318.決戦、魔王
「ん? お前ら人間だな……ここの壁を壊せるとは……大したものだ」
玉座に座っていた魔王が見下ろしていた。
僕とリサの姿は、前世の面影が全くない。
恐らく、気づかないのだろう……。
しかし、僕とリサは気づいてしまった。
彼が前世の父と同じ顔、同じ声、同じ仕草をしている事を。
「ほ、本当にあいつ……なのかな?」
「…………」
情けない。
分かっているのに、身体が動かない……。
「ん? クックックッ、ここまで来れたのに、怖くて動けないのか? それにしても、お前ら……何処かで俺と会った事があるのか? ん?」
「……貴方が魔王ね? …………アカバネという名に聞き覚えは?」
リサの言葉に魔王の顔が一気に強張った。
「お前、どうしてその名を…………まさか…………」
「……ええ、久しぶりです……父さん」
「っ!? まさか、理沙なのか?」
「……ええ」
「くっくっくっ、あーははは! じゃあ、その隣で震えているのは黒斗か! ガハハハッ! まさか、この世界にまで来て、お前らと会えるとはな!」
「……それは私達の台詞です」
愉快そうに笑う魔王の前に、リサが僕の手を握りしめた。
……震えている。
リサも震えていた。
ああ……何て情けない!
僕は……強くなったんじゃないのか! 動け! 今動かなきゃ……またみんなを悲しませる事になるかも知れない!!
- スキル『感情無効』により、恐怖無効を発動します。-
優しい《天の声》さんの声が聞こえてきた。
ありがとう、メティス。
僕は魔王を睨んだ。
「もう僕達は貴方の子供じゃない! 今すぐこの戦いを止めなければ……」
「ほぉ……止めなければ?」
「…………今度は僕達が貴方を止めます」
僕はリサの手を強く握り返した。
リサも真っすぐ魔王を見つめている。
「くっくっくっ、くーはははっ! 俺が止める訳がないだろう! 大嫌いな人間共を駆逐出来る機会をみすみす捨てる訳がないだろうが!!」
魔王の叫びで物陰からモンスター達が現れた。
「無限モンスター生成!!」
更に魔王の詠唱で天井や後方に多くのモンスターが出現する。
「みんな! 僕の隣に来て!」
僕の声にリサとお爺ちゃんが僕の隣に集まった。
「水属性魔法!」
大きな水流を作り、現れたモンスターを全て水で流した。
「なっ!?」
「次はお前だ! 魔王! 光属性魔法!」
十本の光の槍を作り出し、魔王に放つ。
魔王が成す術なく、光属性魔法に刺さり動けなくなった。
「なっ! 何だこれは……う、動けない! 無限モンスター生成!!」
恐らく、あのスキルでモンスターをずっと作り続けているのだろう。
新しく現れたモンスターを闇の手で素早く処理する。
「!? ふ、ふざけるな!!!」
魔王が叫んだ。
「また、またお前が俺を邪魔するのか!! 黒斗!!!」
「…………あの頃、酔っ払っていたお前がずっと叫んでいたのを覚えている……僕が……そんなこともしらないと言った言葉の腹いせだと何度も言っていたよね……」
「そうだ! 俺はお前の所為で全てを無くしたんだぞ!! 仕事も! 愛する妻も!」
「……でも、それはお前がそう選んだのだろう? それをさも僕が全て押し付けたみたいな言い方をしているけど……残念ながら、それを聞いても僕は納得出来ない。今回の事もそう。折角魔王として生まれたのなら……魔族の為に生きていれば良かった。人族と戦おうなんて思わなければ……」
「く、くははははは! 黒斗、お前も喋れるようになったな! あの頃はひたすらに怯えてい――」
「今の僕は違う。黒斗じゃない。クロウティアだ。だからお前の前に立っているし、お前の悪逆非道な現状も止める。僕はこの世界で、人を愛する事を覚えた。だから、愛する人達を守る為に戦い続けるんだ!」
「くっくっくっ、愚かな奴……俺を倒した所で、この崩壊は終わらない! あはははは! 結局、お前の負けだよ! 黒斗! 守れるものなら守ってみろ!!」
魔王は何かを叫ぶとそのまま灰となって消えっていった。
僕の光属性魔法に長い時間刺されていたからだろう……。
まさか……魔王が前世の父でこういう事をしていたなんて想像もしていなかった。
――その時。
パチパチパチパチ
拍手の音が聞こえた。
消えた魔王が座っていた玉座に、いつの間にか現れたその人達が、そこにいた。
玉座に座っている影が一人、その隣に六つの影が見える。
そして、一人、僕達の手前に立っている。
その男が拍手をしていた。
いつの間にか現れた彼らに驚く暇もなく、僕は自分の前に立ちふさがって拍手を送る人に目を奪われた。
「いや~、流石だね~クロウくんは。相変わらず強いよ。僕達八神柱の中で最弱とはいえ、あの魔王をこんなに簡単に倒せるだなんてね~」
嬉しそうな笑顔を浮かべ、拍手を送っている彼。
幾度も夢見た彼の姿に、僕は頭が真っ白になっていた。
赤い髪、赤い目、優しい顔立ち。
しかし、鍛え抜かれた身体は、僕が知っている彼ではない事を物語っていた。
「どうして君が…………イカリくん…………」




