227-1.賢者と賢者
アーライム帝国領内、南東部。
多くの帝国軍がフルート王国に向かって進軍中だった。
兵士達の移動はゆっくりであったが、確実に一歩一歩前に進んでいた。
不思議な事に、兵士達の動きは一切の乱れなく、同じ動き、同じ速度で歩いていた。
そして、兵士達はみな、同じ言葉を繰り返していた。
「グランセイル王国に鉄槌を!!」
「グランセイル王国に天罰を!!」
「アカバネ大商会に鉄槌を!!」
「アカバネ大商会に天罰を!!」
帝国軍が遠くに見える程の距離に、連合軍が布陣していた。
連合軍は、一糸乱れもない帝国軍の進軍に大きな恐怖を抱いた。
足踏み音、発している言葉、どれも寸分違わずに聞こえていたからである。
◇
「連合軍の皆よ!」
そこにはアカバネ大商会の魔道具『拡音魔道具』を持ったジョゼフがいた。
「この戦争では多くの命が犠牲となった! しかし、我々にはまだ守らねばならぬ命がおる!」
全ての兵士がジョゼフの声に耳を傾けた。
「前を見れば、多くの敵がいて、恐れを抱く者も多いであろう」
そしてジョゼフは帝国軍の反対側を指差した。
「だが! 後ろを見よう!! あそこには我々が守らねばならない者達が限りなくいよう!!! 連合軍の皆よ、恐れるな! 我々には守るべき人達がいて、我々の命が彼らの未来へ繋がるのだ!!! 帝国軍なんぞに恐れる必要はない!!! ここには、大陸最強と謳われる『剣聖』が二人もおる! みな前を向け! 振り向くな! 剣を取れ! 『剣聖』と共に、大切な人達を守ろうではないか!!!」
ジョゼフの言葉に、連合軍からは大きな声援が上った。
まだ遠くに見える帝国軍との衝突に、多くの連合軍は恐れを抱いていたが、ジョゼフの言葉に皆、我に返り、士気が高まった。
――そして、帝国軍か目の前に迫った。
◇
「リーダー! そろそろ両軍がぶつかりますぜ!」
「リーダーじゃねぇ! ボスと呼べっつったろう!!」
「へいへい、分かりましたよ~ボス」
「野郎ども!! 連合軍とぶつかる前に打って出るぜ!! 準備はいいか!!!」
「「「「おおおお!!!!」」」」
青い髪の若い男性と共に、海賊の格好をした一団は、不思議な丸い箱を大量に持って、帝国軍に向かって馬を走らせた。
◇
連合軍と帝国軍が衝突する直前となった。
帝国軍の異様な空気に、連合軍の皆が息を呑んだ。
そして、帝国軍は連合軍に向かって、走り出した。
――――その時。
東側の空から多くの丸い箱のような物が帝国軍に向かって大量に投げられた。
「この戦争は、俺様が止めてやる~!!!」
不思議な船に乗った青い髪の男が連合軍と帝国軍を遮った。
「なっ!? あいつは!」
彼の登場に、ジョゼフが驚いた。
そして、隣で戦いの時を待っていた皇女が前に出た。
「アレクお兄様!?」
「よお! レイラ! 助けに来たぜ!!」
青い髪の男が手を振った。
「ボス! 遊んでる場合ですか! 帝国軍が来ますよ!!」
「おう、分かった! 西側に舵を取れ!」
そして、アレクと呼ばれた男の船は、レイラ皇女を残し、西側の帝国軍に向かった。
「――――、怒れる雷、広範囲スタン!!」
船に乗っている男から、雷が帝国軍を襲った。
その雷は戦場に投げられていた、丸い箱に増幅され、更に加速し戦場に広がった。
雷に撃たれた帝国軍の兵士達は、次々と倒れていった。
「流石、帝国の『大器の賢者、アレクサンダー』殿だのう」
「ふふっ、いたずら癖がありますから、今回も最初からああするつもりだったのでしょう」
「全くじゃわい……それにしても、うちの――――」
ジョゼフの言葉の途中、今度は連合軍の東側からさっきと同じ魔法が飛んできた。
「なっ!? 俺様の広範囲スタンを真似るやつ!!」
その魔法を見たアレクが怒った。
「ボス、いいじゃないっすか、魔力も無限にある訳じゃないですし、ここは一つ、向こうの賢者にも花を持たせましょうよ」
「ぐぐぐ、俺様の格好良い登場に免じて許してやるか」
連合軍の前に、一人の老人が前に出た。
白と緑のローブが特徴で、白髪の下には、全てを見通すかといわんばかりの鋭い瞳が彼の深い力を象徴するかのようだった。
「おう、来てくれたか、『自由の賢者、フライト』殿」
ジョゼフの言葉が聞こえてはいないはずだが、フライトと呼ばれた老人はジョゼフに向かって、軽く手を挙げた。
連合軍は、恐れを知らず進軍してくる帝国軍を二人の賢者により、『広範囲スタン』で気絶させていく様を目に焼き付けていた。
「アレクサンダー様! フライト様! もう少し――もう少しだけ耐えてください! 必ず救援が来ますから!」
セレナディアの『拡音魔道具』で二人にそう伝えた。
二人はセレナディアに向かって、分かったと言っているよう拳を挙げた。