200.図書館
僕は二年生に、セレナお姉ちゃんは三年生になった。
去年少しだけ参加していた魔法科Cクラスも、今では無くなっていた。
いや、無くなっていたのではなく、元々いたCクラス員の数人がBクラス員と入れ替わっていたからだ。
相変わらず、エレンくんの仕切りが上手く、効率良く訓練をしているので、魔法使いクラスもどんどん伸びていったそうだ。
僕の友人であるイカリくんも三年生だったので、今年から既に学園にはいなかった。
今は、嬉しい事にアカバネ商会に入ってくれた。
マリエルさんの推薦もあったし、イカリくん自身の能力も高かったので、アカバネ大商会としては大歓迎だった。
今では、島で一生懸命に研究をしてくれている頃だ。
また一人となった僕は、何をしようかと悩んでいた。
来る日も来る日も『アカバネ式トイレ』を作っているけど、作り過ぎて虚無感を覚えてしまった。
いつも手伝ってくれているソフィアには感謝しかないけど……。
そんな折り――、
【クロウくん、暇そうね?】
「メティス、そうだね……イカリくんは、もういないし……お姉ちゃん達も他の授業とかだからね」
【そっか、なら折角だし、図書館に行って見たらどう?】
「図書館?」
【ええ、白バッジがあれば、王都城内の図書館に入れるはずよ】
「そっか! うん、行ってみようかな」
メティスの提案で、僕は初めて王都城内に向かった。
門番さんに白バッジを見せると、とても驚いて通してくれた。
門番さんの一人がどっかに走って行ったけど、どうしたんだろうか?
メティスの案内で、図書館に着いた。
右を見ても、左を見ても、上を見ても、本しかない!
それに本の匂い!
紙とインクの匂いが充満している!
図書館に感動していると、エントランスの女の子が声を掛けてくれた。
「図書館は初めてですか?」
物凄く、しかめっ面で僕を見ていた。
「えっ? はい、初めて来ました」
「そうですか、では軽く注意事項を説明しますね」
彼女に言われるがまま、近くで説明を聞いた。
うるさくするなとか、本を傷つけるなとか、持って外に出るなとかだった。
ずっとしかめっ面で説明してくれた。
説明が終わると、彼女は溜息を吐いて、何かを探し始めた。
「何か探し物ですか?」
「え? はい……私、とても目が悪くて、眼鏡がないと前もまともに見えないんです」
あ……だからずっとあんな表情だったのね。
「あ、後ろの本の上に眼鏡、ありますよ?」
「え? あ! 本当だ! ありが――――え?」
女の子は眼鏡を掛けて、僕を見つめると酷く吃驚した表情になった。
「ええええええええええ!?!?」
「ちょ、ちょっと!? 図書館では静かにしなさいってさっき……」
「あうっ、ご、ごめんなさい。まさかクロウティア様が目の前に現れるなんて……」
彼女が泣きそうになっていたので宥めてから、図書館の中に向かった。
それから僕は魔法に関する本や剣術に関する本等、数点読み進めた。
教本とは違って、魔法や剣術の歴史とか、昔の人はこう思っていたとか書かれていて、とても面白かった。
昔は、魔法の事を奇跡と呼んでいたそうだ。
奇跡か――、確かに魔法って奇跡みたいなところがあるかも知れないね。
そんな事を思っていると、ふと、一冊の本が目に入った。
沢山の本が並んでいる中の一冊だった。
不思議と気になったので、本を取り出してみた。
本のタイトルは『聖女と魔王』というタイトルだった。
聖女と魔王という言葉だけで、既に興味が沸いてきた。
僕は無我夢中でその本を読んだ。
◇
初代聖女『ヴィクトリア』は、生まれながら数々の奇跡を起こした。
多くの人々を癒し、数々の魔物を倒した。
そんな中、聖女に呼応するかのように、勇者も現れる。
勇者は仲間に剣聖、弓聖、槍聖、賢者を連れて、聖女を迎え入れた。
その六人は数々の試練に打ち勝ち、また多くの人々を助けた。
彼らは、試練を受け、大きな力を持ち、遂には人間を滅ぼさんとする魔族に戦いを挑んだ。
数が少ない魔族であったが、一人一人がとても強く、戦いの最中に弓聖、槍聖は命を落とした。
その戦いで、聖女は悲しんだが、戦いを終わらせるために魔王を倒すべく立ち上がった。
勇者、聖女、剣聖、賢者の四人は力を合わせ、遂に魔王に辿り着く事が出来た。
聖女達と魔王の熾烈な戦いが続いた。
勇者や剣聖はその手足をもがれるも、魔王に致命傷を与える事が出来た。
そして、聖女と賢者の大魔法により、魔王に更なる致命傷を与えた。
それでも魔王は倒れず、魔王の渾身の一撃により、勇者と剣聖も命を落とした。
聖女は最後の力を振り絞り、極大魔法『セイクリッド・サンクチュアリ』を発動させた。
極大魔法により、魔王をその地に封印させる事が出来た。
しかし、極大魔法を発動させる為に、聖女ヴィクトリアも自身の命を燃やした。
極大封印魔法。
魔王を封印する事が出来たその地は、魔王の名を取り『ノアの地』と名付けられた。
それから『ノアの地』は一切の植物が育たず、全て枯れ果ての地となった。
最後に唯一生き残った聖女の恋人だった賢者は、また封印から生まれるであろう魔王を倒すべく、恋人の意志を継ぎ、冒険に出た。
何故だろう?
この物語を読んでいた僕の頬に、一筋の涙が流れた。