184.露天風呂での想い
◆セレナディア・エクシア◆
弟が隠し別荘を持っていた。
弟本人も知らなかったらしい。
――――本当に愛されている弟で嬉しいわ。
私達は昨日出来なかった、『てーまぱーく』とやらの予定地を視察して、別荘に来ていた。
ここでも、アカバネ島同様、風呂と露天風呂が備わっていた。
正面に美しい湖が見えるので、アカバネ島の旅館とはまた違った良さがあった。
露天風呂の言葉を聞いた弟は、すぐに風呂に走っていた。
どうやら「霧属性魔法を掛けないといけないから!」と慌てていた。
あの魔法、外からでも中が全然見えなくなる魔法らしい。
何度か、私のスカートとかにも掛けてくれたけど、本当に見えなくなっていた。
弟の魔法掛けが終わったので、私達は先に風呂に入る事にした。
私とアリサちゃん、ディアナちゃん、新しく従魔となったリヴァさんと露天風呂に来ていた。
「ほぉ~、この露天風呂というのはとても良いの~」
初めての露天風呂にリヴァさんがご機嫌のようだった。
「そう言えば、誰が主の女房になるんじゃ?」
「「「ブフ――ッ」」」
リヴァさんから爆弾発言が飛び出した。
「にょ、女房って??」
「ん? なんだ~おぬし達って主の恋人ではないのかえ」
「「「ブフ――ッ」」」
リヴァさんはクスクスと笑っていた。
「でも、それは私も気になっていたわ。セレナ先輩は……血縁者だから難しいのかな?」
アリサちゃんからそう言われた。
うん。
それは――――私が一番知っているつもりだ。
「ええ、私はクロウの事は大事ではあるけど、恋人になりたいのとは違うわ」
それを聞いたみんなが意外そうな顔になっていた。
「私はてっきり、セレナ先輩も――」
「も?」
「あっ、いいえ。何でもないです」
「そう……、この中で可能性があるなら――、アリサちゃんとディアナちゃんかしらね」
「ええっ!? いいえ……、私がクロウ様の恋人など……とても……」
「えっ!? 私……妹だし……」
二人とも、もじもじしてて可愛い。
「ん? アリサ殿が妹?」
「あ……、私は前世でくろにぃの妹だったので……」
「ほお! 魂の記憶かえ? また珍しく、強い魂の記憶じゃの~」
「そうだね、クロウとアリサちゃんの絆は本物だからね」
あの日、弟とアリサちゃんを見届けた私だからこそ、分かるから。
「でも……、私はくろにぃの事……、お兄ちゃんとして見てるから……、だから多分……、そういう事にはならないと思うんです」
アリサちゃんは悲しそうな顔をしていた。
「本当なら……、くろにぃの妹として生まれたら良かったんですけどね……」
そうか……、アリサちゃんも……私と同じ悩みをしていたのね……。
「だからディアナちゃんが一番近いかも知れないです!」
「えっ!?」
言われたディアナちゃん本人も驚いた。
「それは……、私も難しいと思うけど……」
「え? どうしてよ? ディアナちゃん、くろにぃと凄く仲良いじゃない」
ええ、それは私も思うわ。
何かある度に、「ディアナがね~」とか言い出す弟だもの。
「私は元々、奴隷だから。奴隷堕ちだった私が、クロウ様の恋人だなんて……とても許される事ではないと思う……」
ディアナちゃんは弟が助けた元奴隷だったね……。
確かに、グランセイル王国で奴隷堕ちしたモノと、婚約等、大貴族である弟には難しいのかも知れないわ。
ただ、弟にはそういう世間体なんて、気にしないで生きて欲しいのだけれど……。
「そうかえ……おぬしたち、みんな色々抱えているのかえ」
もしも、もし弟の姉として生まれてなかったら。
そう思った事もあったけど、それでは私なんて、弟の目にも入らないと思うから……、今のままで私は満足。
そう言えば、以前、ナターシャ姉ちゃんとも、こういう話が出た事、あったっけ。
弟もあと三年で、きっと婚約者も出来るだろう。
私は果たして……。
そんな彼らの前で、ちゃんと笑える事が、出来るのだろうか。
◇
なんだか、一人で露天風呂に入るの、初めてかも知れない。
今回は僕だけ男だからね。
湖が美しくて、アカバネ島の旅館とはまた違って、景色が素晴らしい。
実はここの露天風呂……旅館と違って、女湯と隣同士なのだ。
――そして。
どうやら、お姉ちゃんも露天風呂に入って来たみたいだ。
小さいけど、隣の話し声が聞こえてきた。
――――「そう言えば、誰が主の女房になるんじゃ?」
「ブフ――ッ」
ちょっと!? リヴァ!? 何て事を聞くの!?
僕のお嫁さん!?
こんな僕のお嫁さんになってくれる人なんて、いる訳ないでしょう!
それからセレナお姉ちゃんやリサ、ディアナの声も聞こえた。
血縁者や前世の血縁者、元奴隷。
その言葉は、僕に色々考えさせる言葉だった。
もしかして、もしかしたら、僕って皆から恋人になりたいなんて思われていたりするのかな?
どうなんだろう……。
こんな僕の恋人になりたい人なんている訳ないけど……。
今度イカリくんに相談してみよう……。