241.女神様の更なる神託
◆アーライム帝国、臨時教会の一室◆
サテラ枢機卿は穏やかな表情で、ベッドで寝ている男性を見つめていた。
『アデルバルト・ドラグナー伯爵』。
戦争中、狂っていたように戦っていた伯爵は、連合軍や帝国の剣聖達と戦い、身体は既にボロボロになっていた。
症状からは恐らく二度と歩く事も出来ないだろうと思える程だった。
そんな彼に手を差し伸べたのが、アカバネ大商会というあまり聞き慣れない商会だった。
その大商会は、新興『女神教会』を担ぎ出た。
寧ろ……『女神教会』が大商会を担ぎ出ているようにも見えた。
彼らは『女神ポーション』というモノを眠っている伯爵に飲ませた。
眠っている彼は自力では飲めないので、飲ませたのはサテラ枢機卿本人だった。
カイロス教会時代でもセシリアの次ぐ人気があるサテラ枢機卿と伯爵。
普段から仲が良かった事もあり、噂が直ぐに広がった。
サテラ枢機卿は考えていた。
『魔族』『戦争』『女神』。
そのどれを考えても一つの線に辿り着く。
それが『アカバネ大商会』だ。
前教皇は「アカバネ大商会という悪を許すな」と言っていた。
それほど、今回の戦争の中心となった大商会。
戦争が終わっても、かの大商会の勢いは止まる事なく、王国だけでなく、帝国まで救済しているのだ。
そして、何故かこの事を思うと、一人の少年が思い浮かぶ。
『クロウティア・エクシア』。
魔族を打ち滅ぼし、帝国――いや、大陸を救った勇者だ。
しかし、何故か彼の名前は一切広がらなかった。
当の自分も本人から固く口止めされていた。
自分が出会った美しい少年。
そんな少年が帝都を救ったあと、現れた『女神クロティア様』。
果たして……それはどういう関係で、どういう意味を持つのか、サテラ枢機卿は伯爵を見つめながら考えていた。
「こ……ここ、は?」
伯爵が目を覚ました。
そんな伯爵に彼女は何も言えず、彼に抱き着いた。
何が起きたのか、実情は知らなかったが、伯爵は自分の為に涙を流している彼女を見て、自分が助かったのを知った。
「サラ……すまなかったな」
「ばか……もう会えないと……思ったじゃない……」
◇
アカバネ大商会のグランド帝都支店から、面会の依頼があるとの事で、グランド帝都支店に来た。
未だにステータスが戻らない僕は、右にセナお姉ちゃん、左にディアナ、後ろにレイラお姉さんにぴったりくっつかれていた。
誰かに狙われるといけないかららしい。
えっと……その……あんまり、くっつかれると……その……当たっちゃう……。
帝都支店の貴賓室に入ると、そこに男性一人と女性一人が待っていてくれた。
そして、入るや否や、男性は僕の前で土下座になった。
「ええええ!? いきなり!? どうしたんですか!? 伯爵さん」
貴賓室で待ってくれていたのは、奴隷伯爵さんの本物の事、アデルバルト・ドラグナー伯爵さんと、先日、教会に突入する際に、お世話になったサテラ枢機卿さんだった。
「クロウ様、この度、帝国を救ってくださり、心から感謝申し上げます」
「え、ええ、伯爵さん。一先ず、その土下座やめましょう?」
伯爵さんは頑なに土下座から直らなかった。
「私も商人として、貴方様と顔を合わせておりました。その商人である自分が、お客様であるクロウ様の個人情報を、誰かに話した事には変わりません。既に皇帝陛下には話しております。私に出来る事なら何でも致しますので、どうか罰で許して頂きたい――」
そして、隣にいたサテラ枢機卿も同じく土下座になった。
「どうか、伯爵様の命だけは……わたくしも一緒に罰を受けますのでどうか……」
ええええ!?
そもそも、僕には二人を罰したいとは微塵も思ってないのに!?
あたふたしている僕の肩を優しく叩く人がいた。
――――レイラお姉さんだった。
レイラお姉さんから、この事で少し相談があるとの事で、僕達二人は部屋の隅っこに移動し、レイラお姉さんから事情を聞いた。
話を聞き終えた僕は、再度土下座のままの伯爵さん達の前に戻って来た。
「では、伯爵さんとサテラ枢機卿さんには、僕からとっておきの罰を与えます!」
僕の声に二人の緊張が伝わった。
「カイロス教会時代は、枢機卿に結婚は認められませんでしたね。女神教会では枢機卿であっても、教皇であっても、結婚を認めますので、お二人には、その最初の犠牲者になる罰を与えます!!」
「アデルバルト・ドラグナー伯爵さんと、サテラ枢機卿さんは、これから結婚して絶対に幸せになる罰を与えます!!」
この一件を果て、『女神教会』の結婚に関する神託が大陸中に広がった。