32.商会始動
「では、改めてダグラスさんアヤノさんよろしくお願いします」
「はい」「はいっ!」
「まず、ダグラスさんにはこの袋を再度預けます」
「ありがとうございます」
僕はもう一つ『次元袋』を取り出した。
「これはアヤノさんの袋です」
既にアヤノさんの血を少し取っていたので、次元袋の承認済みだ。
「では二人とも、よく聞いてください。それらの袋は普通の『アイテムボックス』ではありません」
「そうですね、この『アイテムボックス』の収容量が異常に広いと感じておりました」
「そうですね、そもそもこちらの袋は『アイテムボックス』ではないんです」
「――ッ!? 『アイテムボックス』ではない……?」
またもや、ダグラスさんを驚かせた。
「これは僕が魔法で作った『次元袋』という袋です」
「次元……袋?」「魔法??」
「はい、僕はちょっと特殊な魔法を使えます。先程見せた『闇の手』なんかもそれです」
アヤノさんが『闇の手』の言葉に身震いした。
「こちらの袋、共有出来るんです。僕の許可で細かく共有を決められます。今現在二人の袋には『資金』のスペースに出し入れ許可を出しています、二人共袋の中を見てください」
「おぉ! たしかに金貨六十枚が!」「き……金貨が……こんなにたくさん……」
「はい、あと『商品』スペースはダグラスさんが出し入れ、アヤノさんは入れのみ許可出しています」
「なるほど、これを使えば効率良く商売が出来ますね」
「そうです。ちなみにこの袋がいくつでも作れますし、最初登録した人のみが使えるので、もし無くしても全く問題ないので、この袋を人質に取られても問題ありません」
「分かりました」「オーナーは一体……」
ダグラスさんに袋を三個渡した。
「ダグラスさん、これは資金と商品のスペースに出し入れ許可が出ている袋です。ダグラスさんが任せれるという人がいたら、渡してください、もちろん商会の加入者前提ですが」
「かしこまりました」
「では、今度は半年後に帰還してください、その時もう少し良いアイテムが出来そうですから」
「半年ですね、かしこまりました」
「あと、給料ですが、ダグラスさんから見て、給料はどのくらいが妥当ですか? もちろん働きに見合った金額で」
「……、俺もアヤノさんも銀貨五十枚ってところですね」
「ご……五十枚!?」
アヤノさんが驚いた。
「銀貨五十枚ですか……年間大銀貨六枚……安いですね?」
「安い!?」
また驚くアヤノさん。
「いえ、銀貨五十枚もだいぶ多く見積もった金額でございます、この『次元袋』を考えれば商売は勝ったようなものですから」
「う~ん、いくら『次元袋』があっても商売の才が無いと宝の持ち腐れですからね、僕では商売は無理ですから、よし、では給金を決めましょう。ダグラスさんは毎月銀貨百五十枚、アヤノさんは毎月銀貨百枚で」
「オーナー!? それは多すぎです」「ひゃ……百枚ですか!? そ……そんなに……!?」
「いえ、聞いてくださいダグラスさん。僕はたしかにこういう袋を作れますが、商売は全然出来ませんでした。仮に『次元袋』が使えても三か月で大銀貨十枚を金貨六十枚には増やせられません。これは純粋にダグラスさんの力です。
僕はこの街でたくさんの商会や商人を見てきました。能力に見合った待遇を貰ってない人が大半いることに怒りすら感じました。だから、僕は出来るだけ適切な待遇を与えたいと思ってます、ですのでお二人の給料は一旦この金額で決まりです。
ですが、お二人とももっと貰える程の才がありますから、もう少し商会が大きくなったら、また給金を上げましょう。それに僕は『家族』は守りたいですから」
前世で仕事が上手くいかなくなってから父親は暴れるようになったと近所の人が言っていた。
だから出来る事なら、味方には好待遇で思いっきり気持ちよく働いて欲しい。
人生楽しく生きて欲しい、そう思ったから。
「それと、休みですね、各月一日くらいしか休みがないんですよね、他の商会さんは」
「そうですね、基本働き手は休みは月一です」
この世界では休みも少なかった。
前世で学校に通ってる時でも土日は休みだったのに…
休みは大事だ。
「では休みは我が商会では月十回にします」
「十日ですか!?」「もう何がなんだか……」
「はい、落ち着いたら二日働き一日休みを繰り返すようにするのが理想ですね」
「オーナー、失礼ですが、そんなに休みを与えては給料を貰えない従業員が……」
「給料はそのままです、給料は基本平均の倍を出しましょう」
「休みが十日に……給料は倍……ですか?」「???」
「そうですね。お二人のように遠征を行う場合はまとめて取ってもらうか、目的地で取って貰いましょう」
そこからダグラスさんからは非常識だと言われたけど、その休みと給料でも十分利益を叩き出せると言ったら、納得してくれた。
寧ろ僕の理想を実現させると活き込んでくれた。
アヤノさんはもうボロボロ泣きながら感謝された。
そして、三日後に街を発つと言うので、またその時顔を出す事にした。
次の日
とある魔法を試した。
イメージは前世であった電話だ。
あの魔法が作れたら、とても便利じゃないかと思った。
まず魔石中型を丸く削り、水晶のような形にした。
そこに『異次元空間魔法』を固定させる。
袋ではないので、物を出し入れは出来ない。
そこに『電話』のスペースの出し入れの許可を出した。
そして『電話』スペースに風属性魔法と霧属性魔法を巡らせた。
その風属性魔法に声を乗せれるようにして、霧魔法で結界化させて声が分散しないようにして送り出せるようにして瞬時に電話と同じ事が出来るようになった。
大成功だ!
『電話の水晶』と言うのも変だから『遠話の水晶』と名付けた。
しかし水晶のままだとどうやって持ち運ぼう?
たまたま近くにいたお姉ちゃんがそれ見て、「水晶を持ち運びたい? ブレスレットかペンダントにしたらいいんじゃない?」と。
うん! うちのお姉ちゃん天才だ!
ブレスレットにする事にした。
◇
◆アヤノ・キリガクレ◆
私は霧隠綾乃と言う。
生まれ育った東帝国から逃げ延びたけれど、両親が力尽き、妹弟七人を育てるのに村の生活だけでも難しく、出稼ぎで港街セベジアにやってきた。
どの商人を見ても待遇の酷い事ばかり、ある商人は性的な事まで強要してきた。
そんな中、若い商人が多額の取引をしているのを見かけ、彼の事を調べる事にした。
名前はダグラス、以前からこの街で商売をしていた商人で、大量の商品を取引していた。
そんな彼の泊ってる部屋の隣部屋を取り、ちゃんと真っ当な仕事をしているか見極める事にしたが、どうやら私の思惑はバレていたらしい。
気がつくととんでもない闇の手で縛られ、六歳程の子供の前に出された。
その子供は、今まで見てきたどんな人よりも強いと直感した。
彼の言われるまま、正直に誠心誠意で答えた。
結果、私は彼の商会に雇われる事になった。
死ぬまでただ働きにされると覚悟していたが、どうやらとんでもなく好待遇で迎え入れられた。
給金もかなりの金額で、休みも月十という今まで聞いたこともなかった。
ダグラスさんに相談し、休みはまとめて貰う事にした、これで定期的に妹弟がいる村に帰れる。
そして、給料を先出ししてくれ、すぐに村に送った。
本当に感謝しかない。
最初は殺されるかと思ったけれど、オーナーは私に取って最大の恩人となった。
これからオーナーの商会のため、全身全霊を持って働いて御恩を返すと誓った。




