227-2.剣聖と剣聖と狼
二人の賢者が帝国軍の足止めに成功した。
――しかし。
その数分後、帝国軍の奥から、禍々しいオーラが放たれた。
誰もが知っている恐怖を象徴するようなオーラだった。
――――『戦慄の伯爵』アデルバルト・ドラグナー伯爵。
彼の登場に、多くの連合軍が恐怖した。
――しかし、その前に三名の女性が立ちはだかった。
『剣聖』セレナディア・エクシア。
『剣聖』レイラ・インペリウス。
『黒狼』ディアナ。
誰もが息を呑む程に美しい三名の女性騎士が『戦慄の伯爵』に対峙した。
「アデル伯爵様……ここは通しません。貴方に……もうこれ以上、悲しみを背負わせません」
レイラ皇女の言葉に、左右にいるセレナディアとディアナも頷いた。
「ぐるああああああ!!!!」
『戦慄の伯爵』の雄叫びが戦場を駆け抜けた。
その雄叫びに恐怖する者は多かった。
――しかし、彼の本当の姿を知っている者達は、その叫びが悲しみの叫びだと知っていた。
――――――「どうか、俺を……早く止めてくれ……」
三人は剣を握った。
「絶対に諦めません。今度は私が救います。セレナさんの弟君がいらっしゃるその時まで、アデル伯爵様には誰も殺させやしません!」
『戦慄の伯爵』が斧を持って、飛びかかった。
「剣技、朱雀型、豪赤剣!」
レイラ皇女の魔力が込められた赤い光の剣戟が伯爵を襲う。
少しレイラ皇女が押されるが、直ぐに両側からセレナディアとディアナが飛び出してきた。
「剣技、青龍型、双竜斬!」「剣技! 黒狼絶裂斬!」
レイラ皇女と剣を交えている伯爵の足に二人の剣戟が斬りかかった。
「ぐあああああ!!!!」
伯爵は斬られた足で、満足に立てずにいた。
「剣技、玄武型、静水斬り」
流れるような美しい剣戟が、伯爵の斧を持った手を斬り抜ける。
意識はなくとも、既に満身創痍の伯爵は、斧を持ち上げる力も残っていなかった。
三人は『戦慄の伯爵』が動けないように、手足に傷を増やしていった。
正気ではない伯爵の虚しい叫びが、戦場に響き渡る。
遠くでその戦いを見つめるジョゼフは、悔しそうに、でも何処か嬉しそうにしていた。
――最上位職能。
その頂の一つである『剣聖』。
『剣聖』二人、その『剣聖』にも匹敵する『黒狼』。
彼女達の才能に魅入られ、自分もその頂に行きたかったと悔しそうに思う。
それでも、その中に自分の孫娘がいるのが、心の底から嬉しかった。
恐らく明日新人賞発表です…ソワソワして何も手につきません…