327.大規模避難と女神祭
『決戦の日』まで後、九日。
避難目前に『女神祭』を行う事が決まった。
セナお姉ちゃんから「こういう時だからこそ、祭りが必要ね」の一言から各国のお偉い方々まで納得させて、『女神祭』が急遽決まった。
場所は『避難所』であり、日時は明後日行われる。
その理由は、明日『大規模避難』が始まるからだ。
『避難所』は十分な規模ではあるけど、普段過ごしている環境から大きく変化するので、『決戦の日』の八日前に『大規模避難』が決まった。
本日はその『女神祭』に向けて、みんなでアカバネ大商会で演目の確認や、出店などを大急ぎで進めた。
次の日。
世界では『大規模避難』が始まった。
『決戦の日』にどういう事が起きるか分からない。
だから、『避難所』に集中させ、全力で守る事にしているからだ。
多くの人達が不安に駆られているのだろうと思っていたけど、意外にも全くそういう気配がなかった。
その最も大きな理由としては、アカバネ大商会と女神教会にあった。
世界に降臨した女神クロティアが見守っている。
その言葉が多くの人々の中に勇気を与えているのだろう。
更にアカバネ大商会の支援も滞りなく進んだのが良かったと思う。
その日。
世界からたった一日で、全ての人々がいなくなった。
◇
『決戦の日』まで後、七日。
『避難所』で大規模の『女神祭』が行われた。
各ステージには歌手やアイドル、ダンサーたちによるライブがひっきりなしに開かれ、全ての露店から食べ物がタダで提供され、多くの人々がその日を満喫した。
最後の最後に、既に引退していたナターシャお姉ちゃんコールが始まり、その勢いが止むことがなく、ナターシャお姉ちゃんがステージに上がると割れんばかりの声援が送られた。
ナターシャお姉ちゃんも久々のステージを堪能し、最後には多くの歌手、アイドル、ダンサー達と平和を祈り踊ってくれた。
人々の心に勇気を燈すナターシャお姉ちゃんのステージは、永遠に彼らの心に刻まれるだろう。
その日の夜。
僕達は出番が終わったナターシャお姉ちゃんを迎える為に、裏方を訪れた。
その時、アカバネ大商会の清掃隊の隊長を任されているミラさんが、扉の隙間からアイドル達を眺めていた。
「ミラさん?」
「!? クロウ様、お恥ずかしいところを……すいません……」
「いいえ、そう言えば、僕の所為で東大陸のお寺の清掃はありがとうございました」
まだミラさんにお礼を言っていなかった事を思い出した。
「ふふっ、クロウ様は相変わらずでございますね……」
何処か寂しい彼女の笑顔が気になった。
「誰か知り合いでもいました?」
「っ!? い、いいえ……何でもございません、お先に失礼致します」
ミラさんは逃げるようにその場を去った。
……。
…………。
う~ん、確かミラさんって誰かを探していたような??
「クロウ。ミラさんは娘さんを見つけられるかも知れないから、アカバネ商会でずっと頑張っているのよ?」
奥からナターシャお姉ちゃんが現れて、そう話してくれた。
「あ! そう言えばそうだったね! ナターシャお姉ちゃん、お疲れ様!」
「うん! ありがとう! みんなもね!」
ナターシャお姉ちゃんと合流して、その娘さんを探してみた。
名前は『ルリア』ちゃんという子みたい。
……。
って!
ルリアちゃんって今をときめく次世代アイドルの一人じゃ!?
え?
僕でも知ってるよ。
帝国出身のアイドルで、帝国アイドルランキングで一位であり、その可愛さと一生懸命さが評価されているアイドルだった。
実は僕は彼女に少し面識がある。
それは、各国の首脳会談の時、最も人気があるアイドルさんだよってナターシャお姉ちゃんから紹介されたからだ。
ナターシャお姉ちゃんとは仲が良いみたいで、時々帝国で会ってお茶したりしていた。
◇
『避難所』の首脳陣用の建物の一角に、僕の執務室も用意されていた。
僕はわざと執務室を汚した。
その後、ミラさんに清掃を頼んだ。
ミラさんは相変わらずの素早い対応で、僕が汚した執務室を直ぐに掃除してくれた。
ミラさんの掃除が終わった直後、外で掃除が終わるまで待機している僕に一人の女の子が挨拶に来てくれた。
「やあ、ルリアちゃん。忙しい所にごめんね?」
「い、いいえ! クロウ様の用事でしたら一番優先すべきですから!」
どうやらルリアちゃんは、僕に恩義を感じている節がある。
ナターシャお姉ちゃんに吹き込まれ過ぎな気がする……。
「そう言えば、ルリアちゃんがアイドルを頑張っていると聞いて、渡したい物があってね」
「わぁ! それはとても楽しみです!」
ううっ、めちゃ喜んでるけど、果たして喜んで貰えるかな……。
「それはそうと、ルリアちゃんが探し人がいるってナターシャお姉ちゃんから聞いたけど、折角『避難所』に集まっているから探してみようと思うんだけど、どう?」
「えっ!? …………、ごめんなさい……とても嬉しい提案なんですけど…………、私が今更お母さんと会っても……きっと迷惑に……」
「迷惑? どうしてそう思うんだい?」
「………………お母さんは私の為に、『奴隷落ち』になったんです……私の病気を治す為に……私はお母さんのおかげで何とか生き残る事が出来て……アカバネ商会様……クロウ様のおかげで病気も完全に治りました。でも、お母さんは……いまでも奴隷として苦労していると思うんです……こんな親不孝な私に会っても…………でも! 何とかお母さんを見つけて、私が頂いたお給料で奴隷解放したくて! だから、クロウ様、お母さんを見つけたら奴隷解放できるように口添えを……」
「ルリア!!」
執務室の中から溢れる涙を流して、ミラさんが出て来た。
「え!? お母……さん!?」
「ルリアちゃん……ごめんなさい、守ってあげる事が出来なくて、酷い母を許して欲しいの……」
「そんな! お母さんは私の為に奴隷になったんだよ! 嫌いなはず……ないよ…………今でも大好きなんだもん……」
「ルリアちゃん……」
二人は抱き合い、涙を流した。
久しぶりの親子の再開に、僕も嬉しく思う。
何処か……リサとお義母さんが思い浮かんだ。
「ミラさんは今までずっとアカバネ商会を支えてくれた方なんだよ? 昔から僕達を支えてくれた大事な人なんだ。ルリアちゃん、君のお母さんは誇らしいお母さんだよ」
ルリアちゃんの満面の笑顔が眩しかった。




