153.白熊と訓練
「儂は……もう……戦えないかも……知れん」
「馬鹿を言わないで、クロウと稽古してみてください!!」
おお~お父さんのツッコミ、初めて見た気がする。
どうやら稽古相手交代のようだ。
「クロウ、お義父様と稽古よろしく頼む、『闇の手訓練』でね」
お父さんからわざわざ指定された。
最近あまり使わなくなった『闇の手』がいいみたいだ。
おじいちゃんに近づくとおじいちゃん少し震えていた。
「あれ? おじいちゃんどうしたんですか?」
「ぬっ!? クロウティアや……儂はもう戦えないかも知れん……」
「えええええ!? 何でですか!?」
「…………痛いのじゃ」
あ……、うん。
「闇の手」
そして僕が十本の闇の手を呼び出した。
「ぬっ!?」
そしてそのうち一本を……思いっきりおじいちゃんに叩き込んだ。
ドガーーーン
凄まじい音がした。
驚くおじいちゃん。
しかし――。
「あれ? 痛くないわい」
「はい、この手って見かけだけなんで、痛みとか一切ないんですよ」
僕のスキル『超手加減』のおかげで、ダメージを0のままに出来るのだ。
「おじいちゃん、これなら稽古出来そうですか?」
「うむ、これなら大丈夫だ」
「はい! では思いっきり来てください!」
「ぬっ!? 儂から行くのか? 分かった!」
そしておじいちゃんが大型木剣で僕の闇の手に打ち込んだ。
「ぬあっ!? ビクとも……しない?」
僕は闇の手を更に二本追加しておじいちゃんに優しく叩き込んだ。
「ぬあああああ」
驚きながらも素早く対応するおじいちゃん。
しかし、残念でした! 僕は既にお父さんとお姉ちゃんとの稽古で経験済みである!
もう一本伸ばした闇の手でおじいちゃんの側面を強打。
そして、追いついた三本で更なる追い込み打ち!
おじいちゃんは何やら「剣技!」とか叫んで色々試していた。
おじいちゃんってやっぱり物凄く強いのかな? お父さんとお姉ちゃんでも『闇の手』を四本も出すと完封出来るのに、おじいちゃんはちゃんと対応出来ていた。
よし、追加でもう二本追加だ!
バシンバシンバシンバシン
ドカーンドカーンドカーン
僕の闇の手がおじいちゃんを叩く音が訓練場に響き渡った。
◇
◆アグウス・エクシア◆
お義父様……ご愁傷さまでした……。
長年患っていた病気が回復して、痛みを直に感じるようになって、いきなり「痛い」とか言い出すモノだから、ちょっと意地悪してクロウに『闇の手訓練』を頼んだ。
あ……最初は三本か……。
流石はお義父様……三本をここまで捌けるなんて。
あ――もう一本追加か……。
もう追加とは早かったな……。
それでもお義父様は奮闘して――。
更に二本追加!?
あれを六本も相手出来るなんて……。
あの訓練の何が凄いって、全く痛みがない所だ。
どれだけ叩かれようがちっとも痛くない。
当たった感触はきちんとある。
しかし、痛くないのだ。
そして……あの音だ。
当たる度に痛みがない代わりに、当たった感触と一緒に響き渡る音。
あの『闇の手』は鞭のように攻撃してくる。
その速度が尋常じゃないくらい速いのだ。
その速さを数本相手にするのは…………地獄だ。
そして、防ぎ切れなかった闇の手は身体に当たる度に大きな音を発生させる。
もういっそのこと……痛い方がマシだと思えるのだ。
ああ……お義父様の動きが少しずつ遅くなってきている。
あれを六本も相手出来るなんて……流石はグランセイル王国最強騎士だ。
大陸内で一二を争うと言われているお義父様。
そんなお方が……たった十二歳の子供に手も足も出ないなんて……。
あんなに強い攻撃魔法を使いながら、更に複数の魔法を同時に使えて、身体能力も高い……。
一体僕の息子は何処まで強くなれるのだろうか?
寧ろ……大陸全土の騎士を集めても勝てるのだろうか?
考えただけで末恐ろしい。
そしてお義父様の動きが完全に止まった。
ああ……燃え尽きたんですね。
分かりますよ、分かりますとも! 僕だって……何度もあれにやられたんですから!!
ですけど……お義父様…………残念ながら……それで終わりじゃないんですよ……。
あ……やっぱり……あれやるのね……。
「エクスヒーリング!!」
出た――訳の分からない魔法その二。
『エクスヒーリング』とか聞いた事もないし、フローラも聞いた事ない魔法だそうで。
何やら両手から赤い光の玉と青い光の玉を合わせて回復させる魔法らしいけど……。
フローラとも話したけど、あれはクロウが無詠唱を気にしただけの、テキトーに魔法名を言ってるだけではないかと結論付いた。
あ……お義父様が一瞬で元気になられた。
あれの恐ろしい所は……今までの疲れ全てを否定されるかのように、全回復する所だ。
そして……二回戦……。
見てるこちらが胃が痛くなってきた。
クロウには……『手加減』という言葉を教える事にしよう。
でも僕があのクロウに言えるのだろうか……。
クロウティアの禍々しい姿を見て、恐れ入るアグウスだった。