまいましたの……」
え？ ナターシャお姉ちゃん？ あれ？ 台本とチガウヨ？？？
「今日こんなに楽しか……った……『ライブ』が…………もしかしたら……今日で……最後……クスン」
ちょっと！？ ナターシャお姉ちゃん！ 本当に泣いてるし！？ ねぇ！？ 演技だよね！？
周りの男たちが物凄くざわついている。
「だから……私……店の売り上げを上げたい……んです、このお店には……お父様もいらして……二人て……頑張ります、ですので皆さん……少しで良いので……ちょっとずつでも良いので……ぜひあ・な・た・の……売ってください……」
あぁぁぁあざとすぎる～！ うぉぉぉナターシャお姉ちゃん僕が全力で売りますから～！ ってチガウ！ ソウジャナイ！
そこから男たちの怒涛の声がした。
絶対また『ライブ』させてあげるとか、店を街一番にするとか、もう次から次へと――――――。
そしてナターシャお姉ちゃんが正座から立ち上がった。
「みなさん～！ ありがとう～！ 絶対ですよ！！ また『ライブ』でお会いするの楽しみにしておりますからね～！」
そう話したナターシャお姉ちゃんが店の裏に戻って行った。
物凄い黄色い声援が飛んでいる。
そしてステージに今度は商会頭ダグラスさんが上がった。
「なんだよ～男かよ～」みたいな声が聞こえる。
「ゴホン、私はアカバネ商会頭ダグラスと申します。これから一点だけ宣伝させて頂きます」
さすがにナターシャお姉ちゃん程の声援はないか……。
そして、ダグラスさんがある板を取り出した。
「こちらに『プラチナカード』と言うものがございます。こちらは一枚銀貨一枚と高額ではあります」
「なんだ～ぼったぐりじゃねぇか～」と声が聞こえる。
「しかし！ こちらは半年間、我アカバネ商会に売って頂いた品の金額によって点数が加算されていきます！」
少し周りがざわついている。
「そして、なんと！ その点数は半年毎に上位者十名様へ特別な『ある券』をお渡しします！」
皆珍しく静かになった。
「その『券』の名前は――――『ナターシャ嬢握手会の券』でございます！！！」
うわぁああああああああ！！！！！
待ってました！！！！！
絶対一位取るぞ！！！！！
わおぉ……思っていた以上の――盛り上がりだ――。
「その『握手券』の使い道はご自由でございます！ 他人に売るも良し、握手会へ参加するも良し、参加しないもまた自由です！！ しかも初回の握手会のみ…特別に期間を半年から一か月に致します！ 奮ってご参加お待ちしております！！」
街からの声だけで大陸が揺れるんじゃないかってくらい歓声が上がった。
アカバネ商会の開店は物凄い勢いで好調に進んだのだった。
絶対一位取るぞ！！！！
