215.初戦の後
僕は数日間、ずっと戦場を見る事しか出来なかった。
もどかしい……。
セレナお姉ちゃんから絶対に参戦してはならないと言われてしまったからだ。
数日間の戦いの末、連合軍の東軍が帝国軍を打ち破り、大勝利した。
そのまま帝国領の境界線で布陣するようだった。
そして西軍では、セレナお姉ちゃんが出陣していた。
遠距離ライブ観戦装置しか見えないけど、相手も物凄く強い人だった。
使っている技が同じ。
もしかして……向こうも『剣聖』なんだろうか?
セレナお姉ちゃんと相手の剣聖と思われる女性との闘いは激闘だった。
見ているだけでも、その緊張感が伝わって来た。
その激闘もセレナお姉ちゃんが『神々の楽園』を解放した事で、決着が付いた。
相手の女性はセレナお姉ちゃんに剣を奪われ、帝国軍と共に逃げ去って行った。
連合軍からはセレナディアコールが沸き上がっている。
セレナお姉ちゃんが無事、勝ってくれて一安心した。
◇
前線での戦争がひと段落して、境界線で布陣していた両軍。
それとは別に、アカバネ大商会の従業員は現在、戦争の場所となったテルカイザ共和国とフルート王国両国の東砦で仕事をこなしていた。
――――それは、死体の処理だった。
王国軍と帝国軍。
多くの兵士達の死体が転がっていた。
この戦争の悲惨さが従業員全員に伝わっていた。
その中には、クロウティアもおり、一人一人、大切に一箇所に集めた。
クロウティアは自分の無力を嘆いていた。
魔法が使える。
人より強力な魔法が使える。
魔道具が作れる。
今まで見た事もない魔道具が作れる。
お金が沢山ある。
世界で誰よりもお金を持っている。
――ただ、ただ、優しい家族と生きていたかっただけなのに、どうしてこうなってしまったんだろうとずっと考えていた。
◇
セレナディアは考え込んでいた。
この戦争の意味を。
先日戦った帝国の『剣聖』。
レイラ・インペリウス皇女。
彼女は戦わなければならない理由があると言っていた。
その理由さえ、分かれば……この戦争を止める事が出来るのだろうか。
弟の悲しい表情が今でも頭から離れなかった。
最愛の弟が戦えば、戦争もすぐ終わるだろう。
でも、戦争が終わったら?
誰もが弟を恐れるようになるはずだ。
それは帝国だけでなく、王国も。
今はまだ弟の本当の力を世界は知らない。
あの子が以前ダンジョンで見せてくれた最強魔法。
それを簡単に使っていた。
あの魔法一回で帝国軍は壊滅するだろう。
でもそれでは戦争が終わっても憎しみは消えないとセレナディアはおぼろげに、分かっていたのだ。
◇
前線の東軍西軍が勝利を飾り、前線が押し上げになった。
今ではアーライム帝国領の境界線にまで来ている。
帝国軍の士気は過去一最低になっていた。
切り札であった『戦慄の伯爵』、そして、『不屈の戦姫』が負けたからである。
帝国軍は一度編成を整う為、南東貿易街ガイアと南西貿易街フロリタにまで軍を撤退させていた。
実は南東貿易街ガイアの南側、つまり、ガイア街とアーライム帝国領境界線の丁度間に、『ホフヌグ町』が復興支援により建設されていた。
しかし、戦争になったことによって、その町は帝国軍に占拠されていた。
現在、その町では敗北した多くの帝国軍が滞在している。
更に、復興支援を行っていたグランセイル王国やフルート王国、テルカイザ共和国の者達、そしてアカバネ大商会の者達が捕らえられていた。
町民達の必死な嘆願により、彼らは酷い事にはなっておらず、穏やかに捕らえられていた。
――――しかし、誰もが予想だにしなかった事件が起こる。
その事件により、大陸は、かつてない混沌に堕ちるのであった。