155.白熊の帰還
次の日――。
朝食を食べ終え、おじいちゃんと僕は島の散歩に出た。
「そう言えば、小僧達は何処に行ったのじゃ?」
ふと、おじいちゃんが口にした。
「お父さんとお母さんはエクシア領に戻りましたよ?」
「ん? エクシア領に戻った? ふむ、確かに王都からは遠いからの」
「いえ、ここは僕の島なんで、王都全土何処でもすぐ行けますよ?」
「???」
「あそこの建物に『次元扉』があるんです」
「???」
僕が指さした建物は島の『入口』だ。
中には『次元扉』があり、王国全土何処にでもすぐ行ける。
勿論、屋敷内にも『次元扉』があるので、屋敷からでも行けるけどね。
おじいちゃんがポカーンとしていると、入口用建物の扉が開き、中からダグラスさんが出てきた。
「なっ!? あやつは!?」
「なっ!? 貴方様は!?」
おじいちゃんとダグラスさんがお互いを見て驚いた。
「あれ? おじいちゃん、うちのダグラスさんと知り合いなんですか?」
「知り合いも何も……あやつはアカバネ商会の会頭なのじゃ!」
「ブレイン様、ご無沙汰しております」
「ふん、久しぶりじゃの、まさかこんな所で出会うとは思わなんだ」
「はい? 寧ろ……ここにいらしたという事は……ん?」
ダグラスさんが僕を見つめた。
「オーナー?」
おじいちゃんが驚き僕を見つめてきた。
「おじいちゃん! アカバネ商会は……、僕の商会ですよ?」
おじいちゃんが声にならない声で何かを叫んでいた。
◇
「まさか……あの『アカバネ商会』が……自分の孫の商会だったとは……」
漸く、落ち着いたおじいちゃんが肩を落としていた。
「なるほど……オーナーのお母様はブレイン辺境伯様のお嬢様でしたか――」
おじいちゃんはブレイン領の現辺境伯様だ。
そしてお母さんはそのおじいちゃんの娘で末っ子だという。
娘は一人だけだそうだ。
お母さんも生まれてからずっと大事に育てられたので、ブレイン辺境伯の娘なのは、広く知られていないそうだ。
職能開花でとんでもない職能が開花してしまって、匿ってしまったのが大きな原因だろう。
そう考えると……僕も匿っていたから、お母さんと僕って似た者同士なのかも知れない。
「ダグラスさんはおじいちゃんとどういう知り合いなんですか?」
「はい、エクシア領との契約が発表されてから真っ先に契約の話しを持ち込んでくださったのが、こちらのブレイン辺境伯様でございます……が、オーナー? 一応報告はしていたはずですが――」
「あう……、あの頃は魔道具作りに集中していましたから……」
うん、全然覚えていません……ごめんなさい。
「なぬ!? クロウティアや、まさか『アカバネ魔道具』もクロウティアが作っておるのか?」
「そうですよ!」
おじいちゃんが天を仰いだ。
仕草がお母さんそっくりだった。
「あ、思い出した! 確かダグラスさんから一番早くに全面的に良い契約を持ち込まれて、領民を大事にしている辺境伯様だと!」
「ええ、そうです。アカバネ商会としての利益はそれほど高いモノではありませんでしたが、領民を一番大事にしたい内容の契約でしたから、迷う事などありませんでした」
「くっ、良く言ってくれるわい、アカバネ商会の安さと早さがあればこそだわい」
おじいちゃんが少し照れていた。
「その後、何度か面会しまして、色々注文を多く頂きました。因みに、『シャワー』を一番多く設置なさっている領がブレイン領でございます」
「あ~! 確か各施設だけではなくて、領民用にも多く設置していましたね」
「はい、その通りでございます」
おじいちゃんがこそばゆそうにしていた。
「あの『シャワー』は今までの魔道具の中で一番画期的なモノじゃろうて、しかも数十秒水浴びしただけですぐに綺麗になれるのじゃ、領民達にも多く使って貰うのは当たり前だのう」
ブレイン領は『力』こそが全てと言われているけど、それは『力』で支配するという意味ではない。
『力』ある者が多くを守る事――だろう。
「おじいちゃんは、領民を大事にする辺境伯様なんですね! おじいちゃんの孫で嬉しいです!」
「領主として当たり前の事じゃ、そう褒めるモノでない」
それからおじいちゃんに『次元扉』を見せた。
僕はまだ一回しか行った事のない、ブレイン領都アグノイア支店にやってきた。
『次元扉』部屋から僕とダグラスさんに続き、おじいちゃんが一緒に出て来たからアグノイア支店は少し混乱状態に陥った。
おじいちゃん凄く優しいけど……外見は怖いからね。
支店の外に出たおじいちゃんは、
「本当にアグノイア街だのう……長年色んな魔道具を見てきたけど、アカバネ商会の魔道具だけは理解出来んわい」
とぼやいていた。
確かに色んなモノを作って来たからね。
そして、おじいちゃんとアグノイア街を散歩した。
街内はとても活発で、領民達も楽しそうにしていた。
エクシア領の町々も中々活気が良いけど、この街も中々に活気が良かった。
おじいちゃんがそれ程に領主として優れている証拠なのだろう。
「どうじゃ、クロウティアや。儂の自慢の領民達じゃ」
「はい! みなさん元気良くて楽しそうで活気のある街で凄いです!」
おじいちゃんが少し照れながら、ガーハハハッと笑ってくれた。