279.白狐
僕はお菊さん達と合流し、レイラお姉さん、ヒメガミさん、お菊さん、ゴロスケさんの四人を縛り上げ……捕まえ、再度、空の旅に出掛けた。
東大陸の最北端にある山『絶山』を目指して。
空の向こうに一際、大きすぎる山が見え始めた。
いや、首都エドオリですら、微かに見える程だった。
近くになればなるほど、山の迫力が凄いんだね。
――と山に感心していたら、山に一つ、大きな違和感を感じた。
遠くだから、よく見えてないけど……何か戦ってない?
【旦那様! どうやらモンスターの群れ同士が戦っているようだよ】
ヒメガミさんは、非常に目が良いらしくて、『絶山』で起きている戦いが見えるようだ。
モンスターの群れ同士の戦い?
というか、モンスター同士って戦うんだ?
縄張り? に入って戦いになる事があると本で読んだけど、そういう類なのかな?
近づけば近づく程、その戦いの規模が分かった。
山の上からモンスターの大軍が押し寄せていて、下部から狼型? のモンスター達が懸命に戦っていた。
【旦那様! 『絶山』には神獣白狐達が巣を作っているの。あそこで戦っているのが白狐達だと思う!】
あっ……狼じゃなかったみたい。
狐なのか……。
確かに、遠くからも分かるように、白いのは分かるね。
何となく、雷属性魔法系統の攻撃を使っているように見える。
【あ、あのモンスター達! スタンピードん時のモンスターと一緒だ!】
よくよく見たら、山の上から押し寄せていたモンスター達は、以前スタンピードん時、押し寄せたモンスター達と同じだった。
これは――スタンピードだったのね。
白狐達が引き止めてくれなかったら、今頃、山の下にある町は壊滅してそうだ。
【手前で降りるね! レイラお姉さんとヒメガミさんはお菊さん達の護衛をお願い、僕とソフィアは白狐達の援護に入る!】
【旦那様! 白狐達は他種族を毛嫌いしているから気を付けて!】
僕は、レイラお姉さん達四人を下ろし、ソフィアと一緒にモンスターの群れに飛んで向かった。
◇
◆白狐◆
我は白狐族のギル。
昔から『絶山』に住んでおり、この山の主となった。
今では、多くの子供達にも恵まれ、『絶山』を全て掌握していた。
しかし、山頂にあるモンスターの巣から、大量のモンスターが押し寄せた。
最初は、我々の力が圧倒的に勝っていた事もあり、簡単に蹴散らしていたが、それが休まず続き、少しずつ、我々が押される形となった。
それから、数日、戦い続け、子供が数匹、モンスターの群れに飲まれてしまった……。
情けない……。
我は気高き白狐。
自分の子供すら守れぬのか……。
我々が押され、このままでは絶対に勝てないと分かったその瞬間だった。
天から一人の人間が降りてきた。
いつから人間は空を飛べるようになったんだ。
しかも、この者……見ただけで強者だと分かるほどだった。
今の我々ではどうあがいでも勝てない。
モンスターの群れは……こやつの仕業だったのか……。
――と思ったその瞬間。
モンスターの群れがある『絶山』上部が、一瞬で氷の山となった。
こ、これは!?
氷属性魔法の最強魔法ではないのか!?
こんな魔法を、いとも簡単に使えるのか!?
そして、我々にもう一つ、絶望が降りてきた。
モンスターの群れを凍らせた人間の肩から降りた、一匹のスライム。
――――『アルティメットスライム』か……。
終焉の悪魔がどうしてこんな所に……。
我にはまだこやつに勝てる力は持っていない。
そもそも、あの人間にすら勝てるかどうか分からないというのに……。
このまま我々は滅びを迎えるのか……。
もう一度…………あのお方に会いたかった。
「エクスヒーリング!」
人間が何かを呟き、美しい光が我々を包んだ。
ああ……何て暖かい光なんだ。
何処か懐かしい……。
この光は…………まるであの方の……。
【白狐の皆! ご主人様が助けに来てくれたよ! 他にも怪我した子がいたら、皆連れて来て!】
光が収まり、我々の前に立ったスライムはそう語った。
あの人間が、ご主人様!?
『アルティメットスライム』である貴方がご主人様ではなくて、まさか従魔となっているというのか!
【そうよ! 私はご主人様の従魔、ソフィアだよ!】
数百年生きた我でも想像だにしていなかった事だ……。
終焉の悪魔が従魔だとは……。
我々は、怪我をした我が子達を連れて来て、治して貰えた。
全ての傷を一瞬で治して、終焉の悪魔を従魔にしていて、空すら飛べる人間。
そもそも……この人は人間なのか?
最早……神の領域なのではないのだろうか……。
- 白狐族、個体名ギル。人族、個体名『クロウティア・エクシア』に従魔申請を行いますか? -
我が数百年生きて、初めて、我を従魔に出来る人に出会えたのであった。