277.ガブリエルのダンジョン
『ガブリエルのダンジョン』。
基本的には、鳥型モンスターが多いダンジョンのようで、遠距離攻撃を有していないと、狩りも大変みたい。
中には、銛を投げて挑発して戦っている人もいた。
僕はというと……、ヒメガミさんが既に十層まで突破していたので、転移させて貰えた。
ダンジョンの中は、大きな山のような地形だった。
十層は富士山を思わせるような、高山だった。
ただ、歩ける範囲が狭くて、景色は素晴らしかったけど、高山部分より下に下がる事は出来なかった。
他のダンジョンと違い、十層でもそれなりに多い人達がいた。
兵隊で挑んだりするようで、意外と多くの人が来れるみたい。
僕は取り敢えず、ボスと対峙した。
大きな――――ニワトリだった。
丸々として、何処か愛らしい姿だけど、ボスモンスターなんだよね……。
「あれは、コカトリスというモンスターで、普段は温厚なんだけど、戦い始めると危険なので、旦那様、気を付けるんだよ?」
ヒメガミさんから、旦那様と言われるのも…………少し慣れてきたかも知れない。
一先ず、ボスモンスターを倒すとしよう。
「雷属性魔法!」
雷属性魔法を思いっきり、撃ち込んだ。
雷の轟音と共に、ニワトリボスモンスターは消し炭となった。
「流石は旦那様! まさか、ボスモンスターを一撃で倒せるとは!」
あはは……ヒメガミさんは大袈裟だね。
取り敢えず、『ガブリエルのダンジョン』ではスタンピードはないようで安心した。
ソフィアにお願いして、監視分体を配置して貰った。
その時、
『アズライールのダンジョン』の時と同様に、光る蝶々が一か所に集まり出した。
どうやら、レイラお姉さんにも、ヒメガミさんにも見えてないみたい。
光る蝶々達はまたもや、鍵の形となった。
鍵の形になると、レイラお姉さん達でも目視出来ていた。
『ガブリエルの鍵』を手に入れ、監視も付けたので、一度首都エドオリに戻る事にした。
◇
「『次元扉』は何度くぐっても不思議だな……、一瞬で首都エドオリに戻ってこれるなんて……」
まだ『次元扉』が使い慣れないヒメガミさん。
ソフィアが作ってくれたダンジョンから首都エドオリまでの『次元扉』を潜って感心していた。
そして、僕達は一先ず、お菊さん達と合流した。
「クロウくん……幾ら何でも早すぎると思うんだけど……」
「ヒメガミさんのおかげで、十層に簡単に行けたので~」
「そ、そうか……私達ならまだ『イセ町』にすら着かなかった気がするよ……」
「あ~、空を飛びましたから」
それを聞いたお菊さんが、納得したような、呆れたような表情になった。
「南のダンジョンは終わったので、今度は北のダンジョンですね!」
「ん!? 旦那様は北のダンジョンにも行くのか?」
ヒメガミさんが驚いた。
「はい、元々の予定は両方のダンジョンを訪れる事なので」
「そうか…………」
「ヒメガミ様、私も最初は反対したのですが……クロウくんは空が飛べるようなので、もしかしたら簡単に入れるかも知れません」
「成程、確かにそうかも知れないわね」
確か、『絶山』という山の山頂にあるって聞いたから、それで飛べれば簡単に行けるという事かな?
「北のダンジョンでも入場許可証が必要なんですか?」
「ん? 旦那様、あそこは誰も入れないので、そもそも許可を取る取らないの話してはないのよ」
「え! そうなんだ……」
「旦那様には明日、お母様に会って欲しいのだし、今日はここでお開きにしましょう?」
ヒメガミさんの提案で、一旦、休みという事になった。
リサの無言の圧力を思い出したので、僕はレイラお姉さんとヒメガミさんと首都エドオリを散策してみた。
市場とかは物凄く活発で、獣人族や人族も沢山いた。
皆、甚平や浴衣を着ているので、恐らくは東大陸で住んでいる住民達なんだろうね。
売っているモノは、中央大陸と似た感じで、食料や雑貨がメインだった。
「ん? ヒメガミさん、あの子達はどうしたんですか?」
「うむ、旦那様。あの子達は――――孤児達だよ」
「孤児?」
「ああ、上位戦士との決闘で両親を無くしたりした子達だよ」
「上位戦士との決闘?」
「ええ、ヤマタイ国では、位が高くなればなるほど、給金も高くなったり、利用出来るモノも増えるんだけど、その位は席が決まっていて、その席を取るには、決闘で勝つしかないから、多くの戦士達は常に鍛え、上位戦士達へ決闘を申し込んでいるの、それで負けた親の子供は、ああやって孤児になるしかなくなるの……そういう法だから」
その国には、その国の法やルールがある。
僕がここで彼らについて、ヒメガミさんに何かを伝えたとしても、何も変わらないだろう。
親は決闘を家族を賭けて挑戦しなくちゃいけないらしくて、中には上位戦士との決闘に挑戦しない人も多くいるそうだ。
それでも、自分の子をより高みに住まわせたいと思っている親も沢山いて…………そういう親に限って、上位戦士との決闘を望み、敗れる人が沢山いるみたい。
そんな挑戦して敗れて死んだ親の子は……孤児院にも入れなくなるそうだ……。
しかし、少しして、優しそうなご夫婦が、彼ら孤児達に食事をふるまっていた。
「親が敗れた子供が孤児となっても、この街の皆が面倒を見る。暗黙でそういう風に育ってるよ」
ヒメガミさんの予想していた言葉と違う、この街の優しさに、僕は嬉しい気持ちになった。