表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/360

202.お見合い

 次の日――。


 お父さんに言われるまま、僕は急なお見合いをする事になった。


 何が何でも一度受けて欲しいとお父さんからお願いされたからだ。



 場所は王都の高級レストランの個室で、先に僕とお父さんが待っていた。


 飲み物も口を通らないくらい緊張する……。


 暫くして、ノックの音と一緒にとある女の子と中年男性が入って来た。


「エクシア辺境伯様、本日はお招きありがとうございます」


「こちらこそ、メレイラ子爵殿。お越しくださり、ありがとうございます」


 軽く世間話をして、お父さんと子爵様は僕達を残し、部屋を出て行った。



「初めまして、メレイラ子爵家の次女、ハンナ・メレイラと申します」


「は、初めまして、ぼ、僕はクロウティア・エクシアです、よ、よろしくお願いします」


 それから彼女と色々話しをしたけど、全く覚えられなかった。



「クロウティア様? テラスに出て見ませんか?」


 彼女に誘われテラスに出てみた。


 テラスから見える王都の景色は、美しい街並みと活発に行き交う人々が見えた。


 眺めを見ていると、ふと、セレナお姉ちゃん、ナターシャお姉ちゃん、リサ、ディアナの顔が浮かんだ。


 今頃、彼女達は何をしているんだろうか……。


 僕は今、何をしているのだろうか。


 でも、こんな事思っているなんて、折角ここに来てくださったハンナさんに申し訳がない。


 とそんな事を思っていると――、


「ふふっ、クロウティア様は心ここにあらずな感じですね」


 と言われてしまった。


「さっきからずっと上の空ですけど、緊張もあるでしょうけど……きっと、誰かを思っているのではないですか?」


「あ、あう……その……ごめんなさい……」


 そんな僕に彼女は安堵したように小さく溜息を吐いた。


「クロウティア様、実は……大変失礼だとは思いますが……私はこの縁談を断わらせて頂きたいのです」


「えっ?」


「申し訳ございません……」


 彼女は申し訳なさそうに謝ってきた。


「い、いいえ! さっきからまともに会話も出来なくて……寧ろ、僕の方こそ申し訳ないと言うか……それに……」


 実は別な女性の事を思っていた――――なんてとても口に出来なかった。


 それでもハンナさんはそれを察していたようで、


「実はわたくし……既に好きな人がいるのです」


 と言われた。


 彼女は何処か遠くを見つめて、誰かを見つめていた。


 きっと、その好きな方なのだろう。



「ですが、彼は貴族ではないので……婚約する事も出来ず、こうしてお父様に縁談を持ち込まれて、ここに来てしまいましたわ……でもやっぱり私は……彼と結ばれたい……」



 悲しそうで……でも嬉しそうなその瞳を見て、僕も決心が付いた。


「ハンナさん、ごめんなさい。僕も……別に好きな人が……多分ですけど……いるんだと思います」


「ふふっ、そうですね。わたくし、こう見えても可愛い方なのですよ? そんなわたくしを……一度も女性として見てくださらなかったんですもの」


 うっ……ご、ごめんなさい。


「彼女はどんなお方ですか?」


「えっ……と、どうなのだろう……そもそも好きなのかどうかも……」


「でも、彼女の悲しむ顔が浮かんでいるのでしょう?」


「えっ!? どうしてそれを……」


「ふふっ、私も同じだからです」


 彼女はまたいたずらっぽく笑った。


「それはきっと、彼女の事が好きだからだと思いますよ? だって、こんな美男子を前に、私ったら別な男性を思い浮かべているのですから」


 彼女は僕を見つめていた。


「ですから、ちゃんと彼女の事、大切にしてあげないといけませんよ?」







 僕の人生初めてのお見合いは、大失敗に終わった。


 元々、やる気があって来た訳ではないけれど……ハンナさんの言葉が耳に残り続けた。




 ――――人を好きになるって……分からないよ……。




 ◇




 僕は一人、王都支店に帰った。


 ハンナさんは馬車で帰るとの事だったので、お見送りだけした。


 ハンナさん。


 どうか、彼と上手く行きますように。



 複雑な感情で、自分が自分でもよく分からないまま、道を歩いた。


 お父さんが言っていた「人は生きる為、歩み続けなくてはならない」が頭から離れなかった。


 僕の歩んでいる道は――――ずっと、一人、――――。




「クロウ!!!」「くろにぃ!!!」「クロウ様!!!」


 王都支店が見え始めた頃、僕を呼ぶ声と共に、お姉ちゃん達が走って来た。


 お姉ちゃん達はすぐに僕を抱きしめてくれた。




 ――――ああ、僕、ここにいてもいいんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