26.準備
今日から三章始まりです。
本日数本あがる予定です。
あれから半年が経った。
僕が『商会』を立ち上げようと考えてるなんて、誰も思ってもいないだろう。
先ず僕が最初に着手したのは、商人が商品を運ぶ手立てが難しい事についてだった。
そこで何が出来るか、と考えた。
執事のサディスさんが言っていた空間魔法がそう都合良く使えるはずもないと……。
その一言で僕はある事を思い出した。
僕が持っているスキル『異次元空間魔法』だ。
このスキル、収納した物の時間を停められる事にばかり注目していたけど、許可した者と共有出来るとある。
どうやったら共有出来るのか、実験してみた。
最初スキルをお姉ちゃんに使えるようにしてみることにしたけど、これは無理だった。
そもそもスキルを渡せるはずもなかった。
ではどうやって共有するのだろうかと悩んでいたとき、お姉ちゃんから
「空間魔法を他の人に使わせたい? ん~、それ魔法じゃないとダメなの? 『アイテムボックス』でいいんじゃない?」
――と言われた。
[アイテムボックス] - 空間魔法と同じ性能を持った袋
つまり、僕の『異次元空間魔法』を袋に固定すれば、その袋で『異次元空間魔法』が共有出来るのではないかと考えた。
そして実験の結果、大成功だった。
袋に『異次元空間魔法』を『魔法無限固定』で使う事によって袋を『アイテムボックス』に似た物を作る事に成功した。
似た物というのは、正確には『アイテムボックス』ではないからだ。
この魔法が付与された袋はあくまで僕の異次元に繋がる入口であって、別次元化した『アイテムボックス』ではないからだ。
ともあれ、これで『アイテムボックス』を無限に作成出来るようになった。
共有の範囲は僕が自由に決められた。
使える広さ、共有する物、出し入れの権利。
それと最も凄いなと思ったのは、出せる人の限定設定だった。
例えばここに『お姉ちゃん袋』を作ったとする。
その『お姉ちゃん袋』はお姉ちゃんのみ使用可能にし、スペースも『お姉ちゃん袋』専用に設定する。
そうすると、中に出し入れする物がお姉ちゃんにしか使えない、僕にすら出し入れ出来ないということで袋はお姉ちゃんしか使えなくなって、解除も勝手には出来なかった。
本来『アイテムボックス』は誰でも使えるので中に入っている物を他人が出せたりする。
しかしこの『お姉ちゃん袋』は誰も出せない、作った僕すら出せない、お姉ちゃんしか使えなかった。
これを僕は『次元袋』と命名した。
いくらなんでも『お姉ちゃん袋』とは名付けなかった。
それはさすがに恥ずかしい。
これで収納の件は終わった。
次は移動手段だ。
『転移魔法』による瞬間移動、森のモンスターで実験して見た結果、予想通り『転移魔法』は自分しか使えないと分かった。
『転移魔法』のスキルを渡す事も不可能、一緒に飛ぶことも不可能、色々試したけれど、転移はどうにもならなかった。
それから他に使える良い方法は見つからなかった。
只、お姉ちゃんから「安全に移動したい? それならクロウのあの補助魔法のバリアだったかしら、あれ最大に掛けてればそこら辺の魔物だと傷一つすら付けれないって話だよ?」
よし、移動は防御用にバリア、逃げ用にヘイスト作戦といこう。
次は資金問題だ。
この資金問題はすぐ解決した。
「お母さん! お小遣いが欲しいです!」
お母さんは少し悩んでから、お父さんと相談して決めるわって言われた。
理由はお兄ちゃん達の入学祝いや誕生日祝いの品を買いたいと話した。
今では毎回僕の土魔法で作る姿人形を贈るのが定番ではあるが、あれはお金が一切かからないから毎回贈るけど、それとは別に贈りたいと説得した。
数日後、お母さんから大事に使うようにとお小遣いを貰えた。
大銀貨十枚だった。
大銀貨十枚って……五歳児に渡して良い金額じゃないと思うんだけど……僕としてはありがたい。
最後は商品だ。
正直、ここ半年でエドイルラ街とセベジア街を行き来しながら値段を調査して、商売はしてないが、イメージはしていた。
そこから思ったのは……僕に商売の才能が皆無だって事だ。
前世でも買い物は一度もした事がないし、屋敷にいると必要な物はメイドのリーナさんが事前に用意してくれていた。
何気にこのメイドさん優秀過ぎる事が分かった。
これもお姉ちゃんに相談したら、「そんなこと、出来る人に任せばいいんじゃない?」と言われた。
たしかにその通りだ。
なので、僕は港街セベジアに再度来て、あの人を探した。
◇
◆港街セベジアのとある商人◆
俺の名はダグラス、商人だ。
いや、商人になりたいただの孤児だ。
俺に親はいない、孤児院で育ったが折り合いが悪く、大人になって直ぐに出た。
それまでコツコツ貯めたお金で帝国領からグランセイル王国領の最大貿易街の港街セベジアにやってきた。
最初は商売をしようとしたが、俺は特殊職能のせいでステータスが弱く、商品を運ぶ事も出来なかった。
あれこれと商売を志すも、途中で盗賊に襲われたりと結局は二十五歳となった今では銀貨一枚すらない状態だった。
本日も市場へやって来た。
俺の持っている職能『交渉者』はどうやら商売の気配を感じ取れるようだ。
あれを何処へ売れば絶対儲かるのが感覚で分かる。
だが肝心な資金と持ち運べる術が無かった。
交渉は出来ても、人と慣れ合うのは苦手なので傭兵を雇うのもしなかった。
そんな時、後ろから声を掛けられた。
「お兄さん! 今日もここにいるね!」
そこには黒い髪の碧眼の可愛らしい男の子がいた。
この子はたしか…半年前にここで会った不思議な感じがした少年だ。
「むっ、僕ちゃんまたここに来たのか」
「うん! でも、今日はちょっと違うよ、ここに来た理由があるの」
「そうか、こんなところにわざわざ何をしに来たんだ?」
何かを思った訳じゃなかった。
ただ、半年前少し記憶にある不思議で碧眼が綺麗な少年だなと思っていた少年。
そんな少年がここに来た理由があるから少し気になっただけだった。
そんな少年から、まさか、あんな言葉が出るなんで、この時の俺には想像もしてなかった。
「僕と契約して商売しませんか? お兄さん」
ニコニコっと偽り一つない満面の笑みでそう語りかけてきた。




