286.追想の再生
「本当に、良いのだな?」
「はい、奥さん達には……ううん、僕を知っている皆さんには申し訳ないのだけれど……お爺ちゃんも僕に取って、大切な一人なのは間違いないですから。僕に出来る事をやります。それに……僕は皆を信じてますから」
シヴァさんは僕の覚悟を聞いて、安堵したように溜息を吐いた。
隣のお爺ちゃんは悲しそうな表情をしていた。
「はい、ではお願いします」
「…………分かった。――――――『追想の再生』」
シヴァさんの優しい口調の詠唱で、僕の体から眩しい光が溢れ出た。
◇
僕がアマテラス神様こと、お爺ちゃんに訪れるように言われた理由。
それは、僕にシヴァさんを紹介したかったみたい。
何故、紹介したかったのか。
そもそも、この神界と呼ばれている世界は、『想い』が力となり、構成されているという。
その『想い』から過去と未来を司る存在として、お爺ちゃんとシヴァさんの二人が生まれたという事だった。
ただ、二人とも、元々は僕が思っているような、全知全能の神様のような存在だったみたい。
でも、全知全能の神様は『意識』がないという事だ。
つまり、無意識で、世界を作り、生命を生み出したそうだ。
生み出された世界と生命が、長い年月を経て、成長し、世界に『魂』が溢れるようになった。
お爺ちゃんもシヴァさんも、無意識の頃は、こういう世界を目指していたそうだ。
そして、完成した世界から『魂の想い』により、神界はますます大きな力を得る。
その力により、お爺ちゃんとシヴァさんが顕現したという事だった。
ただ、二人も『意識』を持ってしまったが為に、気持ちというモノが生まれてしまった。
そして、二人は長い年月を経て、自分達が生み出し、見守っていた人々の『悲しさ』を目の当たりにしたそうだ。
悲しい気持ちが溢れるようになり、段々と、自分達の『神』を思う想いも減って行ったそう。
こうなってくると、最終的に『意識』を持つ神様は、その意識を保てなくなる。
そうなれば、再度、『意識』がない神様の状態に戻るというのだ。
――――それはつまり、今のお爺ちゃんとシヴァさんが……『死ぬ』という事だ。
僕は、それを何とか助けられないかと聞くと、お爺ちゃんは嫌がったけど、シヴァさんが方法を教えてくれた。
ここは想いが力になる場所。
想いが強ければ強い程、その想いの力は増える。
条件として、この神界にいる存在が、現世で想い焦がれる事により、力が流れてくる。
東大陸の『お寺』では、『天照大神』が祀られており、祈りを捧げる事で、お爺ちゃんの力が増していく。
しかし、その人数もどんどん減り、今の東大陸で『天照大神』に祈りを捧げる人は、特定の少人数となっていた。
このままでは……お爺ちゃんはいずれ『意識』を失う事となるだろう。
そんな中、僕が『クロノスリザレクション』を使った。
お爺ちゃんは僕の為に、リサの為に、その『許可』を出した。
シヴァさんの『許可』の分まで、自腹で。
それが最後のトドメとなり、お爺ちゃんの『想いの灯火』は後少しとなった。
だから…………消える前に、最後に、シヴァさんに僕を紹介して、友人を増やしたかったみたい。
この神界という、孤独な箱庭にただ一人、残されるシヴァさんを思っての事だった。
そう淡々と話してくれたシヴァさんは、勿論、悲しそうな表情をしていた。
最初は『破壊神』と言われて、冷たいイメージがあった。
でも決してそんな事はない。
彼はただ『変革の為の破壊、そして、未来』を司っているだけで、世界を壊そう! なんて思っているような……僕のイメージのようなタダ破壊を楽しむ『破壊神』様ではなかった。
そんなお二人に、助ける方法はないかと尋ねた所、シヴァさんから一つだけあると教えてくれた。
それが『追想の再生』という魔法だった。
お爺ちゃんの猛烈な反対を押し切って、僕とシヴァさんは『追想の再生』を実行する事となった。
◇
僕は『追想の再生』が終わるまでの間、暫くこの『神界』に残らなくちゃいけなくなった。
お二人から、『神界』の叡智、『アルカディア』があると教わり、僕はそこで本を読む事にした。
全てを読める訳ではなく、僕の過去と未来に大きく関わらない知識のモノだけが沢山置いてあった。
本が不思議な形で並べられているけど、不思議とどの本がどういう中身なのかが、何となく分かった。
僕は沢山の本を読み始めた。
◇
暫く本を読む事に集中していて、どれくらい時間が経ったのかも分からない。
外に出ると、相変わらず、お爺ちゃんとシヴァさんは紅茶を楽しんでいた。
『ロイヤル紅茶』は今まで飲んだどの紅茶より美味しいみたい。
神様が認める程の紅茶って……凄いと思う。
お二人はとある水鏡に向かい「頑張れじゃ! あと少しじゃ!」と応援していた。
ちょっと不気味だけど、その先には――――
僕の奥さん達の姿が映し出されていた。