335.色欲と純情
◆色欲の間◆
レイラが辿り着いた広場は、多くの男たちが至る所に転がっていた。
その先に見えていたのは、大きなベッドの上に横たわる一人の女性。
「へぇー、私の相手は女なのね……ってあんたたちの中に男はいなかったものね」
「あら、そんな事はありませんよ? 私の旦那様がいらっしゃいます」
「ふうん? みんな綺麗な顔だったけど、男もいたのね、まあいいわ」
「初めまして、私はレイラと申します」
「ふう~ん、あんた、貴族?」
「はい、皇室生まれです」
「そう……だからそんな丁寧なのね。ほんと……貴族と聞くだけで虫唾が走るわ」
「既に皇族を離れた身、今の私は旦那様の妻の一人に過ぎませんから」
「…………ちっ、女に生まれて男に媚びを売るとは、小さい女」
「……そうですね。私も昔はそう思っておりました、旦那様に会うまではね」
「ふん! そんなにやけ話はいらないわ! あんたみたいな女は直ぐに終わらせてあげる!」
女は立ち上がると、鞭を取り出した。
「私の名はケイラ! 全ての男を貪る女よ!」
ケイラの鞭が容赦なくレイラを襲う。
短かった鞭も、放たれるとその縄が何処までも伸びていた。
「剣技、朱雀型、鳳凰閃」
レイラとすかさず、飛んでくる鞭を跳ね返す。
ケイラは鞭を器用に操り、攻撃し続けた。
数十合、攻撃を跳ね返す。
「しぶとい女だね! さっさと私の鞭に打たれればいいのよ!」
ケイラは鞭をもう一本取り出し、二本の鞭がレイラを襲った。
数合跳ね返した鞭だったが、一瞬の隙に鞭の一本がレイラの右腕を捕まえた。
「ふふっ、やっと掴まえたわ」
「掴まえただけでは私は倒れませんよ?」
「ふふっ、それはどうかな?」
直後、レイラの視線がふらついた。
「!?」
片膝をつくレイラ。
「その鞭にはね、あのドラゴン族ですら眠らせるという睡眠毒が入っているのよ、掴まったが最後、貴方もこれで終わりね」
「くっ……」
そしてレイラが倒れ込んだ。
「あはは! 何が皇族よ! 何が旦那様よ! あんたみたいな女は――」
レイラを踏みつけようとするケイラ。
その時だった。
踏み下ろした足をレイラの腕が掴む。
「なっ!?」
「残念……掴まえたわ……」
「あ、あんた……まさか! 自ら舌を!?」
レイラの口からが綺麗な赤い血が流れていた。
そして、足を引っ張ったレイラは倒れ込むケイラを左手の盾で殴った。
鈍い音と共に、ケイラが吹き飛ぶ。
レイラは立ち上がると、事前に準備していた『女神ポーション』を飲んだ。
「ふぅ……緊急事態だったとはいえ、旦那様の身体を傷つけてしまった……あとで謝らないと……」
一つ溜息を吐くレイラ。
そして、飛ばされたケイラが起き上がった。
「ゆ、許さない!! 私の美しい顔に傷をつけるなんて!!」
顔に大きな打撲の傷を負ったケイラが怒り出した。
「あら、さっきよりは良い顔になりましてよ?」
「ふ、ふざけやがって!!!!」
両手にそれぞれの鞭を巻いたケイラ。
――そして。
「大罪ノ進化! 色欲ノ傀儡!」
禍々しいオーラに包み込まれるケイラ。
そして、真っ黒く短い裾のドレスの姿になった。
「私にこの力を使わせるなんて! ユルサナイ!!」
ケイラは既に理性を失っており、真っすぐレイラに仕掛ける。
「傀儡とはまた皮肉ね……神格化! 純情ノ天使」
ケイラの拳を光に溢れたレイラが片手で止める。
そして、レイラの背中に四つの美しい羽根が生えた。
直後、右手に持っていた小さい盾でケイラを殴る。
ケイラは腕を掴まえられ、避けれずにそのまま盾に殴られ吹き飛ぶ。
吹き飛ばされたケイラは再度姿勢を整え、またレイラに仕掛けた。
目にも止まらぬ速さの連続打撃がレイラを襲うも、レイラは左手の大盾と右手の小盾で全ての攻撃を防いだ。
数十撃の打撃を全て防ぎ切ったレイラ。
ケイラが一瞬距離を取った時、レイラが構える。
「鞭より貴方の拳の方が効きましたよ」
そしてレイラは両手に持つ盾を合わせた。
「絶対防壁の盾! バースト!」
「ぎ、ぎやあああああああ」
レイラの盾から放たれた凄まじい波動に飲まれたケイラは、二度と立ち上がる事はなかった。
レイラは部屋中に転がっていた男達に『女神ポーション』を使い、救助活動に乗り出た。




