156.白熊の家
マグノイア街を散歩して、そのままおじいちゃんの屋敷へと向かった。
エドイルラ街にあるうちの屋敷より大きい!
屋敷の前で僕がポカーンとしていると、屋敷の向こうから執事さんやメイドさんが走ってきた。
「「「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」」」
綺麗に整列して全員完璧な動作で挨拶をした。
「うむ、今日は孫が来たのだ。ディアル! 宴会の準備をしろ!」
「はっ、かしこまりました。旦那様」
執事さんやメイドさんたちは、水のようにサラサラと屋敷の向こうへ消えて行った。
動きが凄く綺麗だけど……あの人達って普通の執事さんやメイドさんではない気がする。
「クロウティアや? どうかしたのか?」
「えっと、彼らの動きが凄く綺麗だな~って思いまして」
「ガハハハッ、それもそうだろう、あやつらは元々儂の部下達じゃ」
部下? 確かに全員年齢層が随分上だとは思ってはいたけど――。
「元々は騎士達だよ。年を取って騎士を辞め、ここで執事やメイドをしながら新人騎士達の訓練の相手もこなしておる」
「凄い!」
「そうじゃろ! あやつらは儂の自慢の部下達じゃ」
おじいちゃんがご機嫌になって屋敷に入っていった。
◇
屋敷内はとても綺麗で、多くの武具が飾られていた。
確かブレイン領の象徴は『力』だと聞いているから、そういう事なのだろう。
そして、屋敷の向こうへ移動する途中、屋敷の中央庭を通った。
庭は半分以上が訓練場みたいになっており、騎士達が訓練していた。
そしてその中に――、とても見慣れた人を見かけた。
「え!? まさか……」
濃い青い髪と周辺に放っているオーラの雰囲気――、あの人は!
「ライ兄ちゃん!!!」
僕の叫びで訓練中にも関わらず、驚いてこちらに振り向いた。
うん! やっぱりライ兄ちゃんだ!!
そして僕はライ兄ちゃんに飛び込んだ。
「え!? クロウくん!? 何故ここに!?」
「ライ兄ちゃん! どうしてここに!?」
ライ兄ちゃんと同じ事を聞いてしまった。
先輩騎士さんから一度休憩だと言って頂いたので、そのままライ兄ちゃんとおじいちゃんとで三人になった。
「――――――、という事で僕は現在お祖父様の騎士団に所属しているんだよ」
どうやらライ兄ちゃんは学園を卒業して、ブレイン領の騎士団に入団したようだ。
ライ兄ちゃんは長男なので永続入団ではなく、期間限定の入団だという。
ライ兄ちゃんとは卒業してから何度も会ってはいたけど、どこで何をしているかまでは聞いてなかったから新鮮な気持ちだった。
「ガハハハッ、ライフリットも今日のクロウティア歓迎の宴会に参加すると良い」
「お祖父様、分かりました。では後程訓練が終わったら向かいます」
「うむ、頑張って励むのだぞ」
「ライ兄ちゃん頑張ってね! あ、ついでに補助魔法上書き――、よし」
ライ兄ちゃんは苦笑いをしながら、こちらに手を振ってくれた。
うん、ライ兄ちゃんは爽やかイケメンだ。
うちのお兄ちゃんカッコいい!
◇
おじいちゃんに連れられ、屋敷奥の広い部屋に到着した。
既に幾つもの料理や飲み物が並んでいた。
しかし、椅子は四つしかない。
すぐに奥から一人の女性がこちらに歩いてきた。
とても綺麗な方で、派手過ぎない綺麗な衣装も相まって優しそうな印象だった。
「貴方、そちらは?」
「ガハハハッ! この子が小僧の末っ子のクロウティアだ!」
「まあ! 本当ですの!?」
そう言いながら、彼女は僕に寄って来た。
そして――――。
抱き締められた。
暖かくて優しい匂いがする。
抱き締めたまま、女性が話した。
「初めましてー、私はエマ・ブレイン。貴方の母、フローラの母です」
僕のお母さんのお母さん!?
つまり――――、おばあちゃん!
「初めまして! クロウティアです! おばあちゃん!」
「まあ! 何て可愛らしい子なの!」
「ガハハハッ! エマよ、実はのう、クロウティアが儂の長年のあの病気も治してくれたのじゃ」
「えっ!? 貴方! それは本当ですの!?」
――おばあちゃんから更に抱き締められた。
◇
食事が始まった。
おじいちゃん、おばあちゃん、ライ兄ちゃん、僕の四人だ。
どの料理も美味しい――が、流石に島の料理の方が美味しいね。
「そう言えば、クロウティアくんは、どうして今まで表舞台に出てこなかったのかしら?」
おばあちゃんがそう尋ねてきた。
「僕の職能が『賢者』だから、成人するまでは秘密にしてました! 学園でバレてしまったので今は『ロード』クラスですけど……」
「まあ! あの学園の『ロード』クラスだなんて凄いわね! 確かセレナディアも『ロード』クラスだったわね! ライフリットくんもとても強いし、フローラの子供達は皆偉いわ」
おばあちゃんは誇らしげに笑ってくれた。
なんたって僕達のお父さんお母さんは、最高のお父さんお母さんだからね!
「おお、そうだ、クロウティアや、エマにもあれを話しても良いだろうか?」
おじいちゃんがそう尋ねてくれた。
きっと、アカバネ商会の事なのだろう。
オーナーである僕をあまり大っぴらにしたくない事は既に伝えていたからだ。
「勿論です! おばあちゃんも家族ですから!」
おじいちゃんは嬉しそうに笑って、僕がアカバネ商会のオーナーである事をおばあちゃんに話してくれた。
アカバネ商会の皆さんには、おじいちゃんおばあちゃんに全面的に協力するようお願いしておいた。
ただ……もし商会を悪用するようであれば、従業員達を守るために対処しなくてはならないのでその点も伝えておいた。
おじいちゃんおばあちゃんと同じくらい従業員達も大事だからね。
それと『次元扉』や島への出入り許可も出したので、これからはいつでもお母さんと会えると二人共とても喜んでくれた。
長いようで短かったおじいちゃんとの時間は終わり、おじいちゃんには補助魔法バリアを最大限に掛けてから、僕は島に帰って行った。