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293.ヤマタイ国の防衛

 ◆東大陸のヤマタイ国、ガブリエルのダンジョン◆


 イセ町はガブリエルのダンジョンを中心に作られている町である。


 現在、町の住民達の避難が終わり、ダンジョンの入り口前には多くの戦士達で囲まれていた。


 前方には普段からダンジョンに潜っている強者達、更に国軍も混ざり、その時をじっと待っていた。


 そして、彼らの後ろには、ヤマタイ国の女王もまたその時を待っていた。


「女王陛下」


「うむ」


「戦いの準備が整いました」


「ご苦労。姫神の旦那の要請だから間違いはないはずじゃ。気を引き締めてかかれ」


「はっ」


 女王は一度()の空を見つめ、再度ダンジョンの入り口を見つめた。


 自分が最も愛した子供、姫神。


 その圧倒的な力から、呪われていた彼女をここまで見守って来た。


 そんな彼女が認め、尽くすと決めた旦那。


 優しくも可愛らしい外見からは想像も出来ないような強さの持ち主で、長年不可侵地域となっていた最北端になる『絶山』の主である神獣『白狐』の王を従魔にしたという。


 それだけで彼の強さが分かるのだ。


 しかし、女王にはもう一つ、大きな気掛かりがあった。


 彼の名前は『クロウティア』。


 その名を――忘れるはずもないある名(・・・)を思い出させるのだった。



 微かに地面が揺れ始めた。


 間違いはないだろうと思ってはいたけど、出来れば嘘であって欲しいとも思っていた。


 モンスターの群れがダンジョンから溢れ出るという情報。


 にわかに信じがたい事であったが、この揺れから確信へと変わった。



「ヤマタイ国の兵士達よ! 女王卑弥呼(ひみこ)が命じる。これから多くのモンスターが溢れ出るだろう。そいつらを一匹残さず倒すのじゃ!」



 女王の号令で周辺からは、今までにない歓声に包まれた。


 女王ヒミコは、東大陸を瞬く間に統一した実力者であり、その管理能力が非常に高く、美人としても人気であった。


 女王の為なら死んでも良い。


 これはヤマタイ国に身を置いている戦士達の殆どが思っている事でもあった。


 そんな女王からの号令、そして――――彼女だけが使える特別な『神術』がまた多くの者の心を躍らせた。



「神術! 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の解放」



 女王の詠唱と共に、両手に持っていた勾玉(まがたま)から、赤い光が溢れ、その場にいた全ての兵達を包んだ。


 ヤマタイ国に伝わる伝説の武具の一つの八尺瓊勾玉やさかにのまがたまを使えるのは女王のみであり、その力は力を授けた者達の力を飛躍的に向上させる『神術』である。


 その威力は、クロウティアの『神々の楽園(アヴァロン)』にも匹敵するほどである。



 大きな揺れと共に、ダンジョンの入り口からは無数のモンスターが溢れ出た。


 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の力を授かった兵達は、次々モンスターを倒していった。




 ◇




 ◆東大陸ヤマタイ国、アリエルのダンジョン◆


「私は一人で良いと言ったはずなんですが……」


「申し訳ありません、ですが私達は姉上(・・)と共に戦いたいのです」


 姫神は目の前に自分と瓜二つの女の子二人と見つめた。


「ナミ……ナギ……貴方達まで危険な目に合わなくても……」


「いいえ! 姉上、私達も既に成人しております。昔のままではありません。ちゃんと戦えます」


 ナミの言葉に、隣にいるナギも力強く頷いた。


 ナミもナギも姫神の妹である。


 二人は双子として生まれ、生まれたその日から、その才能が分かる程に特別な存在であった。


 しかし、彼女達が生まれても姫神は会う事は出来なかった。


 いつ自分が暴れだすか分からなかったヒメガミは、自ら彼女達を敬遠していたのだ。



 事は双子が五歳を迎えた時に起きた。


 姫神以来となる特別な職能を授かったのだ、二人共に。


 姫神の火ノ神(カグツチ)


 ナギの雷神(らいじん)


 ナミの風神(ふうじん)


 姫神に続き、二人も特別な職能が生まれた事を喜ぶ女王であったが、その傍ら、姫神の呪いについての心配もあった。


 しかし、女王の心配を余所に、双子の彼女達には呪いは見られなかった。


 一つだけ気になるのは、双子のナギが声を発せられない事くらいであった。


 もう一人のナミとは、話せなくても意思疎通が取れているので、二人は常に一緒に行動していた。



 彼女達はそれぞれ大きな力を付けながら十五歳となった。


 十五歳となった彼女達が真っ先に行ったのは、今まで弱い自分達だからこそ会えなかった実姉である姫神の元だった。


 それから姫神とナミ、ナギの三人は直ぐに仲良くなり、大事な家族となった。



「とても嬉しいのだけれど……貴方達『ツクヨミ』が二人もここにいると向こうが心配です」


 『ツクヨミ』は全員で六人であり、姫神、ナミ、ナギの三人もその中に含まれる。


「大丈夫です! 向こうには『アヤ』さんに『トオル』にぃにと『ケヤキ』さんもいますから、更にお母様もご一緒ですよ!」


「えっ!? 『ツクヨミ』だけでなく、お母様まで!?」


 彼女達の言葉に、何処か嬉しくなった姫神は、自然と顔が緩んだ。


 自分が愛した旦那様の忠告を真剣に聞いてくれた母親への嬉しさからだろう。




「分かりました。ナミもナギも私のサポートをお願いしますね。二人には今まで見せられなかったけど、今回は私の――――大事な力を解放しますから」




 その言葉の直後、彼女達が立っていた所でも揺れを感じた。


 姫神は一つ大きく深呼吸をし、大事な旦那様から貰った『異次元空間』から『最大火属性魔法』を取り出して、喰らった。


 そして、大きな火ノ神体状態となった時、ダンジョンからモンスターの群れが溢れ出た。




「この力で守って見せる! 旦那様の為にも」

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