289.作戦アブソリュート
今日より最終章に入ります!
拙いですが戦闘シーンが大量に増える予定ですので、温かく見守ってくださると嬉しいです。
ここからは色んな事が判明しますので、ぜひお楽しみに!
大きな地震と共に現れたのは、大きな大陸だった。
中央大陸と東大陸と、丁度三角の位置になる場所に、中央大陸の二倍程の大きさの大陸が現れた。
遠目でも見えるその大陸は、真っ黒い大地に、生者等いないと言わんばかりの枯れ果てた大地のようにも見えた。
◇
【緊急事態宣言! 管制塔より緊急事態宣言! これから全ての関係者及びアカバネ職員達は、ダンジョンにより現れるモンスターの群れを対応してください! 作戦『アブソリュート』を発令します! ――繰り返します】
管制塔の管理を任されているのは、判断力に優れているミューズさんという方だ。
彼女は特殊職能で、人を動かす事が得意な方で、管制塔が完成して以来、ずっと管制長官をお願いしていた。
今や全ての街を把握しているアカバネ管制塔システム。
こういう日が来た時、既に対応が決められていて、幾つかの作戦が決められていた。
その中でも、最も危険度が高いと判断された場合に発令される作戦が『アブソリュート』だ。
この作戦が発令された事で、アカバネ大商会だけでなく、各国にもその連絡や指示が送られた。
◇
僕は現在、空を飛んで暗黒大陸に向かっている。
セナお姉ちゃんからは、もしもの時までに『神格化』は使わないようにと釘が刺されているので、ソフィアと共に通常飛行魔法で向かっていた。
向かっている間、管制塔のミューズさんから逐一で現状報告が届いていた。
まず、一番の問題はモンスターの群れ、つまり、『スタンピード』だ。
三か月前の魔族の到来時は、中央大陸一か所、東大陸一か所だった。
今回は、全てのダンジョンから、前回と同等数のスタンピードという事だ。
本来なら、僕も防衛に入りたいのだけれど、以前の戦争で僕は守りに入り、大事な人を失ってしまった。
だから、僕に出来るのは、最強の盾ではなく、最強の矛として最前線に出る事を決めた。
全てのダンジョンはそれぞれに各国の国軍と共に、アカバネ大商会の兵力も分けてスタンピードに対応する事となった。
①アーライム帝国領のミカエルのダンジョン。
『戦慄の伯爵』を主力とする帝国軍の大半が対応する。
②アーライム帝国領のラファエルのダンジョン。
大器の賢者アレクサンダーさんの主力とする帝国軍と『剣聖』レイラお姉さん率いるアカバネ戦闘隊で対応する。
③フルート王国領のカマエルのダンジョン。
先見の賢者フェルメールさんを主力とするフルート国軍全体で対応する。
④ヤマタイ国領のガブリエルのダンジョン。
女王様率いるヤマタイ国軍全体で対応する。
⑤ヤマタイ国領のアリエルのダンジョン。
火ノ神の力を用いたヒメガミさん一人で対応する。
こちらは、ヒメガミさんの頼みでもあって、火ノ神の力が大きすぎるが故に、味方をも巻き込むので一人で対応したいとの事だった。
事前に、僕の火属性魔法を『異空間』に収納しており、いつでも火ノ神の力を解放出来るようにしている。
⑥グランセイル王国領のアズライールのダンジョン。
ブレイン家を主力とした王国軍大半で対応する。
以上が、今回の対応だった。
この中にないダンジョンが二つある。
アカバネ島にあるウリエルのダンジョンとグランセイル王国のエクシア領にあるルシファーのダンジョンである。
この両方は、何故かスタンピードが起きておらず、今は対応する必要がないので、その他を対応する事となった。
◇
暫く飛んで向かった僕の前に、一人の男が立ちふさがる。
見た目からして、『魔族』そのものだった。
「ほぉ……人間にも空を飛べる者がいるとは」
外観からでもその強さが伝わってくる。
前教皇程ではないが……それに近い雰囲気があった。
「初めまして、僕はクロウって言います」
「ふむ。人間にも礼儀ある者もいるようだな。俺は魔王軍四天王の一人、スニカーグルという」
「スニカーグルさんですね。これなら話し合いが出来そうですね」
「ほぉ……話し合いか」
一応、いつでも応戦出来る態勢は取っておく。
「ここに一人で来たという事は、それなりの立場の人間だろう。それで、何の話し合いをしに来たのだ? 人間」
「こちらを襲っているモンスターの群れはスニカーグルさん側から送られていると思うんですが、どうしてなのかを教えて貰いたいんです」
「…………魔王様の意向だ」
「魔王様……、その魔王様に会える方法はありますか?」
「ないな」
スニカーグルさんはふざけているようには見えない。
真剣に受け答えてくれているように見えるし、精霊眼でもそれが本当の事だと教えてくれた。
「僕は戦わない道があるならそれを選びたいんです」
「ふん…………残念だが、その願いが叶う事はない。魔王様から人間共と全面戦争の命が出た以上、人間には滅びて貰う」
何となくだけど、スニカーグルさんがこうして話し合ってくれているから、彼も本当は戦いたくはないのではないかと思えた。
もし、本当に滅びて欲しいなら、問答無用で僕を攻撃してきても良いくらいのはずだから。
「貴様は人間の中では幼い部類だろう。今は少しでも安全な所で余生を楽しむとよい」
「……ごめんなさい。僕は守りたい人達がいるから、この戦争を止めたいんです…………止めるまでは逃げませんし、戦いもやむを得ないと思ってます」
僕の言葉に、スニカーグルさんは一つ溜息を吐き、両手に長い槍を取り出した。
「残念だが、ここは通さん」
その気迫から彼の凄まじい強さが伝わった。
僕達人族の最強戦士は、今でも『戦慄の伯爵』さんである。
僕の前を塞いでいるスニカーグルさんは、魔王軍四天王というだけあって、『戦慄の伯爵』さんよりも強い威圧感を放っていた。
こういう魔族が、あと少なくとも三人もいると思うと……何とか、この戦争を早く止めないといけない気がした。
「では、行かせていただきます」
僕の言葉に身構えるスニカーグルさん。
――――そして、僕の全力の風属性魔法が彼を襲った。
「なっ!?」
咄嗟に羽と槍で僕の魔法を防ぐも、その勢いで彼は暗黒大陸に落とされた。
僕は風属性魔法が暗黒大陸に届いた時に、見えないバリアのようなモノで防がれた事を確認する。
【クロウくん! 暗黒大陸には、『不可侵の結界』が張られていて、中にも入れなければ、攻撃も通らないわ!】
メティスが瞬時に解析してくれたおかげで、バリアの正体を知った。
僕は使える魔法を一通り、全て試してみるも、バリアはびくともしなかった。