38.僕の商会
ミリオン商会のお嬢さんに『エリクサー』と『ソーマ』を使って一日が経った。
今回初めて人に使用したので、どれ程の速さで完治するのか楽しみでもあった。
そして、昨日その結果が分かった。
一瞬だった、一瞬で回復し、完治した。
完治した上に、彼女の一年間寝込んでいた体力までもが回復した。
どうやら、この技は病気や呪いで減っていた体力も回復してくれるようだ。
お嬢さんは昨日既に元気になって、歩き回れる程になっていた。
そして今日、契約通り『ミリオン商会』を貰い受けるためにやってきた。
昨日は宿屋に泊まると言い、ミリオン商会を後にしていた。
ミリオン商会に着くと、店内ではミリオン商会の者全員が待っていた。
店主のディゼルさん、お嬢さん、メイドのフネさんと他二人、料理人の格好一人の計六人だった。
店内に入って直ぐに六人全員から頭を下げられた。
「クロウ様、改めてお礼を言わせてください、娘を……娘を助けて頂きありがとうございました」
ディゼルさんから代表してお礼を言われた。
「いえいえ、これも取引ですから」
「それでもです。どんな薬や聖職者も匙を投げた病気でしたから……」
それから皆さんと挨拶をした。
お嬢さんはナターシャさん、メイドさん二人はコロンさんとケイラさん、料理人さんはフィーネさんだという。
「それでは、こちらが所有権になります」
そう言いながら僕の前にいくつかの紙が並んだ。
ミリオン商会の正式な商会証明書、店の建物証明書、店の土地証明書だった。
「こちらがミリオン商会の全てでございます」
各証明書に僕のサインを入れる。
サインと言っても『クロウ』と書くだけだ。
契約書が小さく光り、正式的に土地と店と商会の権利が僕の物となった。
「それでは……、ありがとうございました」
そう言いながら六人ともに荷物を持った。
「ちょっと待ってください」
「はい? どうかしましたでしょうか?」
「その荷物は?」
「はい、もうミリオン商会はクロウ様の物でございます。ですので部外者である私たちはここから出なければ…………」
六人全員少し悲しい表情をしていた。
「それは何か勘違いをなさってます、僕はミリオン商会の全てを頂くと契約したはずなのですが?」
「はい? 申し訳ございませんが、そちらの権利証三枚が全てでございます。他の権利等何一つ残っておりません……」
「いいえ、僕が言っていたのは権利だけではありません。僕はミリオン商会の全てが欲しかった。だから力を貸したのです」
皆キョトンとなった顔で僕を見ていた。
「ミリオン商会の全て――つまり、みなさんもそのまま従業員になって貰わないと困るのです」
そう言うとみんな驚いた顔になった。
「皆さんの事は信頼してはいますが、僕の力を他所に話されては困りますし……何よりこの商会を動かすのにみなさん程心強い方達はいませんから、ここは無理にでも皆さん全員に従業員になって頂きますよ?」
それから皆さんには何も言わせないまま、ダグラスさんに預けていた従業員契約書を各自に渡した。
①ディゼルさん
貿易街ホルデニアの支店長として雇う、給金は大銀貨一枚だ。
②お嬢さん
商会の看板娘として雇う、給金は大銀貨五枚だ。
③その他皆さん
メイドさん達は店員と清掃係で、料理人さんはそのまま裏方の料理人として従業員皆さんの朝食と昼食を作って貰う。
給金は皆銀貨三十枚だ。
勿論毎月の給金だ。
そして、ここ一年間ミリオン商会で無償で働いていた彼女らには、支払われていない一年分の給金大銀貨三枚と銀貨六十枚ずつ渡した。
これが従業員になる彼らに提示した内容だ。
商会が軌道に乗れば、全員給金上げもする予定で、特にディゼルさんとお嬢さんは要なのでどんどん上げる予定だ。
契約書読んだ皆さんが慌てた。
「クロウ様! お待ちください! これではあまりにも好条件でございます、私はまだ半分も受け取れません!」ディゼルさん
「私の給金だけ物凄く高いのですけれど、この看板娘仕事とはなんでしょうか?」お嬢さん
「こんなに給金貰えるのに休みが三日に一度!? しかも一年分!?」その他皆さん
そんな彼らの前にダグラスさんが立ち上がった。
「皆さん、『オーナーの商会』では働きやすくて、努力が報われる商会を目指しておられます。皆さんに提示した給金と休日の多さはそれを体現している証拠です。そしてこれからもこの姿勢を貫くでしょう。
私はこの待遇の良さに負けないように全身全霊で勤めると誓いました。ですので、皆さんも覚悟を決めて、その給金と待遇に恥じない働きをすれば良いのです。いえ、それしかございません。
オーナーに目を付けられた時点で、私達はその期待を裏切る事も許されません、ですので甘んじて好条件を受け入れて働きでお返しするべきです」
ちょっとダグラスさん!? そんな立派な考えだったの!? 何か僕だけ軽く考え過ぎなのかな?
だって、仕事は楽な方が良いと思ったから、やる事さえしっかりやってくれればそれで良いんだけどな。
皆さんダグラスさんの話を聞き、僕を見つめながら覚悟を決めた顔になった。
え!? そんな気を詰める事なの!?
「僭越ながら私からも同じ事を申し上げます。あと、これだけは言っておきますね。オーナーには絶対に逆らうな、です。」
ちょっと!? アヤノさん!? 何で脅しなの!?
悟った顔で語るアヤノさんを見て、全員納得したように頷いている。
違うんだ……僕は皆さんと仲良くしたいだけなのにな……。
皆さん納得したようで『契約の紙』にサインをして、無事(?)従業員になって貰った。
「そう言えば、クロウ様の商会の名前がまだ分からないのですが、名前は何ですの?」
お嬢さんから言われて気づいた、商会の名前まだ話してなかった!
皆さんが僕に注目している。
でも大丈夫、もう商会の名前は決まっている。
「名前は――『アカバネ商会』とします」
こうして、僕の商会『アカバネ商会』が始まった。




