271.お寺
食事を終え、外もすっかり暗くなってきたので、このまま野宿する事になった。
本来なら、島に一度戻る予定だったけど、お菊さん夫婦がいるので、野宿のままになった。
では一先ず、土属性魔法で家を建てて――――異空間に入れてあったベッド等の寝具を四人分出して、シャワー室も四つ出して、それぞれ入れるようにしよう。
あれ? お菊さんとゴロスケさんどうしたの?
え?
野宿なのに、何故おうちがあるかって?
魔法ですぐ作れるから……ですよ?
お菊さん、ゴロスケさん、顎外れそうだけど、大丈夫かな?
外でご飯も食べたし、僕達はそのまま眠った。
次の日。
お家を片付けて、再度首都エドオリを目指した。
一時間程歩いて、森を抜けると、向こう景色に大きな街が見えて来た。
そこから一際目立つお城が見えて、そのお城にヤマタイ国の女王様が住んでいるらしい。
お城ほどではないけど、右手にも大きな建物が見えていた。
あれが――『お寺』かな。
速足で首都エドオリに着いた。
正面玄関口では検問みたいなのがあったけど、旅行客としてお菊さんから証明証のようなモノを見せると、簡単に入れてくれた。
駄目な場合、転移魔法で入ろうかなと思っていたけど、そうならなくてよかった。
本当ならレイラお姉さんを連れて、観光でもしたいんだけど、遊びは今度来る事にして、真っ先に『お寺』を目指した。
◇
◆??◆
先程、凄まじい威圧感を感じた。
何者かが首都エドオリに入って来たのは間違いないんだが、気配が一瞬で消えてしまった。
あまりの一瞬でしか感じられなかったので、恐らく、気になった者は私しかいないだろう。
あの方でさえ、感じられたかどうか……。
何となく、方角的に『お寺』に向かってそうね。
◇
やっと『お寺』に着いた!
物凄く大きいお寺だった!
周りには祈りを捧げている人も沢山いて、向こうでは、訓練を行っている人も沢山いた。
お菊さん曰く、お寺では兵達の訓練も行っているそう。
「クロウくん、向こうがダンジョンの許可試験場になるよ」
お菊さんが指差した場所は、訓練場の前だった。
もしかして、あの人達の誰かと戦うのかな?
一旦、試験場の窓口に向かった。
「いらっしゃい、ダンジョン試験かの?」
窓口にはお爺ちゃんが一人、出迎えてくれた。
「はい、僕とこちらの女性の二人です」
「そうか……料金は朱銀五枚ずつになるが、良いかの?」
「はい、こちらに」
東大陸のお金は、中央大陸の貨幣と違って、違う貨幣を使っていた。
金額や種類は中央大陸と全く同じだけど、中央大陸が『銀貨』の場合、こちらでは『朱銀』というみたいで、形も全く違うモノだった。
お菊さんから事前に教えて貰っていて、朱銀十枚を先に貰っていたので、直ぐに払った。
「うむ、では、そちらの女性から――向こうで待っていてくれ」
「「分かりました」」
僕とレイラお姉さんは、窓口から向こうに見える椅子に座って待っていた。
少し待っていると、大きな体の人がやってきた。
――――この人、頭の真ん中に角が一本生えている。
「待たせたな、俺が試験官のテルキつうもんだ」
「よろしくお願いします、僕がクロウで、こちらがレイラお姉さんです」
レイラお姉さんも軽く会釈した。
「では、まず、レイラとやらから先にやるぞ」
「よろしくお願いします」
訓練場にレイラお姉さんとテルキさんが対峙した。
いつの間にか、訓練していた人達が、訓練を止め、訓練場の傍に座って見つめていた。
「ルールとかはないのですか?」
「ルール?」
「はい、試験というからには、怪我させないとか――――」
「ダーハハハハ、気にしなくても問題あるまい、人族に簡単にやられるほど、俺は弱くないぞ」
テルキさんは自信満々のようだ。
レイラお姉さんって『剣聖』なんだけど……大丈夫かな?
「あ! レイラお姉さん! この剣使って!」
僕は急いで、『次元袋』の中から『特製木剣』を取り出して、レイラお姉さんに投げ渡した。
「ありがとう! クロウくん! これなら安心して受けられるわ」
「俺は真剣でも構わないのだが……どうせ人族に我々の肌を斬れないだろうから」
テルキさんの言葉に、レイラお姉さんは笑顔で答えた。
「試験ですし……他国にまで来て、問題になるのは嫌ですからね。木剣で十分ですわ」
「そうか、まあ、好きにするといい」
それから、傍に座っていた人から、カウントが数えられ、試験が始まった。
最初に仕掛けたのはレイラお姉さんで、いつもの半分以上に遅く、木剣を振るった。
ドーン
木剣を素手の腕で難なく止めるテルキさん。
さっき言っていた「人族に我々の肌は斬れない」というのはそういう事だったのか。
更に、レイラお姉さんの剣戟が次から次へと、テルキさんに襲い掛かった。
その全ての剣戟を難なく止めていたテルキさんだったが……。
段々、表情が曇っていった。
「く、くっ!」
レイラお姉さんから一気に距離を取ったテルキさんの両腕は、既にボロボロだった。
「あら、人族には斬れないのではなくて?」
「ま、まさか……我々の鬼肌をここまで……」
レイラお姉さんの遅いが、一撃一撃重い剣戟を素手で受け止めていたテルキさん。
真剣だったら……一撃で腕ごと斬られていたかも知れない。
「まだやりますの?」
「う、うっ、ご、合格!」
テルキさんの合図で、試験は一瞬で片が付いてしまった。
訓練場の傍に座っていた人達は啞然としていた。
「次は僕だね!」
「クロウくんなら大丈夫ね、でも試験官さんがああなってしまって……どうしよう」
「『ポーション』で回復させれば、大丈夫じゃないかな?」
――僕が『女神ポーション』を取り出そうとしたその時。
「待った! 次の試験官は私が勤める!」
訓練場の奥から、物凄い威圧感と共に、一人の女性が現れた。