267.尋問
次の日、魔族達が起きたとの事で、面会に来た。
僕が捕まえていない四人は今でも震えていた。
特に、当事者を見るや否や牢屋の端まで逃げる始末だった。
本当に魔族って強いのか?
僕が捕まえた二人は隣同士の牢屋で、二人が話すのも出来る程だった。
実は、わざと二人が話せるように隣同士にしていた。
「初めまして――ではないですが、名乗るのは初めてですね。僕はクロウって言います」
二人が見えるように立っている僕は、睨まれていた。
「ここにいる六人全員が魔族なのは分かっています。単刀直入に聞きましょう。どうしてここに来たのかと、どうやってここに来たのかと、どこからここに来たのか、この三点を教えてください」
二人はだんまりを決め込んだようで、何も話してくれなかった。
「分かりました。僕は僕達に取って敵だと思った相手に容赦するつもりはありません。皆さんが何も話さない、つもりがないというのならば……」
僕は『闇の手』一本を伸ばし、セナお姉ちゃんが捕まえてきた男魔族を彼らの前に引きずり出した。
「では、これから十秒に一度、手と足が飛ぶと思ってください」
僕の言葉に男魔族は真っ青な顔になった。
後ろから見ているリサが「くろにぃ、敵にはめちゃ怖いんだね……」と呟いていた。
「――――十、九――」
「わ、分かったわ。話すからその子を離して頂戴」
「――五――」
「わ、私達は暗黒大陸から来たのよ!「シュメル! 仲間を売っては行けない!」、今はビショくんの命も大事だわ!」
ビショくんと言うのが恐らく、目の前の震えている男魔族だろう。
彼女はシュメル、彼はアンセルのはずだ。
「くっ…………、何で人間がこんなに強いんだよ!」
「本当よ……はぁ、まさか私達が捕まるなんて……」
二人が溜息を吐いた。
【メティス、暗黒大陸って?】
【はい、暗黒大陸という言葉は初めて聞くわ】
【じゃあ、この魔族が嘘をついたのかな?】
【そうでもないと思う。もしかしたら、消えたアルテナ大陸なのかも知れないわ】
アルテナ大陸?
初めて聞く言葉だ。
【アルテナ大陸は、かつてこの世界の何処かにあったとされる大陸で、中央大陸より二倍も大きい大陸なの。でも今は何処にもないわ】
「シュメルと言いましたね? 『アルテナ大陸』という言葉に聞き覚えは?」
キョトンとした顔になったシュメルが答えた。
「初めて聞くわ」
「では『アルテナ』という言葉は?」
「それも初めて聞くわ」
うん、精霊眼でも確認したけど、全て事実だった。
「分かりました。一旦、このビショという魔族は牢屋に戻しましょう」
牢屋に戻されたビショは部屋の端っこでボロボロ泣いていた。
何だか、弱い者イジメているみたいで嫌になる……。
「では、次の質問です。どうしてこの大陸に来たのです?」
「ええ、私達は魔王様からの命令で視察に来たのよ」
「魔王様!?」
魔王様なんているの!?
魔王様という言葉で、この場にいる全員驚いた。
それもそうだよね。
おとぎ話の中だけの存在だと思っていたから。
「現在の人間の戦力やら状況やらを調べて来るように言われたわ」
「成程…………ではこちらに来たのはここにいる六人で全員ですか?」
「え? え、ええ、全い――――」
「成程、『闇の手』」
再度、部屋の片隅で震えているビショくんを『闇の手』でぐるまきにした。
見せしめのためにも、左腕一本、ギッチョンしてあげた。
悲鳴が五月蠅そうなので、口は『闇の手』で塞いでいる。
「このクソ野郎! 弱いビショを人質に取りやがって!!!」
牢屋の入り口で僕を恨んだ目でアンセルが叫んだ。
「ご、ごめんなさい! もう嘘はつきませんから! 命だけは助けてください!」
「はい、ちゃんと僕の質問に誠心誠意に答えてくだされば、ここにいる魔族全員の命の保証はします」
「ありがとうございます! アンセル! あんたはそれ以上、何も言わないで!」
このシュメルがこの中で一番の権力者なのかも知れない。
アンセルは不満そうにその場に居座り、だんまりと僕を睨んだ。
「この大陸には私達六人、隣の大陸には三人で全員で九人来ました」
「ではどうやってここに来ました?」
「はい、魔王様から――――厳密には魔王様の直属の部下である四天王様から、指示を受けて、『抜け道』を通ってこちらに来ました」
「『抜け道?』」
「はい、私達魔族にしか使えない抜け道があって、こちらでいう『ダンジョン』になります」
へぇー、ダンジョンって暗黒大陸と繋がっていたのか!
「その『抜け道』を人間が使う事は?」
「恐らくですが、出来ません」
「成程……『抜け道』はダンジョンのどこら辺にありますか?」
「はい、十層のボスの後方です」
十層ボスの後方……というと、『鍵』を得た場所かな?
「普段は目に見えませんが、私達魔族が近づくと開く扉があって、でも多分魔族しか通る事が出来ないと思います」
「分かりました。ではこれからシュメルは僕と一緒にその扉を確認に行きます。その間ここの魔族達は人質になって貰いますよ?」
「わ、分かりました……」
冷や汗まみれになっているシュメルが一つ安堵したように息を吐いた。
「くろにぃが…………なんか……悪役みたい……」
他の奥さん達も頷いた。