255.久しぶりの報告会議
本日はアカバネ大商会の報告会議に参加していた。
今ではダグラスさんを総帥に、僕の意志なく回っている。
僕が卒業して数か月。
『女神祭』が近づいていた。
そして、祭り前に現状の報告があった。
まず、最も大きな事は、アカバネ大商会がアーライム帝国に進出した事。
勿論『女神教会』が大きく関わっていたのだけれど、今回『女神祭』で帝国の国商会となる予定だ。
更に、それと一緒にグランセイル王国でも国商会になる予定だ。
アカバネ大商会が推奨している『天使の輪』契約が、既に帝国でも広がった。
多くの店舗が入り、たった一か月でその凶悪さから、ほぼ全店舗が傘下に下った。
勿論、収益も大きく変わった。
今までも多くの収益があったが、今度は市場が帝国まで広がり、中央大陸全土に広がった。
しかもそれだけではない。
今、収益の一番高い産業が出現してしまったのだ。
それが『女神ポーション』だ。
『女神ポーション』は今までの『ポーション』よりも、ずっと安くはあったけど、誰もが数十個買える値段ではなかった。
今までの通常平民達の月収は銀貨十五枚と言われていた。
そこから上の仕事になるとどんどん上がるが、アカバネ商会が現れてから今の大陸中の平民の月収は銀貨二十枚から三十枚の間になっているだろう。
全体的に収入が増えているはずだ。
しかも物価自体は全く上がっていない。
寧ろ、以前より安くなった程だ。
特に食べ物。
主な食糧となる穀物の値段が、今までは殆ど貴族の懐に入っていた。
その事により、多くの農家の人々の収入が少なかった。
アカバネ商会時代に既に多くの貴族達に頼んで、今では貴族の取り分を減らし、農家により多く還元できるようにしている。
この事により、農家は収入が増え、仕事も頑張ってくれる。
そして、貴族を経由して、全てがアカバネ大商会に納められる。
この事だけ見れば、貴族の取り分が減っているから貴族が黙っていない――――と思われるだろう。
しかし、そこでアカバネ大商会が考えたのは、値段ではなく付加価値があるモノの提供だ。
その一番の効果をもたらしてくれたのが『オペラ』だった。
実際のチケット値段は貴族からすれば、買えない程の値段ではない。
しかし、問題は買える数に限りがある事だ。
特に、『特等席』と呼ばれている席だ。
この『特等席』は一回公演でたった二十名しか座れない特等席だ。
勿論、それにはアカバネ島からの超高級食事も付きなので、その人気は大陸随一だった。
その『特等席』。
買う事は出来ない。
何故なら、全ての権限がアカバネ大商会にあるからだ。
そこで、この『特等席』を使い、多くの農家を持つ貴族達を買収していた。
そのおかげもあり、穀物を安価に市場に流す事が出来、生活が安定した。
アカバネ大商会の仕事の斡旋により、多くの者達が仕事を無くさず済んだ。
ほぼ全ての一般店舗には、アカバネ大商会から仕入れを安定させて、売れるモノも非常に良く売れるし、売れ残っても最悪アカバネ大商会に戻せるので安定した販売を行っていた。
製造を職にしている人々も、殆どアカバネ大商会が買取した。
更にその中でも才能がある者の品はプレミアム値段が付けられ、以前なら手に入れる事が出来なかった富や名声を手に入れれるようになっていた。
こうした今の大陸中の流れを『アカバネ物流』と呼ばれているそうだ。
この『アカバネ物流』が出来て、生活が安定した人々は娯楽を求める中、この奇跡への感謝も忘れなかった。
皮肉な事に、帝都が『魔族』に襲われたおかげで、人々に『感謝』という気持ちが芽生えたのだった。
大陸中のほぼすべての者達が『女神教会』の信者となった。
そもそも、今までの『カイロス教会』では、礼拝に多額の礼金を要求していた。
それが今では一切ないのだ。
寧ろ、孤児院も込みで、一切の寄付を禁止している。
人々が余裕が出て、『奇跡』に『感謝』をする為、お金の寄付をしようとしていたが、アカバネ大商会の所為で、何処にも寄付出来る場所がなくなった。
そこで誕生したのが『女神ポーション』だった。
銀貨三枚。
その値段は決して安い値段ではない。
平民達の平均月収が銀貨二十枚に上がっていたとしても、三枚は七分の一に相当する。
しかし、殆どの平民達が一本ずつ買っていた。
それはもし怪我をした時の為にでもあったが、買うだけで『感謝』を女神様に伝えられる。
それだけで物凄い幸福だった。
更に、収入が多い者は、『女神ポーション』を沢山購入し、困っていた怪我人に使ってあげていた。
見ず知らずの誰かを助ける為に『ポーション』を使う。
それは今までの大陸では想像もしていなかった事だった。
ダグラスさんから現在のアカバネ大商会の収入を教えて貰えた。
十年前の収入と数字は変わらない程だった。
しかし、アカバネ大商会は収入以上に資材を得ていた。
世界で常に増え続ける資材はアカバネ大商会に集められる。
本来なら腐り使えなくなる資材が多い為、資材は本来なら足りなくなる定め。
アカバネ大商会は『次元袋』のおかげで、資材が腐る事なく、貯め続けられるからこそ、今のアカバネ大商会の躍進があるのだとの事だった。