185.恋
風呂上り、僕達四人は湖辺を歩いた。
リヴァはお酒が気に入ったらしくて、テラスで飲むからと僕達だけになった。
いつの間にみんな浴衣姿になっている。
三人とも、美しい浴衣姿に良い香りがしていた。
何となく、さっきの露天風呂の件があって、僕達は黙ったまま、美しい湖を背景にゆっくりと歩いていた。
みんなもそれぞれ、何かに思い更けている感じだった。
今、みんなはどういう事を思っているのだろうか?
ふと、僕達が歩いていると、何処からか良い匂いが流れてきた。
焼き串の香ばしい匂いだ。
「セレナお姉ちゃん」
「うん? どうしたの?」
「久しぶりに、焼き串食べない?」
「…………、うん」
リサとディアナも良いとの事で、僕達は匂いに釣られ、焼き串を売っている屋台にやってきた。
屋台では美味しそうな焼き串が売っていた。
みんな、それぞれ好きな焼き串を取って、代金を支払い、隣にある長い椅子に座った。
うん。
美しい湖を見ながら食べる焼き串もまた絶品だね~!
そんな僕の耳に聞こえた声は――――。
「ねえねえ、見て見て、あそこのカップルたち、凄く可愛いわ。あの男の子とみんな恋人かしら?」
「え? あの子、男の子なの? あー、確かに服は男性服だね、てっきり女性四人組かと思ったよ」
「私も初めはそう見えたんだけどね、あの子、ちゃんとエスコートしてたからね、それにしてもあの四人、絵になるわね」
「女性三人も凄く可愛いね」
「女性の私から見ても可愛すぎるわ」
ひそひそ話が聞こえてきた。
ええええ!?
僕達カップルじゃないですけど!!
姉弟と兄妹と主従? 関係ですけど!!
僕は気まずくなり、焼き串の味も感じられないまま、食べていた。
三人も僕と同じ思いをしていたとは、思ってもみなかった。
◇
次の日。
別荘から帰って来た僕達は、そのまま学園に行き、いつものように別れた。
そして僕は真っ先に、イカリくんの所へ急いだ。
「やあ、クロウくん、急いでどうしたの?」
僕を見かけたイカリくんだった。
「えっとさ、ちょっと相談したい事が……あってさ」
「ふふっ、君から相談なんて、珍しいね。それでうちのクロウ姫は何がお困りですかな?」
最近、イカリくんは女神クロウティアの噂を聞いてから、偶にクロウ姫とからかってきた。
そもそも女神クロウティアって! 僕、男ですけど!?
「えっとさ…………、イカリくんって……その……恋人っている?」
それを聞いたイカリくんが大笑いした。
ええええ!?
「ないよ? 僕はずっと家に籠っていたからね、クロウくんは恋人にしたい人でも見つかったの?」
「うっ、見つかった……という訳ではないけど……そもそも僕みたいな人に恋人が出来るとは思ってないし……」
あれ?
イカリくん?
なんでジト目で見つめてくるの!?
「あのさ、クロウくん」
「うん?」
「君……どれくらいモテてるのか……まあ、そっか、それならば――」
「え!? イカリくん? 何処に?」
イカリくんが立ち上がり、僕を連れて、何処かに向かった。
◇
イカリくんに連れられ、僕は魔法科の二年生の練習場に来た。
入った瞬間――――。
きゃぁああああああ!! 見てみて、クロウティア様よ!!!
と物凄い黄色い歓声が上がった。
えええええ!?
それからイカリくんに連れられ、色んな教室の前を歩いた。
何処に行っても、凄い歓声が上がっていた。
◇
「さて、クロウくん?」
「は、はひ!?」
イカリくんがジト目で僕も見て来た。
「これでも君はモテないとでも?」
「ううう……ごめんなさい……」
「ッ……本当……可愛いらしいな」
「ん?」
イカリくんが何かを小さく呟いたけど、聞こえなかった。
「まあ、取り敢えず、こんな感じさ。君が十二分にモテモテなのは、理解出来たかい?」
「う、うん。でもあれはきっと、僕がエクシア家の――」
えええええ!?
イカリくん痛いよ!? 僕のほっぺを引っ張らないで?
それから僕はイカリくんから、三十分程、良く分からない説教を受けた。
◇
◆イカリフィア・ハイランド◆
ほっっっんとに! この男は!
いつまで経っても、自分が滅茶苦茶モテている事に自覚がない。
しかも、悩んでる姿がまた可愛らしくて――――げふん、そういう事ではなくて。
とにかく、急に恋人の悩みだと相談されたけど、クロウくんなら恋人には困らないだろうね。
容姿は世界でも片手指に収まる程の美貌。
血統も世界で最も良い血筋。
なのに物凄く強くて、『ロード』クラスの生徒。
実は世界一の大富豪。
一体……この子に弱点はあるのか?
まあ、弱点と言えば、この子はイマイチ世間体というモノが分からないようだ。
折角なので、クロウくんにはみっちり常識というモノを叩き込んだ。
かく言う僕もそれほど詳しくはないけど……、さすがにクロウくんよりは知っているつもりだ。
昔から女性とよく間違われているから、そこらへんは既に勉強済みだからね。
説教後、やっとクロウくんも反省したようで、モテないって言ってごめんなさいと話した。
はあ……、それがまた可愛過ぎなのだよね……。