311.レイラvsスニカーグル
◆西領都◆
「初めまして、私はレイラと申します」
「ふむ……俺はスニカーグルという」
「やはり……貴方がここの領主様ですね?」
「いかにも…………其方は侵入者だな?」
「ええ、ここの『オベリスク』を破壊させて頂きます」
「…………」
スニカーグルは小さく頷き、背中に背負っていた長い太刀を抜いた。
それに呼応するかのように、レイラもまた自身の剣を抜いた。
「ほぉ……人族の女にしておくには、勿体ないくらいだな」
「ありがとうございます」
レイラの構えで、普通の人ではない事を悟ったスニカーグル。
こうして、加虐の四天王のスニカーグルとレイラの戦いの幕が開けた。
最初に仕掛けたのは、スニカーグルの太刀であった。
大きな太刀がレイラを襲うも、レイラは左手盾によって防ぎ、右手剣によって反撃を試みる。
しかし、レイラの剣は空を斬る。
間合いは既にスニカーグルの得意な間合いに入っており、レイラは数回彼の剣戟を凌ぐものの、少しずつ劣勢を感じた。
そんな中、何気ないスニカーグルの一撃が盾に当たる直前。
「盾技、シールドバッシュ」
レイラの盾がスニカーグルの太刀を跳ね返す。
本来のシールドバッシュは人を打つ時に利用されるが、武器を跳ね返す事にスニカーグルの表情に驚きがあった。
すかさず、レイラは「剣技、青龍型、神速剣」を試す。
カーン
レイラの剣は見事にスニカーグルを斬った。
斬った事に間違いはなかったが、残念な事に、金属がぶつかる音が響く。
体勢を崩したスニカーグルだったが、レイラの剣戟に合わせて、太刀の柄の部分で引き留めていた。
一旦、距離を取るレイラだったが、距離を取って間もなく、スニカーグルの猛烈な剣戟が襲い掛かる。
「剣技、玄武型、快海断!」
「剣技、大蛇丸」
レイラの大振りな攻撃も、スニカーグルの的確な攻撃に防がれる。
「剣技、朱雀型、百花炎」
レイラの剣と盾から炎が伸びる。
「剣技、火燕斬」
真っ赤に燃える太刀がぶつかる。
二百合。
レイラとスニカーグルの剣戟が二百合を超えた頃。
「はあはあ…………」
レイラは既に多くの体力を使い果たしていた。
普段なら堅実な戦いをするレイラだったが、それが通用するのは自分より才能のない者だけである。
今、彼女の前に立っている魔族は、その大きな太刀を自由自在に使える歴戦の戦士である。
堅実な戦いが通用するはずもなく……。
「レイラとやら、降伏するなら命までは取らん。今すぐ帰るがよい」
「……貴方様はとても優しい方なのですね……クロウくんが話していた人族と魔族は分かり合えるかも知れない……そんな日がきっと来ると思うんです」
「……」
「ですけど、このまま私が逃げたら、それは実現しません……貴方の後ろにあるモノを壊さない限り、貴方達はそこを離れられないでしょうから……だから、ここは何が何でも超えてみせます」
「……」
「スニカーグル様、貴方を最強の戦士と認めます。だから、私も隠した力を使わせて頂きます」
彼女の言葉に、一歩後ろに下がるスニカーグル。
「見せてみるがよい、其方の力でここを突破してみよう」
「解放、玄武ノ剣聖」
剣聖。
それは、人類最強の職能の一つである。
最強である理由。
それはただステータスが高かったり、剣聖専用スキル『剣聖術』が使えるだけではない。
『剣聖術』を極める事で、『剣聖』は次なる段階に進む事が出来る。
『剣聖術』には不思議と、それぞれの得意な属性が存在する。
『青龍』『白虎』『朱雀』『玄武』。
四つなる属性のうち、最も得意となる属性の事だ。
その『属性』を極める事で、次なる段階――――『属性の解放』が使えるのである。
この力は、神をも殺す事が出来るとまで言われた力だ。
かつて、アクアドラゴンをも圧倒した『剣聖』がいた。
彼の最も得意とした『朱雀ノ解放』が無ければ、人間がドラゴンに勝る事なんて出来なかったのである。
レイラの全身から青い光が溢れ出した。
青い光は少しずつ形を保つ。
そして、その光は鎧となり、盾となった。
「スニカーグル様、これで貴方との勝負に決着を付けさせて頂きます」
彼女の言葉にスニカーグルも目を開き、笑みをこぼす。
こういう強い存在との戦いはいつぶりか……。
滾る血を抑え、彼は太刀を構える。
「いつでも来るがよい、俺の刀の錆にしてやろう」
「剣聖技、絶対防壁の盾!」
青い光を放つ盾のまま、レイラは仕掛け始める。
動きは先程よりは素早く、スニカーグルの太刀を物ともせず、斬り掛かる。
だが、スニカーグルはまだ余裕があるまま、斬り合っていた。
――数十合。
「ふん、どう強くなったかと思えば、こんなもんか」
スニカーグルの目が大きく開いた。
「奥義、地烈燕牙連斬!」
無数の剣戟がレイラを襲う。
急いで剣戟を防ぐものの、数撃は防ぎ切れず、少しずつ、確実にレイラの傷を増やしていった。
スニカーグルの怒涛の斬撃が終わり、ひと呼吸の間。
レイラが大きく息を吐いた。
既に身体中が傷だらけの彼女は立っているのがやっとのように見える。
「スニカーグル様。ここまで戦ってくださりありがとうございます……次は、私の最大攻撃です」
「ふん、律儀に自分の最後を告げるとは……面白い。受けてたとう」
「奥義、白神の燕返し」
スニカーグルの低い声が響くと、深く構えた。
「では、いきます。剣聖技、絶対防壁の盾・解!!!」
レイラの盾の光が眩しく光り輝いた。
そして、今まで受けたスニカーグルの斬撃が蓄積された盾からは、強大な水流がスニカーグルを飲み込んだ。




