170.イカリフィア
◆イカリフィア・ハイランド◆
僕は、最愛の人を『アカバネ商会』に殺された。
実際は少し違う……、厳密に言えば『アカバネ商会』が関わった所為で殺されてしまった。
あの日、あの悲しみは一生忘れられない……。
だから僕は復讐すると決意した。
僕が通っている学園アルテミス。
入学したときは同じクラスに先輩二人がいたが、僕が二年になると二人は卒業して、僕は一人になった。
次の年に後輩が入る事も期待していたけれど……残念ながら入ってはこなかった。
でも……寧ろその方が良かった。
あのとき――――五年前の復讐が出来るから。
二年生になった僕は、先輩達の卒業と同時に、とある魔道具の研究に勤しんだ。
今まで一切興味もなかった『兵器魔道具』だ。
学園では唯一の『魔道具師』だったため、色んな資料が自由に見れた。
更に、『魔道具師』の『兵器魔道具』は推奨されている事もあって、王国内の全ての『兵器魔道具』について研究する事が出来た。
三年生になるまでの間、ずっと研究していた『爆破用兵器魔道具』が完成した。
ありがたい事に、僕のハイランド家は過去数人『魔道具師』を輩出していたので、今では王国内の魔石を管理する仕事に就いていた。
こっそり大型魔石を一つ確保する事が出来た。
この大型魔石を使った『爆破用兵器魔道具』は発動させれば、一瞬で周辺五十メートルが火の海になるだろう。
これなら……あの憎き『アカバネ商会』に一泡吹かせてやれる。
僕の……こんな安い命など……くれてやる。
◇
僕の復讐する日が決まった。
あの『アカバネ商会』の十三回目のアカバネ祭の日だ。
アカバネ祭の日に、『自爆用兵器魔道具』を王都支店で放つのが目的だ。
しかも今回の祭りは王都がメインで行われるらしく、ここが一番良いタイミングだと思えた。
そしてその祭りを待っていたある日。
僕に想像だにしない事件が起きた。
その日は、落ち着かない心を落ち着かせようと、裏庭のいつもの木の下で本を読んでいた。
そんな僕の前に、ある女の子が現れた。
初めて見たとき、その美しさに頭が真っ白になるくらい衝撃を受けた。
僕は昔からよく女の子と間違われているけど、彼女はそんな僕の憂いですら吹き飛ばすかのように美しかった。
そして彼女は僕に近づいてきた。
しかし、よくよく見ると――この子、女の子じゃなくて男の子だった。
それから彼と少し話すと、すぐに意気投合した。
数日間、毎日僕達は木の下で他愛ない事を話しては笑い、時間を過ごした。
彼が大貴族のエクシア家の者だと知ったけど、彼は全くその素振りを見せず、僕とずっと仲良くしてくれた。
天使のような外見だけでなく、心まで何処までも綺麗なクロウくん。
僕みたい復讐で心が汚れている自分には、とても勿体ない友人だった。
それでも――彼と過ごす毎日が楽しくて……僕は彼を親友と呼んでしまった。
そんな彼から返ってきた言葉は「僕もイカリくんを親友だと思ってるよ!」と言ってくれた。
彼は嘘付くのがとても下手だから、それが本心からだとすぐに分かった。
こんな……。
僕なんかを……。
親友だと言ってくれた……。
あれから暫く悩んだ。
復讐か友情か。
そんな中、彼から祭りを一緒に見に行かないか? と誘われた。
それを聞いたとき、僕は今まで以上に怒りを感じた。
僕の最愛の人を奪ったあの憎き商会。
今度は……僕の親友も奪うかも知れない。
だから僕は、決心した。
やはり悪は許せないと。
僕はもうすぐ死ぬだろう。
だから――初めての親友にだけは、僕の思いを書き残す事にした。
以前から何回が渡した『手紙』。
最後の『手紙』を書いて、学園の教室にたった一つしかない僕の机の中に残した。
――そして僕は当日を迎えた。
◇
何か変だ。
アカバネ祭の日とはいえ、僕は既にアカバネ商会の王都支店の『総帥室』と書かれた部屋にたどり着いた。
ここまで、誰一人従業員がいなかった。
まるで――――誰かに誘われているかのようだった。
「闇の手」
静かな廊下にとても聞き慣れている声が響いた。
そこには――
クロウくん……。
何故君がここに……。
どうして……。
「それはね、君が目指したその部屋の持ち主が――――、僕だからだよ」
う、嘘だ!!
君が、君のような人が……。
こんな悪の商会の総帥だなんて!
お願いだ、どうか嘘だと……言ってくれ……。
「どうする? イカリくん、僕を……アカバネ商会のオーナーである僕を殺すかい?」
僕は流れる涙にどうする事も出来なかった。
だって……クロウくんは……僕の……唯一の――――――。
◇
「ありがとう。イカリくん、僕を信じてくれて」
クロウくんが僕を見つめながら笑ってくれていた。
「だから、一つだけお願いがあるんだ。聞いてくれない?」
僕は頷いて返した。
「一人、会って欲しい人がいるんだ。だから僕と一緒に行こう?」
どうやらクロウくんは、僕に会って欲しい人がいるみたいだ……。
もう僕にはどうする事も出来ない……、素直にクロウくんの指示に従った。
そして彼に誘われるまま、『総帥室』に入って行った。