233.婚約、そして婚約と婚約
セレナお姉ちゃんは名前を改めて、セナお姉ちゃんとなった。
長かった美しい黒髪を、バッサリ切って、髪が短くなっていた。
昔の自分にケジメとの事だ。
――「そんな悲しい目しないの、私……こう見えても、今、凄く幸せだから」と言われた。
うん、うちのお姉ちゃんの笑顔、世界一可愛い。
え!? も、もちろん、リサもだよ?
◇
「クロウ、……えっと、様――」
「呼び方は今までと同じ!」
「あう……うん……実は一つ相談があって……」
セナお姉ちゃんが恥ずかしそうにモジモジしている。
本当に、今まで通りで良いと言ってるのに。
「実は、ディアナちゃんの事なんだけど……」
「ディアナ?」
後ろにいたディアナも驚いた。
「ええ、どうかディアナの話も聞いてあげて欲しいの」
「ディアナの話??」
ディアナを見つめると、彼女も驚いていたけど、セナお姉ちゃんを見つめ合うと、頷いて何かを決心した。
「クロウ様、実は――――」
先日グランセイル王様に呼ばれて、謁見した事は知っていた。
しかし、そこで何があったのかは、まだ教えて貰えなかった。
彼女は、謁見の間で何があったのか、全て話してくれた。
――恩賜は本人ではなく、主人である僕に……との事だった。
「ディアナ。もう過ぎた事なので仕方ない……だから僕に出来る事なら、何でも言って欲しい」
ディアナもグランセイル王国を守ってくれた一人だ。
恩賜は僕から貰いたいとの事だったので、僕に出来る事なら出来る限りしようと思う。
――しかし、跪いたディアナからとんでもない言葉が飛び出した。
「どうか、わたくしを――――クロウ様の妾にしてください。奥様方には決して迷惑はお掛けしません」
……
…………
………………
「えええええ!?!?」
め……妾!?
ちょ、ちょっと待ってよ!
僕なんかのめ――
セナお姉ちゃんとリサがディアナの隣に立った。
二人も優しい笑顔で、「私からもお願いします」と言われた。
でも……そんなの駄目だよ……。
僕の為に、幼い頃からずっと剣を握り続けて、遊ぶ時間も惜しんで稽古をしてくれていた。
今では、多くの人を守る為に、誰もが恐怖する人にも立ち向かった。
そんな彼女を妾として取る事は……僕には出来そうにもない。
「駄目だ。それだけは出来ない」
僕の言葉に顔は見えないが、ディアナは悔しそうだった。
――そして。
「ディアナ……その……僕は既に、奥さんが二人もいるけど、その……三人さえ良ければ、僕の奥さんになってくれないかな?」
その言葉に、ディアナが大きな涙の粒を流した。
セナお姉ちゃんとリサも、良かったと喜んでくれた。
こうして、僕は気づけば、既に三人の未来の奥さんが出来た。
と思っていた。
僕の考えが甘かった。
何故なら、この場を見つめていた人がもう一人いたからだ。
見つめていたと言うか、見守っていたと言うか……その期を待っていたと言うか。
僕の視界にナターシャお姉ちゃんが入った。
難しい顔をしているナターシャお姉ちゃん。
ううっ、奥さんが三人も出来て、嫌われたのかも知れない……。
ひ、人たらしと思われたのかな……。
と思いきや、リサがナターシャお姉ちゃんを連れてきた。
「くろにぃ、実はナターシャさん。くろにぃの為に今まで頑張ってきたんだよ?」
「え!? ぼ、僕の為!?」
それは知らなかった……。
というか、ナターシャお姉ちゃんは毎日楽しそうにしていたから、アイドルとかも好きだと思っていたよ。
「アカバネ商会が大商会になるまで、最も貢献した人って、ダグラスさんもだけど、ナターシャさんもそうだと思うんだ」
「う、うん。それは僕もそう思うよ?」
「お給金を沢山あげているから、いいよね? って思ってないよね? くろにぃ」
「ええええ!? 全然思ってないよ!」
「ダグラスさんには『名前』を贈ったよね?」
「う、うん……」
少し涙目になって、子犬のように僕を見つめるナターシャお姉ちゃん。
相変わらず別嬪さん――――ってそうじゃない!
「く、クロウくん……わたし……その……クロウくんより、年も凄く上だし……きっと私の事……女性として、見れないのかも……知れないけど」
ええええ!?
そんな事全くないですよ!?
僕が人生初めて「こんな美しい女性がいるなんて」って思ったのは、他ならぬナターシャお姉ちゃんですよ!?
もちろん、今でもそう思ってますけど!
「時々で良いから……奥様には迷惑は掛けないようにするので、その……わたしを――――妾として娶ってください!」
「えええええ!?」
ナターシャお姉ちゃんも妾なの!?
というか、僕、妾を娶るつもりなんてないですから!!
でも、申し訳ないけど……もう僕の一存で、奥さんを増やせられない……と思う。
恐る恐る、僕の未来の奥さんたちを一人ずつ見つめた。
みんな、満面の笑みで頷いてくれた。
「ナターシャお姉ちゃん! 僕は既に奥さんが三人もいるけど……その……僕の妾ではなく、奥さんになってください!」
――こうして、僕は四人の未来の奥さんが出来た。
まだ成人していないので、結婚は成人してからとの事になった。