232.セナ
◆エクシア領、エドイルラ街の広場◆
広場には多くの人で埋め尽くされている。
先日、発表されたとある事が原因であった。
アカバネ大商会の前にあるステージの上に、二人が立っている。
アグウス・エクシア。
フローラ・エクシア。
――しかし、広場に集まった人々は、彼らを祝う雰囲気ではなかった。
どちらかと言えば、殺伐としていた。
ステージにいるアグウス・エクシアが拡音魔道具を使い、淡々と話し始めた。
「此度の戦争が起きた原因は……帝国にいた『聖女アリサ』様とその母親である『セシリア教皇』様が……我々グランセイル王国から拉致された事から始まりました。
彼女達を拉致したのは……他ならぬ『セレナディア』でございます。
この戦争を引き起こした戦犯として、セレナディアをエクシア家及びグランセイル王国から………………永久追放に処します」
アグウスから衝撃な事が告げられると、広場にいる多くの者達から罵声が飛んだ。
中には、二人に目掛け、腐った卵や腐った野菜を投げる者も多くいた。
――そして、多くの者達が涙を流していた。
アグウスとフローラはその罵声を受け続けた。
――セレナディアが、これ程までに愛されている存在だと、噛み締めていた。
しかし、何故か二人は悲しい顔ではなかった。
◇
僕の目の前に信じられない光景が広がった。
お父さんとお母さんが領民達に罵声を浴びていて、物まで投げられている。
あんなに……あんなに領民を愛している両親が……あんなの両親を愛した領民達が……。
その理由。
――「セレナディアをエクシア家及びグランセイル王国から………………永久追放に処します」
え?
お父さん?
何を……言っているの?
何故セレナお姉ちゃんの名前が?
そもそも拉致って何?
永久追放って何?
僕は理解が追い付かなかった。
でも、一つだけ分かる事があった。
――――今すぐお父さんとお母さんの元に行かないと――。
僕はまだ『転移魔法』が使えない。
だから、僕は無我夢中で『次元扉』まで走った。
しかし、そこには……今まで見た事もない、悲しい表情のセレナお姉ちゃんが立っていた。
「クロウ……いや、クロウティア様。お願いです……この先には行かないで……ください」
セレナお姉ちゃん?
なんで僕に敬語なんか……。
なんで僕を様で呼ぶの?
そんな……
どうして……
一体、僕の知らない所で……何が起きているの?
お願い……
誰か教えて――
「くろにぃ」
後ろを見ると、申し訳なさそうにしているリサがいた。
そして、リサから衝撃的な話しを聞かされた。
「今回の戦争で、帝国は今とても大変な状態になっているの。その中でも特に危ういのは、多くの貴族達なの……もし、このまま何もしなければ、帝国中で大きな反乱が起きるの。それを防ぐ為に……私はグランセイル王国に拉致されていて、帝国軍は私を取り返す為にこの戦争を起こした……事になったの……」
え? なった? 誰がそれを……決め…………まさか。
「私を拉致したのは……エクシア家。アカバネ大商会で何度も目撃されてるから、言い逃れは出来ないの……それにアカバネ大商会に罪を負わせたくなかった」
罪を負わせたくなかった?
誰が……追わせたくなかった?
「だから、その全ての罪を……セレナ先輩が背負う事にしたの…………全て、セレナ先輩が決めた事なの……」
僕はセレナお姉ちゃんに目を向けた。
セレナお姉ちゃんは正座をしていた。
「私は既にエクシア家から追放されました……」
や……やめて、お姉ちゃん……。
敬語……嫌だよ。
「今は……ただのセナです」
セナ? 違う! お姉ちゃんは……。
「最後に挨拶だけさせてください……どうか、アリサさんと……末永く幸せに……なって……くださ……い」
僕が未だ理解が出来ず、どうしていいか分からなかった。
すぐに後ろからリサの声が聞こえた。
「くろにぃと私が婚約するには……こうするしか……」
ああ……そうか……全ては僕の為だったのか。
僕とリサの婚約。
このままでは帝国がまた崩壊して、内戦状態になってしまう。
それを防ぐ為に……エクシア家全体でそれを受け止める。
それを……セレナお姉ちゃんが買って出た……。
自分が追放されると、分かった上に……。
セレナお姉ちゃんが立ち上がった。
いつも元気で笑顔の彼女はいなかった。
窶れて、生気がない顔で、希望もない瞳。
僕は僕の幸せの為だけに……誰にも相談もせず、また勝手に決めてしまった。
リサとの婚約。
リサが生き返った日。
何でもすると言った彼女に、僕は結婚の話しを出した。
本人は冗談だと思っていたみたいだけど、それでも僕はこの先も堂々とリサと共に生きて行きたかった。
でも、それで周りを不幸にしたくはない。
既に……僕の家族は不幸になってしまった。
でも、まだ何とか出来るはずだ。
以前メティスは言っていた。
何がしたいか、しっかり願いなさいって。
セレナお姉ちゃんと離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
だって、ずっと一緒だったんだから……。
僕はリサを見つめた。
リサは分かったように、満面の笑顔で頷いてくれた。
リサ……ありがとう。
「セレナお姉ちゃん! いや……セナさん! 待って!」
お姉ちゃんが驚いて僕を見つめた。
「もう……セレナお姉ちゃんじゃないんだよね? もうただのセナさん何だよね? 僕達……もう家族じゃないんだよね?」
お姉ちゃんの頬には大きな涙の粒が落ちた。
「セナお姉ちゃん……どうか、僕と結婚してください」
お姉ちゃんは僕の腕の中で、今まで見た事もない姿で泣いていた。
泣きながら話した言葉が今でも耳に残っている。
「お父さんと……っ……お母さんから……っ……頂いた、っ、名前……ううっ…………ごめんな……っ……さい……ううっ」
2021/10/20記
多くの方々にこの話が納得いかないとの声を多く頂いております。(別サイト込み)
作者の表現の下手さも相まって唐突過ぎる展開を疑問に思える読者様も多くいるかも知れません。
作者として、これも人を思う優しさの一種と考えて描いております。
中々重い表現を上手く書けずに読者様方々には失望する方もいたかも知れませんが、それをも込みで、これからの『囲まれ』の進化を見て頂けたら幸いです。