42.お迎え
「お客様ですよ~、アレウスさん~」
「アドバル殿」
「では、アレウスさん~こちらのお客様に自分達を売り込んでください~」
自分達を売り込む?
「オーナー、こちらの奴隷は恐らく契約奴隷だと思われます、奴隷になる代わりに売られる条件を指定した奴隷の事です」
「おほほ、ご明察です~」
「こういう契約奴隷は、命を引き換えにしてでも得たいものがある場合が多いです」
「命を引き換えにしてまで……」
何となく見ているだけでその条件を分かった気がした。
「俺は銀狼族アレウスと言う、こちらは妻のヘレネ、そして後ろは娘のディアナだ。俺らの奴隷条件はたった一つ、娘の病気を治してくれ、娘の命さえ助かるなら何でもする」
やっぱり……そうだったね。
「ん? でもその娘さんが病気とのことですが……仮に売られる前に娘さんが亡くなったらどうなるのですか? 伯爵さん」
「おほほ、その場合両親が私の通常奴隷となります~」
銀狼族の両親が物凄い殺気で伯爵さんを睨んだ。
「ん……、では何故僕に紹介を? このまま飼い殺せば両親二人を奴隷に出来たのでは?」
「おほほほ、その通りです~、ですが先程話したように~私は奴隷達を蔑ろにしたくないんですよ~」
「だから……僕に紹介……と」
「そうです~こちらの契約奴隷達はとても強いですよ~? どうなさいますか~?」
「はい、ぜひ買わせてさせてくださいと言いたい所ですが、まだこのままではいけませんね」
「何か問題がござますか~?」
「両親は良いのですが、まだ娘さんからはやる気を聞けていませんでしたので」
「おほほほ、そうでしたね~アレウスさん、娘さんを前に出してください~」
「ッ! 娘は良いだろう! それに本当に治して貰えるのか!?」
凄い剣幕になるアレウスさん。
「ん……それは約束しますよ、しかしこのままでは時間も勿体ないので伯爵さん、この檻の鍵開けて貰えませんか?」
「ほぉ~、良いですよ? でも……あの二人は凄く強いですよ~?」
「えぇ、構いません」
そう言うと、伯爵さんが檻を開けてくれた。
檻に入ると銀狼族両親が臨戦態勢に入った。
僕は構わず、奥にいる娘さんに向かって歩いた。
すると銀狼族両親が僕を目掛けて飛び掛かってきた。
「闇の手」
そう唱えて闇の手て両親を縛る。
両親は何が起きたのか分からず、狼狽えている。
五月蠅そうなので、口も塞いでおいた。
伯爵さんが僕に目掛けて飛んできそうな気配があったが、銀狼族両親がただ縛られているだけど気づいて、落ち着いていた。
伯爵さんが飛んで来たら、流石に手加減出来なかったかも知れない。
そのまま奥にいる娘さんの前にたどり着いた。
「ぅ……ぅ……」
随分弱っているらしく苦しそうにしていた。
「このままでは話すことも難しそうだね。ではまず、『ハイヒール』」
『ハイヒール』で娘さんの顔が少し良くなった。
「あ……あぅ? …………痛みが……あれ?」
「こんにちは、僕が見えるかい?」
娘さんが僕を見上げた。
茶髪に犬耳があり、黒い瞳が綺麗な少女だった。
病気で痩せてはいるが、普通の状態だとさぞかし綺麗な少女だと思う。
「は……い」
「僕の名はクロウ、君達の購入を検討している者だよ、君の名は?」
「あ……わたしぁ……ディアナ……と……申します……」
「ディアナちゃんだね、ではここから僕の話を良く聞いてくれる?」
黒い瞳が僕をしっかり見つめて、小さく頷いた。
「君達家族を僕の商会の従業員に迎え入れたいんだ、しかし残念ながら僕も無償では受け入れられなくてね、僕は君と君の両親の三人を迎え入れて君達の安全とこれからの生活を守ろうと思っている。
その代わりに君達は僕の商会で誠心誠意で働いて欲しい、それが出来る覚悟があるならディアナちゃんの病気も全て治してあげるよ」
「え!? 本当に……私の病気を?」
「ああ、約束するよ」
「病気治っても……またお父さんお母さんと一緒に住める?」
「勿論だよ、君達三人は家族だからね」
「もう私の病気のせいで……お父さんお母さん苦しまない?」
うん……この子、自分の事よりも今まで守ってくれた両親の心配をしている。
僕はそっと優しく頭を撫でてあげた。
少女はポロポロと涙を流した。
「私の病気のせいで…………お父さんお母さん……ずっと苦しんで……だから私…………早く死にたかった……でも……本当は……お父さんお母さんともっと……生きたかった……元気になったら……頑張るから……お願い……します」
銀狼族両親もボロボロ泣いている。
本当にこの親子はお互いを大事にしているのね。
「よし、では僕が君の病気を絶対に治してあげるよ。これから君達は僕の所に来ると良い、お二人もそれで良いですね?」
闇の手で口を塞いでいるので喋れなかったが、涙を流しながら大きく頷いていた。
それから僕は伯爵さんに代金を支払い、三人の『契約の紙』を貰い、支店へと戻って行った。
◇
「ん~三十人近く増えるのだから部屋を増やさないといけないね」
店の裏手には大きい倉庫がある。
元々ミリオン商会時代の倉庫だ。
この倉庫を改築する事にした。
まず最初に粉々に粉砕した。
え? 改築じゃない? 大丈夫! 改築だよ!
その後、土属性魔法と木属性魔法で先程の倉庫と同じ広さの二階建ての建物を作った。
各部屋の間取りもそこそこの広さがあり、一階には広場を作り食事や休憩も取れるように作った。
「え!? クロウくん!? この建物は何!?」
ナターシャお姉ちゃんが驚いていた。
ダグラスさんは「もう驚きません……」と言っていた。解せぬ。
建物作るのに数時間掛かったようで、欠損奴隷達と銀狼族一家が運ばれてきた。
全員新しい宿舎の一階に集められた。
「それでは奴隷の皆さん、これからは従業員として商会で働いてくださいね、これからの事は全部こちらのディゼル支店長から説明がありますからね」
うん、奴隷……いや、これから従業員になる皆さんの目がキラキラしている。
「これは前祝い的なものです」
そう言いながら僕は先日使用した『エリクサー』と『ソーマ』の合わせ技を使用した。
光が部屋中に満ち、欠損奴隷達の欠損部位から手足が生えてきたり、目が見えるようになったり、銀狼族少女の病気も完治した。
新しい従業員達は泣いて喜んだ。
これから誠心誠意で勤めさせて頂きますとみんな口を揃えて話していた。
それから、歓迎会としてフィーネさんが作ってくれた料理が大量に並び、歓迎会が開かれた。
僕は家の用事もとい、お姉ちゃんの呼び出しと門限で参加出来なかったけど……。
「あれ? クロウ、何か良い事あったの?」
ご機嫌なのがお姉ちゃんにすぐにバレた。
猫耳ならぬ狼耳!
狼だから犬耳か




