329.言い伝え
『決戦の日』まで後、三日。
本日は魔族のアンセルさんから会って欲しい魔族がいるとの事で、『避難所』の魔族階に来てみた。
大きなトラブルを避ける為、それぞれの階で人々を分けている。
魔族達が暮らしている階の入口でアンセルさんが待っていた。
「クロウ、今日はわざわざわりぃな」
「いえいえ、是非との事でしたから。アンセルさんの事ですから、きっと大事な事でしょう」
「うむ。既にシュメルが向こうで待っている。俺に付いて来てくれ」
アンセルさんに付いて行った先にあるテントの前に着いた。
「ゲルダ様、アンセルでございます」
アンセルさんがテントの前で声を掛ける。
すると、中からシュメルさんが出てきた。
シュメルさんは頷いて、僕を中に案内してくれた。
◇
「ようこそ……初めまして……ゲルダと申します……」
「初めまして、クロウって言います」
「本日は……このような場所に……お越しくださり……ありがとうございます……」
テントの奥にベッドがあり、ベッドの上にはお婆ちゃん魔族が一人、横たわっていた。
セシリアお義母さんと一緒に作った起き上がるベッドに横たわっており、ベッドで起き上がっていた。
多分待っていてくれていたのかな?
「ゲルダさん? 本日はご用があるとの事でしたが……?」
「ええ……この老いぼれの……『言い伝え』を聞いてくだされ……」
「『言い伝え』??」
ゲルダお婆ちゃんは頷いて返してくれた。
僕はゲルダお婆ちゃんのいざないでベッドの隣にある椅子に座った。
――そして、ゲルダお婆ちゃんの言い伝えを聞く事になった。
◇
それはそれは昔の出来事。
とある王国に『ノア』という少年が生まれた。
ノアは幼い頃から才能に溢れ、気付けば王国一の才能を持った若者になっていた。
そんなノアは周りからの嫉妬が始まり、執拗な虐めに合うようになった。
耐えかねたノアは町を離れ、旅を始めた。
その頃、大陸に『魔王』が現れたと噂が出始める。
ノアは旅の途中、初めての友人が出来た。
彼は自分の事を『勇者』と名乗り、一緒に『魔王』を倒そうと誘われた。
ノアは彼の誘いを快く承諾し、旅の末、『魔王』と呼ばれていた者を討伐した。
――しかし。
その後。
何故かノアは人々に怒りを抱き、親友であった勇者を要する国ごと滅ぼした。
かの天才――『賢者ノア』はこうして『魔王ノア』となった。
大陸は『魔王ノア』によって、滅亡する事となった。
◇
「これが……私が言い伝える……物語で……ございます……」
ノア……。
魔王ノアという名は非常に有名だ。
色んな物語の本でも良く出てくる名で、魔王と言えば『ノア』というのは、中央大陸でも広く知られている。
だから子供の名前を『ノア』にするのはタブーな事と見られている。
今回ゲルダお婆ちゃんが話してくれた言い伝えに出てきた『魔王ノア』。
天使の皆さんが話してくれた『魔王ノア・デュカリオン』が被って見えるように聞こえていた。
◇
『避難所』の魔族階から戻った僕は、エレノアお婆ちゃんから呼ばれてシエルさんが過ごしている『ウリエルのダンジョン九層』にやって来た。
「クロウティア様、いらっしゃいませ」
「シエルさん、エレノアお婆ちゃんにヴィンお爺ちゃんも!」
相変わらずエレノアお婆ちゃんとヴィンお爺ちゃんは仲睦まじい様子だ。
エレノアお婆ちゃんを救出してから片時も離れないみたい。
それにエレノアお婆ちゃんは、既に力を使い過ぎて自力で歩く事も厳しいそうだ。
ずっとヴィンお爺ちゃんに抱きかかえられている。
「まもなく……戦いが始まりますね」
「はい……」
「ふふっ、クロウティア様、これを持って行ってください」
「これは?」
シエルさんが渡してくれたのは、小さなお守りだった。
「私達エルフ族に伝わるお守りです、危機から一度だけ救ってくれると言われています。クロウティア様のご無事を祈っております」
「シエルさん、ありがとうございます! 大事にしますね」
シエルさんは優しく微笑んでいた。
「クロウくん、もしこの先『女神の石』を見つけた場合……飲み込みなさい」
「ええええ!? エレノアお婆ちゃん!? その石って飲み込んでもいいんですか!?」
「ええ、大丈夫だわ。既にラス様の石は『世界樹』の中にあるわ。シス様の石は……恐らくアハトシュラインが持っていると予想されるから、もし手に入ったら、飲み込んでしまいなさい」
エレノアお婆ちゃんがいきなり言うものだから驚いてしまった。
『女神の石』って……そのまま飲み込んでも大丈夫なのだろうか……。
少し不安を覚えた僕はエレノアお婆ちゃんの不敵な笑みが忘れられなくなった。




