171.イカリフィアの真実
◆十三回目のアカバネ祭りの『アカコレ』開催前◆
僕はイカリくんを連れて、『アカバネ島』にやってきた。
イカリくんは僕を信じてくれて、素直に付いて来てくれた。
僕にとって最初で……そして、一番の親友だと思っている、今でも。
――でも、
もし従業員達に危害を加えるようなら、僕は止めなければならなかった。
だから、素直に従ってくれて、とても助かった。
事前に用意していた僕の屋敷にイカリくんを連れてきた。
貴賓室でとある人を待たせていた。
「イカリくん、知らなかったとはいえ、僕の商会の所為で君を苦しめた事、本当に申し訳ないと思っているよ。だから、これはせめてもの僕からの償いとして、受け取って欲しい」
イカリくんはキョトンとした顔になっていた。
僕はそんな彼を貴賓室の中で向かわせた。
貴賓室の中に入ったイカリくん。
そこで待っていたのは――――
「イカリちゃん、久しぶり」
「え、――――ど、う、し……て?」
彼女を見たイカリくんの目には、大きい涙が浮かんでいた。
「あははー、色々あってさ、私、クロウ様に助けられたのよ」
そう話す彼女の言葉と同時に、イカリくんは彼女に抱き着いた。
「マリエルお姉ちゃん!!! ずっと死んだと……ばかりに……生きて、い、て……うわああああ」
イカリくんはマリエルさんに抱きしめられ、ずっと泣き続けた。
◇
僕が学園で女の子から預かったイカリくんからの手紙には、衝撃的な内容が書かれていた。
イカリくんの従姉に当たる、マリエル・サイレンスという名。
マリエルさんは『アカバネ魔道具』を分解してしまい、アカバネ商会の制裁により、王国が多大なる損害が出る直前だったことから、アカバネ商会と交渉の結果、今回の犯人であるマリエルさんを処刑にした事が書かれていた。
実はこれも全て……僕の一言「これを機にその他の王都内の『エアコンキューブ』の申請は全部却下にしてください」が災いになった。
たった一言、僕の指示で知らない誰かが処刑とまでなったのだ。
勿論、あの当時は誰が死のうが興味はなかった。
僕にはリサを探すしか頭になかったから。
それでも、あの時、ふと、そう簡単に人は死ぬのか……と、なら僕の所に連れて来れないかなとダグラスさんに相談した結果、彼女は今でもアカバネ島で楽しく暮らしている。
本当に――あの時、ダグラスさんに彼女を助けられないかを相談した事で、結果、こういう事になり、不幸中の幸いだと思えた。
元々、サイレンス家とハイランド家は『魔道具師』輩出家として王国内でも有名だった。
しかし、『魔道具師』がそう簡単に生まれる訳もなく――。
犬猿の仲だった両家は、『魔道具師』を輩出するため、今度は手を結んだ。
そして、両家が手を結んでから生まれたのがマリエルさんとイカリくんだ。
多くの子供達の中でも二人だけ『魔道具師』になれた。
しかも、マリエルさんに関しては『上級魔道具師』と最高の結果だった。
しかし――、両家はあくまで『魔道具師』が欲しかっただけだった。
だから二人は幼い頃から、両家にとって都合の良い子供として育てられた。
特に酷かったのがマリエルさんだ。
そんな中、二人は同じ苦境だったのもあり、段々と仲良くなっていた。
歳は離れていたが、マリエルさんは姉として、イカリくんは弟として、仲睦まじく育ったという。
そして――事件が起こった。
マリエルさんの処刑。
当時、この死刑は王国内でも多くの物議を醸した。
実は、裏でハイランド家の縁切りのために、急遽決まった事だった。
そしてサイレンス家は破門し、イカリくんの絶望が始まった。
あれから五年が経っている。
イカリくんの絶望を僕が推し量る事なんて出来ない。
でもどうかこれからは、その絶望から解き放たれて欲しい。
だって――イカリくんは僕の唯一の――――――。
◇
◆十三回目のアカバネ祭りが終わった日の夜◆
「ただいま~!」
僕達は島に戻って来た。
多くの従業員達により、島では既に宴会が用意されていた。
「「「お帰りなさいませ!!!!!」」」
従業員達が僕達を迎え入れてくれた。
――そして。
「おかえり、クロウくん」
まだ少し赤くなった目のイカリくんが僕を迎えてくれた。
「ただいま! イカリくん!」
イカリくんと僕は目を合わせるとクスクスっと一緒に笑った。
「それでは、十三回目のアカバネ祭りの大成功を祝って、乾杯ー!!!」
ダグラスさんの乾杯の音頭と共に、お疲れ様会が始まった。
イカリくんはずっとマリエルさんと一緒にいたけど、少ししてペリオさんと二人きりになったのを機に、僕の方に来てくれた。
イカリくんは僕の周りを見て、「クロウくん……全然モテないって……どこが……」とつぶやいていた。
?????
イカリくんにはリサやセレナお姉ちゃんは勿論、お父さん、お母さん、お兄ちゃん達、おじいちゃん、おばあちゃんも紹介した。
あれ? しれっとおじいちゃんとおばあちゃんも来ている!
何でもライ兄ちゃんが参加すると聞いて、おじいちゃん達も見に来たそうだ。
その日、僕はこの世界で一番楽しい時間を過ごした。
家族、従業員、仲間、従魔、――――そして親友。
「皆、ありがとう」
誰にも聞こえないように小さく呟いた。
でもすぐさま皆から、「こちらこそ」と返ってきた。