40.奴隷商人
いつも誤字報告本当に助かります。ありがとうございます!
握手会を決めた次の日
僕はダグラスさんを訪れていた。
「成程――信頼出来る従業員を増やしたいんだけど、どうしたらいいか――ですか」
「はい、ダグラスさん達の事は家族同様に信頼しています、ですがそういう人材を簡単には獲得出来ないんですよね」
「俺達の事を信頼して頂いてる事、感謝しております。そうですね…ちなみに、それは能力が有る者に限られますか?」
ダグラスさんは商売力、アヤノさんは武力、ナターシャお姉ちゃんは魅力、ディゼルさんは管理力。
皆さんそれぞれ大きな力があるからだろう。
「いえ、能力は全く無くてもいいです。ただ努力はして貰わないといけませんけどね」
「ふむふむ、では能力を抜きにして、即信頼出来る人材を獲得する方法は……、ございますよ」
「え!? 本当ですか!? しかも即?」
「はい、それはとても簡単な事です。その方法とは奴隷を買う事です」
「どれい?」
僕は首を傾げた。
「詮索するつもりはございませんが、オーナーはきっとどこかの綺麗な身分の貴族様なのでしょうか、だから奴隷にはあまり聞き慣れていないかもしれませんが、この界隈で最も単純な労力は奴隷です」
そう言えば、以前港街セベジアで首輪をした獣人さんを目撃した事があった。
「奴隷は基本奴隷首輪か奴隷魔法で契約されます。『契約の紙』以上の効果を持ちます、そして彼ら奴隷は人とは見なされず、基本物扱いとされます」
「ッ……」
人を物扱いか……魔法を覚えてから、この世界を歩き回って人の命の安さを分かっていたつもりだった。
しかし、思っていた以上に権力者達が全てを支配しているこの世界では人の命すら簡単に支配する事が出来ていた。
前世では国だの民主主義だの言っていたけど、僕の家は常に父親が一番だった。
父親から受けていた虐待もその当時は当たり前だった。
この世界に来て、新しい家族や仲間達が出来てそれが異常だったと今更ながら思う事が出来た。
「オーナー、これは失礼に当たるかも知れませんが言わせて頂きます。奴隷の事を見て、可哀想だと思ってはなりません。彼らには彼らなりの理由で奴隷になっていますし、仮に仕方ない事情があったとしても、それを全員助ける事は不可能です。助ける事で終わりでもないのです。一番大事なのは助けてからですので、単純な正義感で彼らを購入し解放する事だけは止めた方が良いと忠告させてください」
僕の一瞬の葛藤を見抜いたダグラスさんから忠告された。
それもそうだ、前世でも僕達兄妹の事を知りながらも何もしなかった連中もいる。
ただ助けるだけではいけないのだと、今になって分かった気がした。
「はい……、一瞬とは言えそんな事思ってしまいました。ダグラスさんありがとう、これからも僕が失敗しそうな事は迷わず忠告してくださいね」
「勿論でございます。オーナーは素晴らしいお方でありますが、まだ子供です。まだ知らない常識や経験がありますから、それを俺が補います。オーナーも悩み等ございましたらいつでも相談してください」
つくづくダグラスさんと知り合えたのがどれ程運が良かったのか実感出来る。
「では、改めて、奴隷を購入したいと思います」
「オーナー、本当に奴隷でよろしかったんですね?」
「はい、僕が欲しいのは優秀な従業員ではありません、既に僕には優秀な従業員が沢山います、今欲しいのはその優秀な従業員達の手と足となり、働いてくれる従業員です。奴隷は強制する事にはなりますが、僕は彼らを従業員として迎えるつもりです。ですので、働く覚悟がある奴隷だけを購入しようと思います」
「奴隷を従業員として迎える――ということは給金や休み等も従業員として接するとの事で宜しいですね?」
「はい、きれいごとかも知れませんが、せっかく働いてくれるのなら僕は彼らが奴隷だろうと従業員として接します」
「かしこまりました。オーナーのその自由な発想、このダグラスは何処まででも付いて行くまでです」
そう言い、ダグラスさんは奴隷商人を探しに行くと出掛けて行った。
奴隷を……人を買うってとても複雑な気持ちだ。
あれから数時間が経って、ダグラスさんから奴隷商人に案内すると言われたので奴隷商会にやってきた。
