258.初めての女神祭
先日、大陸中で起きた揺れ。
それによって何か被害があった訳ではなかったが、僕は何処か不安を抱いた。
それから二か月が経ち、遂に『女神祭』が開かれた。
今回開催地は、復興目的もあり、アーライム帝国で開かれる事となった。
アーライム帝国内で考えた色んな出し物をする予定だ。
勿論、アカバネ大商会の全面的な支援はあるが、基本的に口出しは一切行わない方向だ。
メイン会場となる帝都グランドの広場には帝国民だけでなく、他国からも多くの人々が駆け付けていた。
ただ、各国の大きな街では『アカバネ祭』同様、遠距離ライブ観戦装置が設置されていて、帝国民の方が圧倒的に多い感じだ。
開幕の挨拶には、現在『アイドル』達の商品の売り上げに応じたランキング制度が始まっており、そのランキングの帝国一位のルリアという女の子だった。
エメラルドグリーンの綺麗な髪と瞳が非常に印象的で、小動物のように守ってあげたくなるような容姿がナターシャお姉ちゃんとは真逆なタイプの『アイドル』に見える。
あの髪と瞳…………何処かで見た事ある気がするけど、何処だったかな?
彼女の可愛らしい挨拶から開幕宣言がなされて、全ての町では大きな歓声が包まれた。
それから途切れる事なく、全国の『アイドル』や『歌手』『踊る者』達によるステージが次から次へと披露された。
そんなステージの上空には、魔法による花火が上がっていた。
花火のような魔法を見たのは初めてだったので、僕も奥さん達もその迫力に魅入ってしまった。
「くろにぃ! 花火だよ!」
「そうだね!! 魔法みたいだけど、凄いね!」
「あれはアレクお兄様の得意な爆発魔法ですね」
レイラお姉さんがそう話した。
アレクお兄様?
「アレクお兄様は、帝国の賢者の一人で、私のお母様の弟になります。歳は私と近いのでお兄様と呼ぶように言われてまして……」
「帝国の賢者様! それは是非会ってみたい!」
「ふふっ、アレクお兄様もきっと喜んでくださいますよ」
賢者様とあった事がないので、とてもワクワクしながら、僕は空を彩る花火とステージを楽しんだ。
◇
今回『女神祭』は『ライブ』がメインではあったが、それだけではなかった。
各街では多くの帝国発の料理が並んだり、伝統工芸品が並んだりと盛り上がりを見えた。
その中でも一際珍しい事となったのが、帝国に滅ぼされた旧王国の家の出店だった。
これは全てアカバネ大商会から皇帝に許可を取り、支援から生まれたモノだ。
既に王国はないので、彼らに旧王国の権利は発生しない。
しかし、初めて旧王国の名前を使っても良いとの許可を勝ち取った。
代わりに、決して反乱を起こさない事を条件にはしたが、アカバネ大商会が間を持つ事で達成した偉業に、多くの帝国民達は歓喜していた。
旧王国の伝統工芸品や料理が帝国で初めて店頭に並び、祭りも相まって飛ぶように売れた。
中には、皇帝に直接献上する者もいたが、戦後の皇帝は何処か優しくなっており、快く受け取ったという。
この出来事も速やかに『ライブ』を通じて大陸中の人々に広まった。
これこそが今回から開かれる『女神祭』の真髄という事が多くの民に周知される形となった。
◇
多くのイベントが終わり、大きな花火と共に、初めての『女神祭』は終わりを迎えた。
終わった後、レイラお姉さんからお願いされたので、僕達は帝国の賢者様に会いにきた。
帝国の賢者様がいらっしゃる部屋の中は、外でも分かるほどの賑わいが聞こえて来た。
「アレクお兄様!」
「んなっ!? レイラ!!!」
レイラお姉さんの声に、すぐさま反応したのは青い髪の若い男性だった。
お父さんと同じくらいの歳かな?
――――って!? 奥にいるお爺ちゃんが賢者様じゃないの!? 賢者様若くない!?
「アレクお兄様、こちらがお世話になっておりますクロウ様です」
レイラお姉さんの紹介で賢者様が僕を見つめた。
「――――――――は!?」
「え!?」
「お前さんは――――ん……でもな、男だろう?」
「えっ? 男ですよ」
「そっか――――何かな~あの時の女神様に似てるっつうか、隣には『聖女』様もいるし――――う~ん」
あ、あははは…………。
ちょっと冷や汗が……。
「フライト爺さん、こちらの青年、あんたの所のだろう?」
賢者様の紹介で、奥に座っていた僕が賢者様と勘違いしたお爺ちゃんが前に出て来た。
「ふむ、サディスから噂は聞いていたが……儂も会うのは初めてじゃよ」
「そうなのか? こいつ、本当に強いんか? 強さらしいモノを一切感じられないんだが?」
「それは儂も思っとったんじゃ」
二人は僕をまじまじと見つめてきた。
「あ、あの! 僕、賢者様にお会いするの初めてで、とても嬉しいです!」
と言うと、二人は意表を突かれたような顔になり、笑い出した。
「こりゃ失礼したな、自己紹介からしよう。俺が三賢者の一人、大器の賢者アレクサンダーっつうんだ」
――「よろしく」と言いながら賢者様が手を伸ばしてくれて、握手をした。
握手が終わると――
「儂は、君が所属しているグランセイル王国に親睦がある三賢者の一人、自由の賢者フライトという」
「えええええ!? お爺ちゃんも賢者様!?」
「お爺ちゃん!? ぷっ、ぷはははは」
「ほっほっほっ、儂をお爺ちゃんと呼べるか、中々面白い青年じゃ」
二人は再度、声をあげて笑った。
あれ? 僕、なんかおかしい事言ってるのかな?
「我々賢者の前でも、物怖じ一つしないか、サディスからとんでもないお方だと聞いてはいたが、これは中々」
お爺ちゃん賢者様は優しそうな目で僕を見つめていた。