175.辺境領主の憂鬱再び
◆ギムレット・バレイント◆
事件が起こったのは、十三回目のアカバネ祭だった。
以前から親交があるアカバネ商会。
いや、親交などと言えるモノではない。
アカバネ商会には大恩義がある。
我がバレイント領を救ってくれたのだから。
そんなアカバネ商会のおかげで、我が領の重要度が物凄く上昇した。
特に、共和国の行く末を決める『領主会議』では、僕の発言が大きな力を持つようになっていた。
何故なのか――。
それは……、他の領主達がみんなナターシャ嬢の大ファンだからだ!
この領主達……、口を開けば、ナターシャ、ナターシャと……。
エクシア家には、とんでもない好条件を出して、アカバネ商会を迎え入れた。
その時、エクシア家……つまり、アカバネ商会との交渉権利は全てバレイント領主である僕に指名がかかったのだ。
アグウス殿……僕を友人と言ってくださって、ここまでしてくださるなんて……。
貴方は……。
本当に……。
クロウ様のお父様ですよ!!
何でいつも二人は、僕にこんな意地悪をするのですか!!
あれですか!? 僕みたいな貧乏辺境領主に重大な責任を押し付けて、どうするのか見て楽しんでいるのですか!?
定期的に親睦を深めると言って、金貨一枚もするお土産を送ってくるの止めて貰えませんか!?
更に何? 共和国のアカバネ商会支店の頭取になって貰えませんかですって!?
なる訳ないでしょうが!!!
そんな責任、貧乏辺境領主の僕に務まると思います!?
あれでしょう!? 僕の反応を楽しんでいるのでしょう!? 二人とも!
え? なに? 今度はクリア町を『てーまぱーく』? と言うのにしようって?
何ですかその『てーまぱーく』――――――
ダメでしょう! そんな凄すぎるモノを我が辺境領に作るなんて、勿体なさすぎでしょう!
しかも、そんな凄すぎる計画を、何故自国や自領じゃなくて、僕のとこですか!?
ねぇ!? アグウス様!? クロウ様!?
いつになれば、胃の休まる日が来るのですか!?
え? ダグラス殿、なんですって?
えっと、クロウ様に目を付けられたのが最後?
うわああああ!
知りたくなかった!
僕はただ、領民達の生活を良くしようとしていたのに!!!
何故僕までこんな豪華な生活をする羽目になるのですかぁあああ!!
◇
僕が共和国のアカバネ商会指定交渉者となって以来、他領からのお願いが凄まじかった。
最初は、領民の為と思って出店をお願いしたアカバネ商会だったが、契約が結ばれたからと、友好の証として招待されたアカバネ祭。
そこで、領主達全員堕ちてしまったのだ。
あれから、毎日毎日、ナターシャ嬢の作った品は全て買い占める始末……。
なのに……。
十三回目の祭りでは、初めて『アカコレ』なんていうものを行った。
それを見ていた領主達全員……。
更に堕ちてしまったのだ。
――そう。
クロウ様を『女神クロウティア様』などと言い出したのだ。
違うんだ! クロウ様は男なんだよ!
え? 何故誰も信じてくれないのだ!
え? 明日から始まる『天使の輪』のお店で売る『女神クロウティア様の服』を全員分取ってくれないか?
一着、白金貨一枚!?
待ってくれ! その金額って、共和国年間の――――
え? 今までの貯金で買うから問題ない?
僕は領主達にお願いされ、ダグラス殿に『天使の輪』契約をお願いしてみた。
ダグラス殿からは、喜んで承諾してくださった。
どうやら、クロウ様より、全面的に協力するように言われていると……。
クロウ様には本当に頭が上がらない。
本来なら、売り物を先に取る行為は許される行為ではない。
だから、僕は屋敷の者と販売する前から並んでクロウ様の服を六着確保しようとした。
しようとしたけど……。
僕を見かけたアカバネ商会の従業員さんから呼ばれ、あの服は作ろうと思えば幾らでも作れるとの事だった。
えええええ!?
数量限定にしてるのは、その服しか売れなくなるから!?
六着くらいなら、簡単に作り出せる?
え? クロウ様から出してあげても良いよって言われているって!?
そして僕は、クロウ様の好意により、女神クロウティア様の服を七着購入させて貰った。
六着は領主達に贈るモノだ。
ではもう一着は――――
ああ、妻よ。
クロウ様の服を飾って、泣きながら祈るのはやめてくれないか……。
え? 女神様に祈り?
だから! クロウ様は! 男の子だよ!!
ああ、なんだか……僕も女神様に見えて来た……。
「「「「女神クロウティア様、万歳!」」」」