最初の印象は建物がとても綺麗な事だった。
そして、出迎えてくれたのは奴隷首輪をした十歳程の男の子だった。
彼に案内され、客室で待っていると、扉からノック音がした。
扉が開き、入って来たのは――。
「初めまして~わたくし、この奴隷商会の店主のアドバルと申します~!」
大きかった、何が大きいって腹だ。
太っているというか、体全体肥満体形だ。
顔には合わない小ぶりなメガネをして帽子を被っていた。
しかし、問題はそこではなかった。
念のため、精霊眼を全開にしていた僕に写ったのは、
『身体偽造』というスキルが掛かっていて詳細が分からないようになっていた。
しかしこの男、滅茶苦茶強い。
こんな肥満体形なのに、今まで出会った人の中で一番強かった。
普通に見てる分には『身体偽造』のせいか普通に太ったおじさんくらいの気配しかしなかった。
精霊眼じゃなかったから絶対気づかなかったと思う。
「オーナー、こちらのアドバルさんは奴隷商人の中でも有数の商人でして、奴隷伯爵と呼ばれております」
「奴隷伯爵……?」
「おほほ、そんな大層な称号など、私には勿体ないでございます~」
通り名とは裏腹にのほほんとした口調で話す伯爵。
「それで、本日はどのような奴隷をご所望でございますか~?」
「アドバル殿、こちらがアカバネ商会のオーナーでございます」
「オーナーのクロウです」
ダグラスさんに紹介されて挨拶をした。
「ほぉ~私には小さい子供にしか見えませんが……」
「僕はまだ六歳ですからね、伯爵と似たものは持っていませんのでご安心を」
一瞬伯爵の顔から笑顔が消えた。
先程とは違い、真剣な目で僕を見てくる、いやこの部屋に入った瞬間からずっと見られていた。
伊達に『奴隷伯爵』の通り名を持っている訳でもなさそうだ。
「伯爵さん、僕は本日初めて奴隷の購入に来たので、宜しければ奴隷の事、教えて貰えませんか?」
「おほほ、かしこまりました、小さき賢人さん」
小さき賢人か、初めて言われた。
「奴隷は主に犯罪奴隷と借金奴隷に分けられます。犯罪奴隷は犯罪を犯し罰として奴隷になった者ですね、借金奴隷は借りたお金を返せず自分の身体を奴隷として売って借金を返した奴隷になります~」
なるほど、奴隷って強制的になるわけではないのかな?
「それと誘拐等で攫われて強制的に奴隷となった者もいますよ~?」
ッ!? 何だか心を読まれた気分だ。
「うちの店にはそういう奴隷はございません、主に扱っているのは借金奴隷でございます~」
「オーナー、こちらのアドバル殿は界隈でも有名な『借金奴隷』専門の方なのです」
なるほど、だからダグラスさんはここに連れて来たのか。
能力は高いが、犯罪奴隷は裏切る事がある。
勿論奴隷の間は裏切らないが、もしも解放した瞬間……。
「それと奴隷達の価格ですが~、能力によって価格が決まります~」
やはり価格は能力次第か。
「それと~これはまだ小さき賢人さんにはまだ早いと思いますが~玩具用奴隷が一番高い価格になります~」
「……?? 玩具用奴隷?」
「ごほん、オーナー、玩具用奴隷は……主に遊ばれるあれです」
「ッ!?」
顔が熱い!
玩具って……玩具って!!
「おほほ、小さき賢人さんは初心でございますね~子供はそのくらいが丁度良いものです~おほほ」
くっ……この伯爵さん、出来る!
「まぁ、先程のお返しはこのくらいにしましょうか」
おおっ、急に低い声を出すと伯爵さん雰囲気あるな。
まぁ、実物はとんでもなく強い人だからね。
「では、クロウ様、本日はどのような奴隷をご所望でしょう~」
「そうですね、忠誠心の強い奴隷が良いですね、能力は問いません」
「ほほぉ~、忠誠心ですか~」
「裏切られたくはありませんから」
「おほほ、面白い事を仰いますね~奴隷は裏切れませんからね~でもそうですね、忠誠心は大事です~」
少し考えた伯爵さんが口を開けた。
「忠誠心が強ければ、能力は問わない、それで間違いませんね~?」
赤ちゃんみたいなそもそも働けないのはちょっと困るけどね。
「かしこまりました、とっておきの、購入さえして頂ければ忠誠心があるに違いない奴隷、ございますよ~」
「本当ですか!?」
「ッ……まさか……」
ダグラスさんはちょっと暗い顔になった。




